迷宮入り口のガーディアン



 かつて街の大通りだったと思われる石畳の道の両脇には、先ほど遠巻きに見えていた石像群が、30メートルくらいの間隔で立ち並んでいた。


「まさかあれ、動き出したりしないよね?」


 翔哉の質問にメルが答える。


「伝承で言われているガーディアンは、確かドラゴンだって聞いたけどな。もしあれがそうなんだとしたら、けっこうヤバい数だよな」


「ドラゴンにしたってかなりヤバくない?」


 アスの中にいるアトラティエがその件に関して語り出す。


「カイザードラゴンね! 復活してるとしたら、かなりヤバい奴よ! 神級の力を持ったドラゴンだからね~。たぶんこの戦力じゃ、5分ともたずに全滅しちゃうわ! でも封印が解かれていたとしたら、今頃この樹海全体が大変な事になっているはずだけどね~」


「封印? 一体いつ誰がしたの?」


「千年くらい前よ! この国が滅んだ直後ね。ガーディアンなんて話は嘘。廃墟になったこの都を気に入って、勝手に住み着いちゃったのよ」


「何だかまるで、見てきたみたいに言うね?」


「見てきたも何も、私も討伐に加わっていたのよ。千人以上の使徒が総掛かりでも、半数以上が殺されたわ! でもそのお陰で、封印する事には成功したの」


「けっこう昔から、使徒達と協力したりしてたんですね?」


「そうね。私、気分屋だから、その時々にもよるけどね」


 即ち彼女の気分的に、今回に関しては味方になりたいと思ったという事なのだろう。


 そうこうしているうちに、石像群が立ち並ぶ場所まで着いてしまう翔哉達。


 目の前を通過する度に、一体一体が不気味な声で語りかける。


「引き返せ」


「この先は迷宮の入り口」


「引き返せ」


 翔哉は言ちる。


「動き出したりしないみたいなのは良かったけど、やっぱり喋るくらいはするんだね」


「喋るって言う事は、お察しのような気もするけどな」


「嫌な事いわなでよメル~」


 嫌な予感はしつつも特に襲われる事などなく、廃墟と化した神殿のような場所までたどり着いた一行。


 そのまま神殿跡を通過して奥まで進んで行くと、通り沿いに立っていた石像よりも一際大きな、二体の石像が両側に立つ巨大な門が設置された、大きな岩山が彼らの目の前に現れる。


