力を得るアス



「あの~。どうしてさっきから付いてくるんですか?」


「ん? だってここは私のホームよ? 私が自分のホーム内で何処に行こうと自由でしょ?」


「まぁ、確かにそう言われるとそうですよね......」


 さっきから付いてきて離れようとしないアトラティエに対して、翔哉は堪らず質問したのだが、彼女にそう言われ彼は結局おし黙ってしまう。


「それに私、決めたのよ! あなたに服従するってね!」


「えっ?」


「えっ?」


「はぁ?」


「にゃ?」


 皆、一斉に疑問の声を上げた。


 翔哉は再び質問をする。


「服従ってこの僕に? でもあなた達、精霊って、ハーベに従属しているんじゃないんですか?」


「別にあんまり関係ないわよ~。建前上そう言う事にはなっているけどね。あいつらもけっこう無差別でしょ? だから実はあなた達の言ってる事も、一理は有ると思ってるのよね」


「無差別って?」


「んー、極端なのよ。一度そうだと決めると、世界まるごと滅ぼしちゃうとか、けっこうやるのよね~。いくら創造神だからって勝手すぎるのよ」


「じゃあ、とりあえず僕達がここを通る事に関しては、黙って見過ごしてくれるんだね?」


「勿論よご主人様♡」


 アトラティエの言い様にニケが反応する。


「ご主人様の事をご主人様って呼んでいいのは、あたいだけだにゃ!」


「あら? ご主人様って呼ぶ者が何人いたって良いじゃない。 それに、旦那様って呼べないなら、せめてそう呼ぶくらい許して欲しいわね」


「とにかくダメなものはダメなのにゃ! お前は別の呼び方を考えるのにゃ!」


 勝手に呼び方について言い争う二人を、翔哉は窘める。


「二人共いい加減にしてよね! 呼び方なんて何だって良いじゃない」


 翔哉にそう言われたニケは、少しモジモジした後に提案する。


「それにゃらご主人様。これからあたいも、ご主人様の事をショウヤって呼んで良いにゃか? それにゃらアイツがご主人様の事をご主人様って呼んでも良い事にするにゃよ」


「別にそれで構わないよ! ご主人様って呼ばれるよりかは、ちゃんと名前で呼んでもらった方が、僕としては嬉しいからね」


「あっ! どさくさに紛れてずる~い! それなら私もショウヤ様の事を旦那様って呼ばせてもらう事にするわ!」


 どっちがどさくさに紛れているのかわからないが、それで丸く収まるなら良いと思い、翔哉はやれやれと言った感じで無言で頷いた。


「あっ! それと私、良い事を思い付いちゃったわ♡」


 アトラティエはそう言った直後、忽然とその姿を消してしまう。


「あにゃ? アイツ何処に行ったのにゃ?」


「ヤッホー! 私はここよ!」


 何故かアスの方からアトラティエの声が聞こえてくる。


「ここって何処にゃ!?」


「ここよ、ここ! アスちゃんの中にいるのよ!」


「え゛ーっ!?」


 驚愕の叫びを上げるアス。続けてアトラティエは言う。


「本当は旦那様に入ってしまおうかと思ったんだけどね。どう言うわけだかそれだと、どうしても弾かれてしまうのよ」


 意味不明な彼女の発言に翔哉は質問する。


「ところで、それの何が良い考えなわけ?」


「だって愛する旦那様と一つになれるなんて素敵な事じゃない♡ でも弾かれてしまうから、仕方なくアスちゃんに入ったってわけ」


 更に意味不明な事を言う彼女にアスは叫ぶ。


「仕方なくじゃないでしょ! 人の体に勝手に入らないでよ! そもそも、どうして仕方なく私の体に入る必要が有るわけ?」


「だって、あなたが旦那様に可愛がられている時、私が可愛がられている気分になれるでしょ☆」


「そんなの気持ち悪いから、早く出ていってよ!」


「気持ち悪いなんて酷いわね~。お姉さんシクシクしちゃうわよ。シクシク」


「シクシクじゃないわよ! お願い! 早く出ていって!」


「あら~残念...せっかく私の力を使い放題にさせてあげようと思ったのに......」


「えっ? 力を?」


「そうよ! 正直な話あなた、もの凄く弱いわよね? これから先はかなり危険な場所が続くわ。だから、このままだときっと旦那様の足手まといになってしまうでしょうね」


 そう聞いて考え込むアス。駄目押しと言わんばかりに、アトラティエは更に言葉を続ける。


「大精霊の力を使い放題にできるハイエルフなんて、前代未聞の事なのよ? こんな良い話も普通ないと思うんだけど」


 悩んでいる様子のアスに対して翔哉は言う。


「アスの事は僕が絶対に守るから、足手まといとか、そんな事を気にする必要はないんだよ? 僕は君に側に居てもらえるだけで十分なんだからさ!」


「ショウヤ♡ ありがとう。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ! でも私もショウヤの為に戦うって誓ったの! ねぇアトラティエ。力って具体的にどんな力を使えるの?」


