迷宮攻略2



「ねぇ、皆! こっちに新しい通路が有るよ! 本物っぽいけど、その壁は幻術か何かだね」


 壁の向こうから聞こえる翔哉の声に促され、三人は意を決して次々と壁の向こう側に飛び込んで行く。


 その先には、今度は左右に延びる通路が出現していて、正面の壁には下向きに矢印が描かれていたいた。


 アスは翔哉に質問する。


「これって今度はどう言う意味だがわかる?ショウヤ」


「うん、たぶんこの場合、左は不正解だね! 反対側には何も書いてないでしょ?」


 今度はメルが反応する。


「あっ、本当だ! て事は幻術の壁には矢印が書かれないって事だから、矢印の無い壁を探せば先に進めるって事になるよな?」


 その意見に対して、翔哉は自分の見解を述べる。


「う~ん、そのやり方だと、ひょっとしたら一度通った所にまた入っちゃうかも知れないよ? それよりも詩に有る内容に従った方が確実かも!」


 少し右に進み右側の壁を見ると、今度は矢印が右を指し示していた。


 メルはまた翔哉に質問する。


「じゃあ、これは? どう言う意味だって言うんだ?」


「たぶん次の曲がり角とかが現れた時に、行く方向を指し示しているんだと思う」


 翔哉の意見に従い通路を進むと、今度は左右に別れるT字路にぶつかる。


「あれ? 壁には何も書いてないぞ!」


 メルはそう言って試しに手を入れてみると、やはり壁は幻術のようで彼女の肘から下までが通ってしまう。


「キャウッ!!」


 急に叫びだしたメルが引っ込めた腕は、血塗れになり宙ぶらりんとなってしまっていたのだ。


「メル!!『キャッ! メル~ッ!』メルどうしたにゃ!? それは!?」


 三人は同時にそう叫ぶ!


「ちっ! やっちまったな! 私とした事が不用意だったよ」


 メルがそう言うと、彼女の肘から下はボトッと床に落ちてしまった。どうやら皮一枚で、かろうじて繋がっていただけだったようである。


 彼女の血塗れの腕を拾う翔哉。


 メルは言う。


「ハーピークイーンみたいに自動再生なんて持って無いから、くっついたりはしないぞ? それよりも早く止血してくれないか?」


 しかし、そんな彼女の言葉を無視して、血が絶え間なく吹き出す右の二の腕を取り、ちぎれた肘から下を接合する翔哉。


「んっ! ううんっ!」


 少しだけ苦悶の表情をするメル。彼女の全身は、淡く青白い光りに包まれていた。


「どう? ちゃんと動く?」


「う、うん...ちゃんと動かせるみたいだよ! ありがとうショウヤ」


 ニケは驚愕して叫ぶ。


「凄いにゃショウヤ! 切断された腕をくっ付けちゃったにゃか?」


 アスも言う。


「ひょっとして、これが再生のスキル? という事は私にも出来るって事ね!」


 続いてメルも翔哉に対して質問する。


「これだけ瞬間的に接着してしまうくらいだから、欠損した部位を生やしたりとかも出来そうだな?」


「う~ん、どうかなー? 出来そうな気もするし、まだ出来なさそうな気もする。メル、もう一度、手を入れてみて試してみる?」


「ショウヤ、けっこうブラックジョーク好きなんだな......笑えないぞ?それ......」


「あはは...笑えない冗談言っちゃってごめんねメル」


 実は一瞬、本気で言っていたなんて今さら言えない翔哉。勿論アスに対してだったなら、こんな事は言わないだろう。


 しかし、確認をするには試してみるのが一番である。


『試すのはまた今度の機会にしよう』


 心の中で独りそう言ちる翔哉だった。


「こう言うトラップも有るから気を付けないとだな!」


 メルはそう言って皆に警戒を促すが、三人はお前が言うなよ、と言った感じで彼女にジト目を向けていた。


 翔哉の説を纏めると、矢印の向きが次の壁にぶち当たった時に行く方向であり、その壁に向かって上は直進、右は右、左は左、そして間違った方に進んだ場合だけ下を表示するのではないか? と言う事だった。


 壁に記しがない事だけを頼りに進んでしまうと、一度来た道を戻ってしまったり、今のようなトラップがその先に用意されているかも知れないので、矢印の指示に従うのが正しい選択だろう。


