クラスメイト達の新たなる挑戦



 時は少し遡る。翔哉が邪神の森でリザードマン達に襲われて二日後には、帝都に彼が行方不明になったと言う情報が伝えられていた。


 翔哉が配属されていた部隊の駐屯地は、帝都から30キロほど離れた場所に有ったのだが、僅か二日後に伝えられたと言う事は、それだけでろくに捜索も行われなかったという事が伺える。


 伝えられた内容自体も“行方不明になっている為、現在捜索中”ではなく“すぐに捜索したものの、状況からして恐らく死亡したものと思われる”であった。


「涼森のやつ死んだらしいぜ!」


「えっ? マジやべーな!? 異世界って言っても本当に死んだりするんだな!」


 太志が教官から聞いてきた情報に、須尚がそう言って反応した。


 他でも個別に聞いてきた者がいたらしく、太志がいつもつるんでいる二人に話した頃には、既にクラスメイト達全員にも伝わっていたようだ。


「あはっ! 本当に死ぬとかマジださっ!」


 雪菜の言い様に、流石の隼人も少し引き気味である。


 ここ最近では雪菜に対して、彼の気持ちはかなり冷めてきていた。


 宮廷内に居る女性達は美しい容姿の者が多く、彼はこちらの世界でもかなりモテまくりだった。その上、元いた世界ではずっと猫を被っていた雪菜が、こちらの世界に来てからと言うものの完全に本性を現し、最近では常にこんな感じなのである。


 一方の雪菜はと言うと、クラスの女子達に止まらず異世界の女達にまで色目を使う隼人に対し、怒りの感情は爆発寸前であった。


 クラスの殆どの者達が翔哉死亡の情報を、面白おかしく話題に上げている感じだったが、一部ではそんな彼らを見て寒気すら感じている者達もいるようだった。


「皆、異世界に来たせいでおかしくなっちゃってるのかな? クラスメイトが死んじゃったって言うのに、笑ってるなんて......」


 そう言ったのは翔哉とはあまり接点が有ったわけではないが、クラスでは同じように目立たない感じだった小石川早紀と言う女子である。


「そうだよな...元々あいつらあんな感じだったような気もするけど、流石に死人が出てあんな風にしていられるなんて、ちょっと異常だよな?」


 同じく目立たない担当の日陰山実継(ヒカゲヤマミツグ)も彼女に同調して言う。


「だいたい邪神を倒したら帰れるって言う話だって、何だか嘘っぽい感じがするし、その前に魔物と戦って死んじゃったりしたら元もこもないじゃない?」


「まぁ、それは涼森のやつが特別、弱すぎたからな。俺達、普通の人間よりも何倍も強いんだぜ?」


「そんな事を言ったってせいぜい何倍でしょ? 巨人族とか大型の魔物なんかが出てきたら、それでも勝てると思う?」


「うん、そう言われると確かにそうだよな。皆ちょっと簡単に考えすぎてる感じはするよな」


 あちこちがざわついている中で教官達がやって来て、訓練を開始する前に一つ発表が為される。


「皆、順調にレベルアップも果たし、武器の扱い方などもかなり板についてきたようだ。したがって、これ以上仲間同士を相手に訓練しても、今までのように大きなレベルアップは望めないだろう」


 教官長の話に対して、例によって隼人が質問する。


「いよいよ本当の実戦に出るって事ですか?」


「察しが良いな。今日はいつも通りの訓練を行う予定だが、ここにいる全員が明日から邪神の塔に移動してもらい、到着次第そこで実戦経験を積んでもらう事になる」


 邪神の塔とは、かつてマリーザが自身の信徒達の研鑽を目的として建てたとされる塔で、全部で200階層も有る、雲を突く程に高い塔だ。


 そこには様々なレア装備やアイテムが置いてあるとされ、過去の召喚者が打ち立てた最高到達記録は、100階層だと言われている。


 元々、瘴気溜まりが有った場所の上に建てられた塔の為、内部には自然発生的に魔物が住み着いており、階層が高くなればなるほど強力な魔物が出現する。


 低階層であれば、さほど強力な魔物は出現しない為、内部の希少な鉱物や、まだ発見されていないアイテム等を求めて、一般の冒険者なども頻繁に探索している場所でもあるのだ。