「あなたが使える低級風魔法なんて当然、目じゃないわね! 地属と風属の天災級魔法が無詠唱で使い放題よ! しかも、あなた自身の魔力も一切使う必要がないわ!」


 それだけ聞くと途轍もなく美味しい話である。しかし、上手い話にはリスクも付き物だ。


「当然それだけの力を得られるって事は、かなり大きな対価も必要よね?」


「対価? 別に要らないわよ! さっき言ったでしょ? あなたの体を間借りさせてもらって、旦那様に可愛がってもらえるだけで十分なの♡」


 ずっと黙って聞いていたメルも後押しする。


「そんな美味しい話ないじゃないか! 私が代わりに受けたいくらいだよ!」


 ニケも同調して言う。


「ショ、ショウヤ...の足手まといにならにゃい為にも、そんな美味しい話、絶対に受けるべきにゃよ」


 二人にも後押しされたアスは、心を決める。


「うん、決めたわ! 私、少しでもショウヤの役に立てるようになりたい! だからこの話、受ける事にする!」


「うふふ♡じゃ決まりね! これからよろしくね!アスちゃん。あっ、それと一応ステータスを確認してご覧なさいよ。軽く魂を融合させてもらってるから、たぶんステータスもかなり変わってると思うわよ」


「えっ? 魂を融合って?」


「いいから見てみて!」


 何かとっても気になる事を言われ、きちんと聞かなければとは思いつつも、とりあえず促されるままにステータスを確認するアス。


 以下、アスのステータス情報。


名前 アストレイア・メタルカーナ  年齢15歳


天職 女神の使徒


天恵レベル23


腕力 16(72)


敏捷 23(79)


体力 25(81)


霊気 5,583


霊気操作 225


アクティブスキル


神速レベル2 速射レベル5 乱射レベル5


気配感知レベル20 再生レベル5 風脚レベル2


地精霊魔法レベル20(無詠唱)


風精霊魔法レベル20(無詠唱) 大精霊召喚レベル20


パッシブスキル


女神の加護レベル3 アトラティエと融合レベル2


自動再生レベル5



「えっ?凄い! 霊気と身体能力はあまり変わってないけど、スキルがとんでもない事になってる!」


「ま、霊気量が多少上がったのは、オマケみたいなものね! とにかくスキルが既に人外レベルでしょ?」


「うん、これならきっと私もショウヤの役に立てるよ!」


 思っていたよりも喜んでいる様子のアスに、翔哉は暖かい目を向けるも、それと同時に二人の初体験はきっとしばらく先になってしまうだろうなと覚悟するのだった。



 しばらく歩き続け、トレント達の縄張りを抜けた一行の目の前には、廃墟と化した石造りの街並みが広がり始める。


 かつては、かなり大きな都市だったようで、蔦だらけでは有るが崩れかけた石の建造物が点在する光景は、数十キロ先まで続いているようだ。


 そんな景色を見ながらメルが語り出す。


「ここにはかつて、樹海の民達による多民族国家が存在していたんだ。しかし、それらを纏めていた王家の力が弱まった途端、異種族同士の争いが絶えなくなってしまい滅びてしまったらしい」


「へぇ、樹海にも昔は統一国家みたいな物が有ったんだね~」


「ああ、そうだな。こんな状況だし、今こそ、そんな国家が必要だとも思うけどな」


「うん、本当そう思うよ! 種族とか関係なく、皆が仲良くできる国があったら良いのにね」


 メルと翔哉がかつての理想国家に思いを馳せていると、ニケが二人に対して警戒を促す。


「二人共、そんにゃ事に思いを致してる場合じゃないのにゃよ! 伝承によると、ここにはガーディアンがいるのにゃ!」


 彼女がそう言いながら指差す方向には、如何にもと言った感じの武装している兵士の姿をした、巨大な石像群が無数に立ち並ぶ光景が広がっていたのだ。

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