獣人族の国



 アスが倒れ伏した一つ目巨人の足元を見ると、そこには死んでしまったと思っていた翔哉が立っており、巨人の背中には、彼がここに至る途中でホブゴブリンから奪った剣が根元まで突き刺さっていた。


「ショウヤー!」


 歓喜の声を上げながら駆けていき、彼に抱きつくアス。


「死んじゃったかと思ったよぉ」


 泣きながらそう言うアスに対し、翔哉は優しく彼女の頭を撫でながら言う。


「ごめんね、心配かけて。でも、結界から出ちゃダメって言ったのに出ちゃうから、一瞬、焦ったよ......」


「だって~! ショウヤが死んじゃったって思ったんだもん!」


 彼女の言葉を聞いた翔哉は、この娘は意外にも自分を見捨てたりはしないのかも知れないと感じる。


 ひょっとしたら吊り橋効果なんて事も、無用な心配に終わるかも知れない。そんな風にも思った。


 次いで翔哉はステータス確認をして、ようやくここに来て彼女にネタバラシをする。


 以下、翔哉のステータス情報。


名前 涼森翔哉  年齢 16歳  天職 女神の使徒


天恵レベル4


腕力 23(773)


敏捷 24(774)


体力 45(795)


神気 750


神気操作 750


アクティブスキル


瞬足レベル6 剛腕レベル4 剣気レベル2


気配感知レベル1 防御結界レベル2 再生レベル5


パッシブスキル


女神の加護レベル9,995 毒耐性レベル6 薬物耐性レベル2


火耐性レベル3 自動再生レベル1



「何よこれ!? また更に凄い事になってる!」


「加護レベルが下がると、天恵レベルが上がるって話はしたよね?」


「うん! 私は一度も加護レベルが変動した事無いって話をしたね!」


「実は僕の場合、加護レベルが下がる条件を自分なりに発見していてさ」


「条件?」


「うん、その時点でのステータス条件で、即死するような攻撃を受けたり、実際に死亡するような目に遭ったりすると、加護レベルが下がるみたいなんだ」


「加護レベルが身代わりになってる?」


「うん、そんな感じがするよね? そんで、それが下がる代わりに天恵レベルが上がって、ステータスが大幅に上昇するみたいなんだよ」


 考え込んだような感じで少しだけ黙っていたアスは、いきなり恐ろしい事を言い出した。


「それじゃ私も、死ねばパワーアップできるって事ね?」


「それはダメだよ!!」


 アスの恐ろしい言葉を聞いた翔哉は、彼女を強く抱きしめそう叫んだ後で、ダメである根拠を彼女に諭す。


「僕の場合はいくら訓練や実戦を積んでも、天恵レベルが上がらないみたいなんだよ。だから天恵レベルが上がる条件が人と違うだけだと思うんだ! アスは訓練や実戦を積めば、普通にレベルは上がるでしょ?」


 急に強く抱きしめられ、ビックリした表情のアスだったが、翔哉の気持ちを察して彼を抱き返しながら言う。


「うん、ごめんなさい。もうそんな事言わないよ! その代わりショウヤ。私の事、絶対に最後まで守ってね☆」


「うん、安心して! 僕が君の事ずっと守り続けるよ! 傷一つ付けさせたりなんかしない!」


 ちょっと昼ドラのような歯の浮くセリフだなと翔哉自身、思ったのだが、彼女が安心しきって自分に対し身を委ねる様子に、彼も満更でも無い気持ちになるのだった。


 そして、アスは一つだけ、ずっと気になっていた事を翔哉に質問する。


「ねぇ、翔哉。一つ質問して良い?」


「うん、なんだい?」


「翔哉の使ってる剣だけど、あれだけ激しい戦闘が続いてるのに、どうしてずっと壊れないの? ホブゴブリンの戦士が使っていたやつだし、どう見てもただの剣よね?」


「あーそれね。たぶんなんだけど、ステータス項目にある神気ってやつを、剣に伝わらせるようにしているからかも知れないね」


「神気を剣に? どうして?」


「そうする事でどうも、剣の強度や威力が上がるみたいなんだよ」


「私にも出来るかな? どうやってやるの?」


「う~ん、感覚としか言い様がないんだよね~」


 そう言った翔哉は、ふわりと彼女の背後に回り込み優しく抱き締め下腹部を押さえる。


「いやっ! ショウヤのえっち!!」


 耳まで真っ赤に染めてそう叫ぶアス。しかし彼女は抵抗する素振りを見せる事はない。


「どう? 何となくわかった?」


「う、うん、凄い! わかったよ! それと何だか力が上がったような気がするの!」


 そう言って自身のステータス画面を開くアス。


 以下、アスのステータス情報。


名前 アストレイア・メタルカーナ  年齢 15歳


天職 女神の使徒


天恵レベル23


腕力 16(67)


