翔哉は決闘を申し込まれる



「ショウヤ、とっても似合ってる! カッコいいよ!」


 アスは新調された翔哉の格好を見て大絶賛である。


「ご主人様! 凄くカッコいいにゃ! あたい惚れ直したにゃよ!」


 ニケも負けじと絶賛する。


 既に鋼鉄のような頑丈な体を持っている上に、残り9,994回も即死に耐える事ができるのだ。動き易さ重視である。わざわざ動き難そうなゴテゴテの鎧なんて着込む必要などない。


 そう思ったのもあってシンプルなデザインの物を選んだ翔哉だったが、背が伸びた事でスタイルも良くなっていたらしく、ことのほか選んだ服が似合っていたようである。


 店主に姿見を出してもらって、改めて変貌した自分の姿を見る翔哉。


「えっ?」


 そこには、かつての面影は有るものの、見慣れない精悍なマスクをしたイケメンの姿が映し出されていたのだ。


『僕ってこんな顔だったっけ? こんなにスタイル良かったかな?』


 翔哉は心の中であれこれ考えるも、急に成長期でも来たのかな? くらいに思うしかなく、それ以上は深く考えない事にした。


 店を出た後、首長の屋敷に帰った一行だったが、その日の晩は翔哉とアスが翌日に旅立つ事となった為、最後の晩餐が開かれる事になり、その準備が急いで行われていた。


「そう言えば剣の事に気を取られて、すっかり忘れてたよ!」


 メルが突然そんな事を言い出す。


「忘れてた? 何の事?」


 翔哉の質問に彼女は答える。


「何の事って決まっているだろ? 一緒に旅をする話だよ。首長に志願する旨を伝えるのを、すっかり忘れてたよ!」


 本音としては、あまり一緒に行動したくない翔哉だったが、旅の目的を早く達成する為には彼女達の存在は必要不可欠だ。


 恐らくダメだと言われる事は無いだろうと思いつつも、大事な旅の案内人を確保できるかどうか気になった翔哉は、晩餐会が始まる前にメル達と共に首長の許可を取りに行く事にした。


「案内役を付ける事は、ちょうど私も考えていたのですよ。そう言う事なら考える手間が省けて良かった。正直な話、国の守りの事も有るので、あまり志願者が多くなるのも問題あると思い始めていたところだったんです」


「と言う事は私達の同行を認めてもらえるんですね?」


「ええ、良いでしょう。若い二人に経験を積んでもらうと言う意味でもちょうど良い機会だし、翔哉殿と一緒と言う事なら必要以上の戦力を割く必要も無いですからね。今回の我が国代表は、あなた達二人だけと言う事にしましょう」


 首長とメルの話し合いの結果、獣人族国の代表は彼女とニケの二人だけと言う事になり、彼女達は翔哉達の案内役も兼ねると言う事になった。


 部屋に戻る際、翔哉はメルに質問する。


「代表が二人だけなんて、ちょっとプレッシャーに感じない?」


「そりゃそうさ。失敗は許されないって感じになるからな。まぁ、それだけショウヤが居れば、確実性も高いって事なんだけどね」


「何かそういう風に言われちゃうと、こっちもプレッシャーだよ。メルとニケの二人も守らなきゃいけないからね」


「まぁ、万が一の時にはできるだけ守ってもらえると有り難いけど、私達二人はそれなりに強いんだよ? 自分の身は自分で守る事くらいはできるから、そこまで心配する必要も無いさ!」


「あたいはとってもか弱いから、ご主人様に守って欲しいにゃ♡」


 ニケの言葉にジト目を向ける三人。


 一番、粗暴な性格の彼女が言う台詞ではない。


「そんな事を言って、わざと足手まといになるようだったら、途中で置き去りにしていくからね!」


 メルにそう叱られシュンとなるニケ。


「一応、一緒に行動を共にするわけだから、私達も二人にステータスを開示しとくな」


 メルがそう言い、二人はステータスを開示する。


 以下、メルとニケのステータス情報。


名前 メル・シロシーバ  年齢 19歳


天職 女神の使徒


天恵レベル25


腕力 18(95)


敏捷 18(95)


体力 17(94)


霊気 7,687


霊気操作 56


アクティブスキル


咆哮レベル2 獣牙レベル3 槍術レベル5 沈静レベル2


パッシブスキル


女神の加護レベル3



名前 ニケ  年齢 16歳  天職 女神の使徒


天恵レベル25


腕力 16(98)


敏捷 23(105)


体力 15(97)


