神殿に向かいながら



「やっぱりさっきの攻撃は、死亡判定だったんだね! しかも10回分って」


 確実にそうだろうと思った翔哉は、すぐに自身のステータス確認を行い驚愕していた。


 何故ならば死亡判定だった事は間違いなかったのだが、加護レベルが一気に10下がって、天恵レベルが10上がっていたのである。初めての現象に驚くのは無理もない事だろう。


 相手の攻撃の威力によっては、そのような現象も起きるとわかった事も驚きだが、千年間、魔力を貯めていたとは言え、ハーピークイーンの強さも尋常では無かったと言う事が改めて浮き彫りになった形だ。


 以下、翔哉のステータス情報。


名前 涼森翔哉  年齢 16歳  天職 女神の使徒


天恵レベル15


腕力 23(4,523)


敏捷 24(4,524)


体力 45(4,545)


神気 4,500


神気操作 1,500


アクティブスキル


神速レベル10 剛腕レベル10 剣気レベル20


気配感知レベル5 防御結界レベル10 再生レベル10


天脚レベル5 制限解除レベル20


パッシブスキル


女神の加護レベル9,984 全状態異常耐性レベル10


全属性耐性レベル7 自動再生レベル3



「マリーザの使徒やハーベの使徒も、ステータスを見る事はできると聞いていたが、初めて見たけど我々、地獄の代行者とはちょっと表示内容が異なるみたいだな」


 そう言って、ハーピークイーンも自身のステータスを開示する。


 以下、ハーピークイーンのステータス情報。


名前 ケラエノア  年齢 1,582歳


所属 ハーデスの使徒


魔物種別 ハーピー(女王)


魔物レベル8,773


腕力 223(4,119)


敏捷 658(4,554)


体力 1,256(5,152)


魔力 3,896


魔力操作 1,820


アクティブスキル


風牙レベル7 窃盗レベル7 槍術レベル15


赤色魔球レベル20 魔力変換レベル20


魔力抑制レベル6,000


パッシブスキル


全状態異常耐性レベル2 全属性耐性レベル2


自動再生レベル2



 ハーピークイーンのステータスを見た翔哉は、ある事に気づく。


 自身のアクティブスキルである制限解除レベルの数値が、天恵レベルがアップする数値なのだとして、現在は基本状態で10レベル上がった状態なわけだから、今回の死亡判定でパワーアップする前に制限解除を使った状態と、今の基本状態は同じ強さだと言えるわけだ。


 彼女のステータスと自身の現在のステータスに、それほど大きな差はない。


 したがって、基本状態でのそれと、瞬間的な状態でのそれとでは、翔哉が勝つ事ができなかったのも当然の話と言えば当然の話である。


 一行が出発しようとした時、ハーピークイーンは少し気まずそうに言う。


「あの、ちょっとお願いが有るんだが」


「ん? お願いって何かな?」


「悪いんだけど、斬り落とされた翼を持って来て、傷口にくっ付けてもらえないか? 欠損した部分は自動再生しないもんでね」


「翼を付けちゃったらまた襲いかかって来ない?」


「襲ったりしないと誓うさ! 魔物は約束だけは絶対に守ると決まっているのでな」


「じゃあ、神殿に着いたら付けてあげる! それでどう?」


「それだと傷口が塞がってしまうだろ? 今だって魔力を使って、逆に自動再生を抑制するように必死なんだ! 頼むから傷口が新鮮なうちに付けてくれないか!?」


「僕の彼女のアスは相手の殺気とか、戦闘の気配とか、すぐにわかるからね! 少しでも可笑しな動きをしたら、今度は翼だけじゃなく、足も切り離しちゃうよ?」


 そう言った翔哉は、渋々ハーピークイーンの切り離された両翼を手に取り傷口に接合すると、彼女の胴体側から触手のような物が多数うねり出し、翼と胴体は殆ど跡も残らずに接着してしまったのだ。


 翼が元に戻ったところで、ハーピークイーンを先頭に歩き出す一行。アスは彼女に質問する。


「魔力を使って、スキルの作用を抑制する事も出来るんだね?」


「ああ、全体的な力の抑制なんかも出来るぞ! 覚えると相手に弱いと思わせる事が出来るから便利だ! 能ある鷹は爪を隠すって言うだろ?」


「確かに私の気配感知でも、あなたの真の力まではわからなかったわね!」


 続いて翔哉も質問する。


「それってステータス表示にも反映されるの?」


「それはまた別のスキルだな! 隠蔽とか何とか、そんな感じの名前のスキルだと思うぞ。どうせ他の者にステータスなんて見せる機会も滅多にないわけだし、あまり意味の無いスキルだと思うけどな」


