ハーピークイーン



 メルとニケは驚愕のあまり言葉を失っていた。それもそのはず、アスのピンチと悟った翔哉は、まるで空中に踊場でも設置されているかのように、ジャンプを繰り返しながら一気に上空まで駆け上がって行ったのだ。


「お、己れーっ! 私の可愛い子供達を全て殺したな! ゆっ、許さんぞーっ!」


 他の鳥人間達よりも倍くらい大きな一体だけは、生き残っていたようで、翔哉に対してそう恨み事を言う。


「勝手な事を言わないでよ! あなた達がいきなり問答無用で襲いかかって来るから、僕達は自分の身を守っただけなんですけど?」


「うるさい! 食い物の分際で何を言うのか! 獲物は獲物らしく、大人しく狩られれば良いのだ!」


 話が通じない相手と見て取った翔哉は、剣を構え戦闘態勢に入る。


「アス! 僕がやるから離れていて」


「ショウヤ気をつけてね! それと殺しちゃダメだよ! 神殿の場所を聞かなきゃ」


「うん、わかっているよ! 任せて!」


 神殿の場所と聞いて、鳥人間は明らかに苛ついた様子で言う。


「やはりマリーザの使徒共だったのか! 忌々しい奴らめ! 千年くらいここにやって来る事は無かったが、外界でまた何か有ったのか?」


「人間達と大規模な戦争になりそうなんだ。もし、そんな事になったら、この場所にも被害が及ぶかも知れないよ?」


「ふん! そんな事、我々にとっては関係ない話だな! それにもし、そうなればなったで、逆にやって来る人間達を食い放題だ!」


「人間って美味しいの?」


「美味いさ! 一番、魔力が上がるしな!」


「じゃあ、普段は何を食べてるわけ?」


「我々よりも下級の魔物だ。下級の魔物達は、数だけ多くて弱い生物達を食っている。この空間にも一応、生態系は有るのでな」


「へぇ~! 魔物って食べる事で魔力が上がるんだ~」


「もう良いか? 私が他のハーピー達と同じだと思うなよ! 千年前のようにはいかないからな! 長きに渡り増幅させてきた我が魔力を見せてくれよう!」


 そう言うと大型の鳥人間は、他の者達が持っていた槍よりも倍以上長い槍を掴んでいる脚を上げて、構えるようなポーズを取る。


 翔哉はその動きに呼応するように、アンチマテルブリンガーに神気を込めながら、上段に構え迎撃態勢に入った。


 彼が自身の前方に複数の薄い光の膜を展開したのを合図に、翼をはためかせ、超高速で突進して来る鳥人間。


 翔哉もまた、前方に張った光の膜を足場に、向かって来る鳥人間に対し突進する。


 一合目の激突により強烈な火花が発生し、その光が辺りを照らす。


 激突した衝撃により、お互い数十メートル後方まで弾き返されるが、翔哉は弾き返された方向の後ろに光の壁を展開し、それを足場にして再び鳥人間に向かって突進する。


 二合目、三合目と同じ事を繰り返す両者。


「こいつ、物凄く強い!」


 翔哉は独りそう言ちる。


「この私と互角に打ち合うとはな! 正直、驚いたぞ!」


 鳥人間も同様に、翔哉の強さを認めているようだ。


 更にその後も十数合、打ち合う両者。


「天脚がまだ上手く扱えないから、どうしても踏み込みが甘くなっちゃうね!」


 そう言うと翔哉は前方におびただしい数の足場を展開し、今度はステップするようにして鳥人間に迫って行く。


 次の打ち合いは、今までの比ではないくらいの激しい閃光を放った。


 両者は再び距離を取ったところで、各々が言ちる。


「くっ! ここまでとは!」


「一か八かアレをやるしかないかもね!」


 翔哉はそう言うと制限解除を発動した後で、先程と同様に前方に足場を展開し突進する。そして彼の行動と同時に鳥人間は叫ぶ。


「魔力開放!」


 内に秘めた魔力を開放した鳥人間の体からは、強烈な瘴気が吹き上がった。


 極超音速で突進し最大の力を込めて放った翔哉の斬擊と、瘴気の気流を纏った鳥人間の槍が激突する。


 激突面を境にどす黒い赤の光と、青白い光の壁が発生し両者を分けるようにぶつかり合う。


 それはまるで、彗星同士が衝突したかのようでもあった。


 激しい閃光が収まると、鳥人間は再び距離を取り次の行動に移る。


 翔哉はかろうじて作り出した光の膜の足場に、両手をついてへたり込んでいるようだ。