 そう考えると、答えを教えてくれているわけだから、逆に親切なトラップと言えるかも知れない。


「万が一の事が有るかも知れないから、次に幻術の壁を通る時には、先に剣や槍を入れてみて安全を確認してから通るようにしよう!」


 翔哉の意見は尤もなので全員が頷く。


『私が一番お姉さんなのに、このままじゃ立場がないな......』


 メルは頷きつつも心の中でそう思い、危機感を募らせていた。


 翔哉の説はどうやら正しかったようで、一行は順調に先へ進めているようだった。


 そして、今回も矢印の指示に従い潜った幻術の壁の先には、今度は床に前方を示す矢印が描かれた、真っ直ぐに延びる通路が出現したのである。


「矢印が床に現れし時は、左右の壁から聞こえる声に注意せよ。その先の扉の向こうでは聞いた声に従うか抗え。迷えば死有るのみ」


 メルの語る詩の内容に翔哉は反応する。


「今回はけっこう長いね! しかも、迷ったら死ぬって、今までに無いくらいかなり具体的だね?」


「とりあえず進んでみよう!」


 具体的とは言え実際は想像も付かないので、メルはそう言って皆に先に進むように促す。


 しばらくすると、何故だか皆一様に黙り込んでしまう。


『アスを殺したいだろ? メルはああ言うけどさ~。殺っちゃえよ! そしたらショウヤはお前の物だぞ? 嫌われる? どうだかな? 一人放逐されて不安な状態で初めて会った女が、たまたまアスだったってだけだろ? お前の方が良い女だから、ショウヤだってすぐにお前の方に靡くさ!』


『ショウヤって年下のクセにちょっとムカつくよな? 大切な妹分のニケを傷付けてばかりだし。ろくに訓練もしないであんなチートな能力を持ってるし。でも、自分の物になるって言うなら可愛がってあげなくも無いよな?』


『人間は敵だよな? ショウヤだって本音は、同じ人間じゃないお前の事を気持ち悪がってるんだぜ? 仲間の所に帰る事が出来たら、力を付けた今のショウヤを仲間だって歓迎するし、彼も人間の女の方が良いに決まってるさ!』


『ねぇ、ショウヤ......実は私、あなたの事それほど好きじゃなかったみたいなの! ごめんね。やっぱり人間の男なんて私には無理みたい! 何で今まであなたに対して、ドキドキしていたのか不思議だよ!』


「な、なぁ...皆、何か聞こえてるのか?」


 メルが意を決して口を開く。


「えっ? えっとー。う、うん。確かに何か、聞こえてるみたいだね......」


 翔哉の言い様に、メルは突っ込みを入れる。


「みたいって何だよ! そんな他人事みたいに言うなよな! 何て聞こえてるのか言ってみろよ!」


「えっ? 言わなきゃダメ? 何かあまり言いたく無いかも......メルの方こそ何て聞こえてるの? 言ってみてよ?」


「えっ!? えっとなー。い、言いたくない! かも......」


 アスは言う。


「皆、各々、仲間に対して言いたくない事が聞こえてるみたいだね?」


「皆、聞こえてる内容は違うのにゃか?」


 ニケの質問にアスは答える。


「うん、たぶんね! 各々の心の不安や疑念に、付け込んだ事を言ってきてるんだと思うよ!」


 そして、アスは全く物怖じする事もなく、その内容を皆に伝える。


「対策を練らないといけないから、ちゃんと内容を伝え合いましょ? 因みに私が言われている内容は、ショウヤの本音は人間じゃない私の事を気持ち悪いと思ってる。本当は人間の女の方が良いに決まっている。だってさ! 笑っちゃうわね?」


 彼女が堂々と内容を話した事に翔哉は勇気付けられ、彼も自身の内容について語り出す。


「僕はアスの声で、実はあなたの事それほど好きじゃなかったみたいって、ずっと聞こえてきてるよ! 人間の男なんて私には無理! とも言っているね」


「うふっ! ますます笑っちゃう! 私自身がそんな事、微塵も思ってないんだもん! 完全に各々の心の不安に付け込んでいるだけだね? ショウヤだって私が言った事と同じ事、微塵も思ってなんかいないよね?」


「うん、勿論だよアス! 僕にとって一番大事なのはアスだけだよ! 今更、例え歓迎されたとしたって、あんな奴らの仲間になんか戻りたく無いよ! そう言う意味ではメルとニケも、もう大切な仲間だよ!」


 そう言われたメルとニケは、少しだけ迷った素振りを見せたものの、自分達の内容についても語り出したのだ。

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