「そもそも自分が欲しいスキルって、後天的に習得する事ってできるのかな?」


「修行すれば後天的に身に付く物も有るけど、特殊な、ユニークスキルみたいなやつだと、先天的な要因や恩恵(ギフト)として与えられるかしか無いだろうな」


 さっきまで殺し合いをしていたはずのハーピークイーンだったが、質問すれば意外とホイホイ答えてくれる彼女に対し、四人とも不思議な感覚になる。


 恐らく彼女は他者からいろいろ聞かれた事を、得意気に話す事が好きな性格なのであろう。


 しかし、魔物と会話するなんて機会も滅多に無いわけだし、今のうちに聞ける事は聞いておこうと思った翔哉達は、この後、目的地に到着するまでの間、彼女を質問責めにするのだった。



 途中、蛇女(ラミア)や蜘蛛女(アラクネ)などの生息地を通る度に美味しそうな目で見られる四人だったが、一応この空間の頂点に君臨する女王鳥人間(ハーピークイーン)が同行している為、特に襲われるような事もなく無事通り過ぎる事ができた。


 大蜥蜴や大蛇のような、知能が低く好戦的な魔物は襲いかかって来たのだが、それらはただ、ハーピークイーンの餌食になるだけであった。


「美味いからお前達も食ってみろ!」


 彼女にそう勧められたが、魔物の肉を食べるなんて気持ちが悪かったので、翔哉達はやんわりとお断りして干し肉を食する。


 食事中に翔哉は、再びハーピークイーンに対し訊く。


「魔物同士なのに喰い合いするってどうなの?」


「地獄や魔界では弱者は餌になる。これは常識だぞ?」


「ふ~ん。ところで、地獄の代行者ってそもそも何なの?」


「この世界にいる魔物は、皆そう言う事になっている。要は他の世界も、地獄や魔界に変える為に送り込まれてきた存在の総称だな」


 その答えに対してアスは疑問を述べる。


「送り込まれてきたってどう言う事? 魔物は瘴気によって魔物化するって聞いた事あるけど?」


「私達のような知能が高い上級の魔物は、直接、地獄や魔界から送り込まれて来る場合も有るし、そもそも瘴気自体が魔界の意思のような物だからな。それに長時間当てられれば、魔物化するのは当たり前の話だ!」


「なるほど、そう言う事なのね。ところで、あなた達はどうしてこの空間に住んでいるの? 世界を地獄に変える為のお仕事が有るんじゃないかしら?」


「私達だって元から好きで、ここにいるわけじゃないさ。マリーザの奴に、この空間を守護する目的で閉じ込められてしまったんだよ。まぁ、今では居心地が良いので、この場所も気に入ってはいるんだけどな」


“神や悪魔の間にもいろいろ有るのね”と思いつつも、更に質問を続けるアス。


「地獄の代行者達の間には、リーダーみたいな存在はいないのかしら?」


「強いて言うなら、魔王がそのポジションになるだろうな。奴らは大概、指令系統が違うから、私達は基本的に従う気はないのだけどね」


「魔王の指令系統って?」


「まぁ連中は大体、悪魔王のサタンやルシファーがボスだな。因みに私はステータス表示にも有った通り、冥王であるハーデス様の使徒だ!」


「何だかそんな話を聞いていると、この世界に住む種族って皆、神々や悪魔達の間で踊らされてるだけみたいに感じるわね......」


「まぁ、正直な話、そう言う事で合っているぞ。我々は皆、所詮は物質界における駒に過ぎんのだ」


 メルは言う。


「だから建前上は信じる神の為って言ってるけど、実際は皆、種族の為に戦っているんだろ?」


 トレントの時と言い、メルはけっこう冷めているというか、達観した意見を言う傾向に有るようである。


 何だか変な空気になってしまったと感じた翔哉は、皆に出発を促す。


 目的地は近い。彼らの前方には、まだ豆粒ほどにしか見えないが、白銀色に輝く建造物らしき物が見え初めていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る