「女神に選ばれし者その力を示す時、試練の門は開かれるだろう。詩にはそう言う部分も有ったみたいだけど、ひょっとしてこの門がそうなのかしら?」


 アスの疑問にメルが答える。


「恐らくそうなんだろうな。でも選ばれし者が私達だとして、力を示すってどうすれば良いんだろ?」


「とりあえず押してみようか?」


 翔哉はそう言うと、力任せに門を押し始めた。


 その巨大な扉はびくともしなかったのだが、彼が押す度に青く発光しているようで、それは扉に刻まれた模様を伝って両側の石像の方に流れて行っているようだった。


「なんだかアンチマテルブリンガーに吸われてる時みたいに、どんどん力を吸い取られているみたい」


「なんか手応え有りな感じだな? もう一息だ!ショウヤ」


 やってる本人と言うわけではないメルが、無責任にそんな事を言う。


「頑張って! ショウヤ」


「頑張るのにゃ! ショ、ショウヤ」


 アスとニケにエールをもらった翔哉は、更に力を込めて扉を押す。


 すると、明らかに先程までただの石像だった両脇の巨兵は、生気を帯びたような感じになり僅かに動き出しているように見え始めた。


「これはまさしく、お察しって言うやつにゃね!」


 ニケがそう言うと同時に二体の巨兵は咆哮を上げ、巨体を半分まで埋めていた岩を砕きながら、ゆっくりと進み出てきたのだ。


 一旦、距離を取る翔哉達。メルとニケが叫ぶ。


「こいつらを倒せばいいって事だな!」


「やってやるのにゃ!」


 体高が恐らく30メートルは有るだろうその巨兵は、持っていた巨大なメイスを振り上げながら翔哉達に向かって進み始める。


 戦闘の口火はニケが切った。


 大跳躍により巨兵の胸の高さまで飛び上がって、クナイを投げつけるニケ。しかし、予想通りと言うか、彼女のクナイは「カラン」と虚しい音を立て、あっさり弾かれてしまう。


 ニケはそのままの勢いで巨兵の胸を蹴って、宙返りしながら元の場所に着地する。


「思った通り硬いにゃね! でも動きは鈍いみたいだにゃ!」


「普通の石じゃないみたいだな! 傷一つ付いてないみたいだぞ!」


 ニケとメルの言葉にアスは問う。


「ショウヤの攻撃でも効かない?」


「うん、やってみる! 任せて!」


 翔哉はそう言うと即座に剣気を飛ばす。


 しかし、剣気による衝撃波は右側の巨兵の胸部に向かって音速で走って行くも、ヒットする瞬間、巨兵の前方に円形の青い光の膜が出現し、その威力はあっさり霧散させられてしまう。


「うわ! バリア張れるの!?」


 目の前の動く石像が障壁を張れる事実に驚愕している暇もなく、巨兵達のメイスによる攻撃がついに開始される。


 動きは単調で、ただひたすらに叩き付けるだけなのだが、その度に石畳の地面は激しく飛散して下の地面ごと大きく抉られていく。


 四人は華麗なステップで難なく躱していくのだが、次第に足場は無くなっていき、まるで大地震でも来たかのような状態になっていった。


「私が奴らの動きを止めるわ! その間に皆で何とかしてくれる?」


 アスはそう言うと、二体の巨兵が立つ地面だけを隆起させる。アトラティエが彼女の心の中でアドバイスを行い、地属性の精霊魔法を発動させたのだ。


 複数の岩の柱が激しく突き出して、巨兵達は足元を崩され尻餅をついたような体勢になる。


「今よショウヤ!」


「OKアス! じゃ、僕も新スキル発動!」


 そう言った翔哉の体は青白い光を放つ。


「制限解除レベル10」


 彼はそう叫んだ瞬間、超音速で右の巨兵に向かって突進すると、空を裂く音の後、激しい金属音と共に、巨兵の上半身は粉々に砕け散ってしまった。


 巨兵は砕け散る直前、咄嗟に障壁を展開したようだが、翔哉の超音速による突進から繰り出した斬擊には耐えられなかったようで、その障壁ごと破壊されてしまったのだ。


 気のせいかその有り様を見ていた左の巨兵は、驚愕して動きを止めているようにも見える。


「凄いぞショウヤ! そのままもう一体も破壊してくれ!」


 メルにそう言われた翔哉だったが、破壊した巨兵の上半身を突き抜けて着地していた彼の様子は少し変であった。


「ショウヤ? どうしたの? 大丈夫?」


 心配して翔哉の元にかけより声をかけるアス。


 翔哉はその場で四つん這いになり、立ち上がろうとしない。


「ごめんアス......どうやら制限解除を使うと消耗が激しいみたい......体に全く力が入らなくなっちゃったみたいだよ......」


 そうこうしているうちに、もう一体の巨兵が岩の柱で作られた牢獄を脱出し、翔哉達の方に向かって歩き出す。


「ちっ! 不味いな! ニケちゃん、私達で時間稼ぎするよ!」


「わかったにゃメル!」


 ニケは返事をした後、自分の方に巨兵のヘイトを向ける為にクナイを連投する。


 その様子を見て、アスは再び巨兵の地面を隆起させ足止めすると同時に、矢を10本同時につがえて、その弓と矢に霊気を込める。


 巨兵はニケが連投するクナイに多少、意識を持っていかれている様子だ。


 アスはそのタイミングを逃さず、10本の矢を同時に射る。


 そして、意識をニケの放つクナイの方に取られていた巨兵は、障壁の展開が間に合わずに、音速で迫って来た矢の直撃を受け、顔面や胸部を大きく破損させてしまう。


「にゃ?? あたいのクナイが全く効かにゃいのに、アスの矢は何であんな破壊力にゃか!?」


 ニケの疑問を他所に、アスは畳み掛けるように矢の乱射を続ける。


 顔面を破壊された巨兵は視界を失っているようで、障壁を展開する事もできず、蹂躙されるがままに次第に石の体を破壊されていく。


「もういいぞアス! 奴はもう、ただの石の塊になったみたいだよ」


 メルにそう言われ、ようやく攻撃の手を止めるアス。


 全員が翔哉の元に集まると同時に轟音が辺りに響き渡り、その方向をみると、巨大な扉が左右にスライドし開き始めていたのだ。

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