「なかなか良くやった方だが、今ので力を使いきったようだな! これで終わりだ!」


 そう言うと鳥人間は両方の翼を広げ、頭上に黒いスパークを伴った赤色の魔力球体を作り出す。


 直径は5メートル程だろうか。投げつけられたその球体は、超音速で翔哉に向かい激突し、空中で強烈な爆発が起こった。


 そして、翔哉はその破壊力で斜め後ろの方向へ吹き飛ばされ、まるで隕石でも落ちたかのような速さで激しく地面に叩き付けられてしまったのだ。


「ショウヤーッ!」


 風脚ですぐに彼の元へと向かうアス。メルとニケも二人の方へ走って向かう。


「流石に今ので死んだだろう。粉々になっていないのは不思議だが、まあ良い! 体が残っていれば食えるのだからな!」


 鳥人間は不敵な笑みを浮かべながらそう言ちて、翼をはためかせゆっくりと翔哉の方に向かって行く。


 アスは翔哉の元に飛んで来ると、クレーターの底で仰向けになって倒れている彼を抱きかかえた。すぐにメルとニケも到着し、彼女に容態を聞く。


「翔哉の様子はどうなんだ? 今のアレじゃ流石に死んだか?」


「冗談でもそんな事、言うんじゃないのにゃメル! そもそもショウヤは加護か有る限り、死なないはずだにゃ!」


「でも、制限解除を使ってしまった後みたいなのよ! 流石に今回は、ただで済むはずないよ......」


 アスは泣きそうな顔でそう言う。


「とりあえず息は有るのか?」


「うん、何とか息は有るみたい......」


 メルの質問にアスが答えた後、ニケは二人に警戒を促す。


「奴が来たにゃよ! ショウヤが回復するまでの間、あたい達で何とかするしか無いのにゃ!」


 四人の前に姿を現した鳥人間は、下卑た笑みを浮かべながら言う。


「まだ息が有るのか? まあ良い。生きている方が美味いし、魔力の上昇幅も大きくなるからな。あれだけの強さだ! 食ったらさぞかし魔力が上がるだろう。そう考えると今から楽しみだな! 意識が回復する前に食ってやるから、お前達、大人しくそこを退け!」


 そう言われた三人は、翔哉を守るように鳥人間の前に立ちはだかり、各々が戦闘の構えを見せた。


「魔力をかなり消耗してしまったとは言え、お前達を殺す事など造作も無い事だぞ? まぁ、何れにしろ全員逃さず食ってやるのだがな!」


 鳥人間がそう言って三人に飛びかかろうと飛翔を始めた時、突然その両翼は切断され、彼女の体は仰向けにドシャリという音を立て落下してしまう。


「ぐはぁ! ば、馬鹿な......」


「油断したね? それともさっきのやつで、そっちも魔力を消耗しきっていて、防御力も低下していたのかな?」


 鳥人間が飛びかかろうとした瞬間、翔哉はぴょんと飛び起きて、二筋の剣気を三人の間を通して飛ばしていたのだ。


 空中戦が得意な鳥人間である。翼を失ってしまえば、もはやどうする事もできない。


 翔哉は鳥人間の方に歩いていき、彼女に問う。


「どう? 降参する? 神殿の場所さえ教えてくれれば、命だけは助けるけど、こっちの要求を飲んでくれるかな?」


「神殿の場所か? 教えれば命は取らないと約束するのだな?」


「うん、約束は守るよ! やっぱり場所、知ってるの?」


「勿論だ! この空間の事なら、隅々まで把握しているからな!」


 交渉が上手くいきかけたところで、ニケが余計な事を言う。


「でも仲間が全滅しちゃって、これから一人で生きていくのは淋しいにゃね?」


 三人はニケに対して、何を言っているんだこの子は! と言う目を向ける。


 しかし、その心配は全くいらなかったようだ。


「子供達は、また増やせば良いだけだからな。生態系を壊してしまっては不味いから、2,000くらいまでしか増やせないが、それくらいなら10年も有れば十分だ」


 翔哉は質問する。


「一人でも子供を産めるの?」


「卵だけどな。産めるさ! 私はハーピーの女王だからな」


 女王だから一人でも卵が産めるという事にはならないと思うが、とにかくそう出来るという事だけ無理やり理解した四人は、翼を失ったハーピークイーンを連れ立って神殿へと向かう事にしたのだった。

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