敏捷 23(74)


体力 25(76)


霊気 5,083


霊気操作 125


アクティブスキル


瞬足レベル6 速射レベル5 乱射レベル5


気配感知レベル4 再生レベル2


パッシブスキル


女神の加護レベル3



 翔哉に力を流された事が影響したのか、アスの能力は大幅に上昇していた。しかも、天恵レベルは一つも上がってはいないのだ。


 この結果に正直、翔哉も驚いた『これじゃまるで、僕が彼女に力を与えたみたいじゃないか!』と。


 とりあえず考えていても仕方がないので、お互い思うところは有るにせよ、再び歩きだす二人。


 半日ほど歩き続け夕方に差し掛かるところで、少し開けた丘の上に着いたのだが、その上からはかなり大きな集落が存在する光景が広がっていた。


「たぶんあそこが獣人族の国ね」


「獣人族の国? ケモ耳な人達が集まる国って事?」


「ケモ耳? う、うん、いろいろな種類の獣人族達が集まって出来た国らしいわよ?」


 再び歩きだした二人が森の中に入った時、アスが突然、警戒を促す。


「ん? 周囲に敵意が30よ! 気をつけてショウヤ!」


 彼女がそう言った瞬間、翔哉の足元に何かが突き刺さり、人の声が森の奥から響いてくる。


「それ以上、許可にゃく進んだら殺すにゃ!」


 二人が声のする方向を見ると、指の股にクナイを挟んだ状態の獣人女性を筆頭に、数十人の獣人族達が、茂みの中からわらわらと進み出てきたのだ。


 その女性は黒いショートヘアーに黒い猫耳、瞳の色はエメラルドグリーンでかなりの美女である。際どい所を毛皮で隠しているだけなので、かなりセクシーな格好だ。


 まぁ、アスの格好もあまり人の事は言えない感じなのだが、慣れとは恐ろしい物である。


「余所者はこれ以上先には進めにゃいのにゃ!」


 彼女の言っている意味を理解したアスが、即座に交渉に当たる。


「私達は女神の使徒よ! わけ有って女神マリーザ様に会いに行く途中なの!」


「お前達の名前は、にゃんて言うにゃか?」


「私はハイエルフ、バルハーラ族のアストレイア・メタルカーナよ。彼は人間だけど女神の使徒でショウヤ・スズモリよ!」


「人間? 女神の使徒? そんな事はあり得ないのにゃ! それに、外周付近の部族の奴らの名前にゃんか聞いても知らないにゃね!」


「じゃ、どうして聞いたりしたのよ?」


「うるさい女にゃ! 死にたくないにゃら、さっさと帰るか迂回でもするのにゃね! それとも、どうしても通りたいと言うのにゃら、実力を示してみるにゃか?」


「実力を示す? 一体どうするって言うのかしら?」


「決まってるにゃよ! 殺り合うのにゃ!」


「良いわ! 勝敗はどう決めるの?」


「どうもこうも無いにゃ! 殺し合いにゃんだから死んだら負けにゃ!」


 そのあまりの乱暴なルールに、翔哉が待ったをかける。


「ねぇ、相手に参ったって言わせたら勝ちにしない? それと僕が君の相手をするよ!」


「ルールをそちらが勝手に決めるんじゃないのにゃ! お前が相手なのは別に構わないにゃよ!」


 翔哉が視線をアスに向けると、彼女は無言で頷く。


 そして、剣を地面に置いた翔哉は、獣人女性の前へと進み出る。


「お前どう言うつもりにゃか? ぶっ殺されたいにゃか?」


「ぶっ殺されたい訳じゃ無いけど、殺す気でかかって来て良いよ!」


「後悔させてやるにゃよ!」


 そう言うと獣人女性は、手の股に挟んでいたクナイを翔哉に投げつける。しかし、彼は目にも止まらぬ早さで、その瞬間には彼女の背後に回り込んでいたのだ。

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