霊気 8,237


霊気操作 41


アクティブスキル


猫拳レベル3 投術レベル3 威嚇レベル2


パッシブスキル


女神の加護レベル3



 二人共レベルはアスより2つ高いだけなのだが、霊気の量が彼女より圧倒的に高い。


 それでも翔哉のお陰で10倍の霊気量になっているわけだから、如何にアスの元の力が弱かったのかが窺い知れる。


 アスはその事を踏まえて二人に質問する。


「あなた達ってやっぱり強い方だから、警備隊の隊長と副隊長をやっていたわけだよね?」


 彼女の質問にはメルが答える。


「確かに、そこそこ強い方なのは間違い無いけど、特別才能が有ったってわけでも無いな。まぁ、才能が有りすぎると無鉄砲になりやすいから、あまり長生きしないってのは有るけどな」


 メルの話はまさしく今の翔哉に当てはまる事だった。加護レベルが身代わりになっているから良いものの、本来であれば彼は既に5回も死亡しているのである。


 翔哉は自分が人と違うレベルアップの仕方をするが故に、他人の感覚がわからない為、メルに質問をしてみる。


「レベル25まで上げるのって、やっぱりけっこう大変な事なの? レベルが上がってくると低い時よりも上がりにくくなるとか、やっぱり有ったりするのかな?」


「ああ、その通りだぞ! 日々、訓練は怠ってないけど、もう何年もレベルなんて上がってないからな! たぶん、これ以上レベルを上げたければ、かなり激しい実戦を積んで行くしかないと思う」


「じゃあ、今回一緒に冒険するのは、二人にとっても良い経験になるだろね!」


「そうだな! 便乗するみたいで悪いとは思うけど、せっかくの機会だし、しっかり利用はさせてもらうつもりだよ」


 翔哉は一つ疑問に思った事があったのだが、あえてそこを突っ込んで話すことは避けた。


 実は、アスも同じ事を思っていたのだが、彼女はその事に対しあまり触れたくないと考え、特に口に出す事は控えようと思ったのだ。


 その内容とはニケの事である。彼女は自分が翔哉に対してアピールする事について、改めて話をする時間を設けて欲しいと言っていたはずだ。


 しかし、温泉から帰った晩に突撃された時にも、その話題には一切ならなかったばかりか、その後も全くその件について話したいとは言って来ない。


 翔哉とアスはニケが内心、何を考えているのかわからない事を少し恐怖に感じはしたものの、正直あの積極的すきるアピールもウザかったので、本人がそれをして来なくなったのは僥倖だと思っていた。


 そして、時間となった為、四人は一緒に宴会が行われる会場へと移動する。


 最後の晩餐会には、国の重要人物達も多数出席していた。


 その中で見慣れない顔の、若い猫耳男が翔哉に近付いてきて、侮蔑の表情を浮かべながらかなり失礼な感じで彼に話しかけてくる。


「ふん! お前がショウヤ・スズモリか? たまたま伝説の剣を引き抜く事に成功したくらいで調子に乗っているらしいじゃないか?」


 そんな彼に対し、ニケが間に立ち睨み付けながら言う。


「あたいのご主人様に無礼な事を言うにゃなのにゃ!」


「ニケ! こいつはお前の大嫌いな人間なんだぞ? 俺が外周部族の調査に行って留守している間に、一体何が有ったって言うんだよ!?」


「ご主人様は人間でも特別だにゃ! カッコいいにゃし、強いにゃし、あたいに対して優しいのにゃ!」


「?? 優しい??」


 翔哉にしてみれば彼女に対して辛辣に応対した事は有っても、優しくした記憶なんて一切ない。


 どうしてニケがそんな事を言うのか、については疑問に思いつつも、とりあえず自己紹介を始める翔哉。


「挨拶が遅くなって済みません。僕は涼森翔哉と言います。人間だけど一応、女神の使徒って言う事みたいです。よろしくお願いしますね!」


 そう言いながら手を差し出す翔哉だったが、彼はそれには応じずに無視をしてニケに対して宣言する。


「じゃあ、俺がこいつよりも強ければ、お前、俺の嫁になってくれるよな?」


「あたいは乱暴な男は嫌いにゃ! でも、お前にゃんかがご主人様に勝てるわけにゃいから、好きにすれば良いと思うにゃよ」


 ニケの言葉を聞いたその若い男は、改めて翔哉の方に向き直りながら言う。


「俺はヴァン! ニケとの結婚を懸けてショウヤ・スズモリ! お前に決闘を申し込む!」

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