 この日の訓練が終わった後、5~6人で一組になるようパーティー分けが行われ、クラスメイト達は七つの班に分けられる。


 各班は一軍から七軍まで有り、その呼び方からもわかる通り、かなり偏りのある組分け方がされた。


 最も強い組である一軍のリーダーは隼人で、サブリーダーは雪菜と言う事になった。雪菜の天職は聖女なのだが、彼女の本性から考えると本当にそんなんで良いのだろうか? とどうしても思ってしまう。


 因みに二軍のリーダーは太志で、常につるんでいる須尚と秀弥も同じ班と言う事になった。


 パーティー分けが終わり、太志がいつもの二人にこの後の予定について提案をする。


「なあお前ら、これから女買いに行かね? 邪神の塔がどんな所か知らねえけどよ~。一旦、行っちまったら現地で女、買えないかも知れねーだろ?」


 大志の提案に対して須尚が話し出す。


「確かにしばらくやれねーとしたら、かなりキツいよな? なあ佐瀬川。もし現地で女、買えないようだったらお前やらせてくれよ~」


 須尚に“やらせて”と言われた彼女の名前は、佐瀬川舞香と言って少しギャルっぽい女子である。


「はぁ? フザけたこと言うのも相手を選んで言えよな! お前らみたいなモテねー醜男共は、獣臭が漂うケモ耳女の体臭にでも興奮してればいいだろ!」


「あ? お前マジで輪姦すぞ!」


 太志は舞香のフザけた言い様に怒り心頭のようだ。


「はぁ? あたしの結界を破れもしないクセに、ずいぶんと強気じゃないか?」


 侮蔑の表情を浮かべながらそう言う舞香。


 彼女の光力は70と、太志に比べればかなり劣るのだが、結界やデバフ付与などの様々なアクティブスキルを所持しており、種類だけならクラスメイトの中でも随一であった。


 因みに彼女の天職は呪術士である。


「あ? お前、今ここでヤっちゃってもいいんだぜ?」


「はぁ...もう良いから、さっさとケモ耳女でも買いに行って、スッキリして来なよ」


 そう言って舞香は後ろ向きで手を振りながら、さっさと自分の部屋へ帰るため歩いて行ってしまった。


「あの女、そのうちマジで泣かしてやっからな」


 太志の独り言に秀弥が同調して言う。


「そうだな! 邪神の塔に行ったらやるチャンス有るんじゃね? それまでに何か良い手ないか考えとくわ~」


 秀弥の話に須尚が反応する。


「おっ! 策略担当の秀弥さん、よろしく頼んますわ!」


 須尚が言うように、秀弥は不良グループにいるわりには頭が良く学業の成績もそこそこ良かった。


 更に彼は悪知恵も良く働くダイブで、人を陥れたりするのが得意なのである。


 そして、三人は舞香を陥れる相談をしながら、ケモ耳女を買う為に風俗街へと繰り出す。


 必要な物は全て帝国側から支給される為、正直あまりお金を使う場面はないはずなのだが、クラスメイト達は全員、一日に一枚の金貨を支給されていた。


 ピンキリではあるが極上の女を買う為には、だいたい金貨3~4枚も有れば十分に足りる金額だ。


 三人がこの風俗街を利用するのは、今回で既に三回目である。


「この間の店、なかなかレベルが高かったよな?」


 太志の意見に対して、須尚は自分の意見を言う。


「俺は最初に行った店の方が好みだったけどな~。女の子のレベルは完全に最初に行った店の方が高かったと思うぜ?」


 秀弥は同調しつつも、太志が何故に二回目の店を推すのか、その理由についての説明をする。


「初めて行った時の店は確かに、女の子のレベルは高かったけどな。高級志向の店だったからお高く止まってる感じの子が多かったろ? その点この間の店の子は何でも言う事を聞くし、いたぶると良い声で泣くんだよなぁ」


 その意見に対して、すぐに反応する大志。


「流石、秀弥ちゃん! よくわかってんじゃんかよ~」


 大志も秀弥の意見に賛成のようで、結局、一人で店に入る度胸の無かった須尚は、二人の好みに押される形となってしまう。


 そして、三人は二回目に来た時に入った店の中へと消えて行くのであった。

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