待望の大型亜人族
「くっ! キリがないわ!」
「とにかくアスは、自分の身を守る事を優先にして!」
現在、二人は体長が1メートル程ある、巨大な蜂型の魔物の大群に襲われていた。
数は確実に千匹は下らないだろう。かなり硬い外殻を持っているらしく、翔哉の斬擊なら斬り殺せるものの、アスの矢では追い払う事くらいしか出来ないようである。
道中、少しづつ作り溜めしていた矢も尽きてしまったアス。
「キャーーーッ! ショウヤーーーッ!」
「アス!!」
アスの叫び声に翔哉は振り返ると、数十匹の蜂型の魔物が今まさに彼女に群がろうとうとして迫っていた。
咄嗟に彼女に向けて何かを展開する翔哉。何故か魔物達は彼女から一定の距離までは近付くものの、何か障壁のような物に阻まれて弾かれてしまっているようだった。
彼女の安全が確保されたと見て取った翔哉は、魔物の大群を狩る事に集中し出す。
数分の戦闘の後、そこには数百匹の蜂型魔物の死体が無惨に散乱していた。
残りの奴らは圧倒的な蹂躙劇に恐れをなして逃げてしまったようである。
「ショウヤ、怖かったよぉ」
「良かった。ちゃんと無事だったみたいだね!」
「ねぇ、今の何?ショウヤ」
「うん、咄嗟にできるって感じがして、自然に体が動いたから、よくはわからないんだけどね。ひょっとしたら新しいスキルなのかも知れないよ」
そう言ってステータス画面を開く翔哉。
彼の予想通り、アクティブスキルの項目に新しいスキルが追加されていたのだ。
防御結界レベル1、名前の感じから恐らくこのスキルの効果によって、彼女の安全が確保されたのであろう。
自分だけでなく、他人に対しても使えると言うのは、かなり有効なスキルだと言える。
しかし、一つ腑に落ちない点は、今まで感情の動きが影響してスキルが増えるなんて事はなかったと言う事だ。
いや、むしろ密接に関係していたと言えなくも無いのか?
もし感情も関係しているのだとしたら、今回は間違いなく彼女を守りたいと言う思いに反応したという事で、確実に合っているだろう。
とにかくこれで、万が一にも彼女を守りきれそうも無い事態に直面したとしても、少なくとも彼女の安全だけは確保する手段が新たにできたわけである。
翔哉としては、それで十分満足だったのだが、何故かアスはその後ずっと無言であった。
「ごめんねアス......守るって誓ったばっかりなのに、怖い思いをさせちゃったよね?」
「ううん、違うの! 私ひょっとして、かなり足手まといなんじゃ無いかな?って思って...」
「何言ってるんだよアス! 僕にとって君は必要だよ!?」
「う、うん、女神様の所に行く為の案内役だもんね」
「それも少し有るけど、何て言うか......それだけじゃなくて君が必要なんだよ!」
「何? その曖昧な言い方?」
「うん、だから何て言うか......心の支え?」
翔哉のその言葉を聞いたアスは、無言で彼の腕を取り並んで歩き出した。
散々憧れていたあの青春と言うやつである。
「敵が急に襲って来たら、すぐに動けないよ?」
照れ隠しにそう言う翔哉に、アスは言葉を返す。
「大丈夫だよ! 私、気配感知を切らせたりしないからね☆」
そう、彼女の気配感知スキルがレベル3であったお陰で、実はけっこう助かっていたのだ。
気配感知のスキルは、レベルによって精度や範囲が決まるようで、伏兵を得意とする好戦的な部族に襲われた際も、彼女のスキルのお陰で奇襲を免れた場面もあった上に、今回の蜂に関しても事実を知れば結果的にはかなり助かっていたのである。
蜂型魔物には微量でも体内に入ってしまうと、数秒で死に至る猛毒が有った。今の翔哉にそれが効いたかはわからないが、少なくともアスがもしその毒を受けていたら、死は確実であっただろう。
その魔物は昆虫のくせにかなり知能が高いようで、前方に囮を配置して相手の気を逸らせてる隙に、後方から襲い確実に仕留めると言う狩りスタイルを持っていたのだ。
彼女の気配感知レベル3が無ければ、後ろから迫る敵には攻撃されるその時まで、気づく事は無かったであろう。
そして何よりも、最初は一人でも生き抜く、邪神と言われる存在に会いに行く、と言う目標を掲げていた翔哉だったが、仮に一人で居たら、今頃は精神的にかなりおかしくなっていたに違いない。
彼女と途中で出会えたからこそ、人としての大切な何かを失う事なく、ここまで来れた事は確実だと言える。
「私、少しくらい足手まといでも良いのよね?」
「アスはちゃんと、僕よりも凄い所たくさん有るよ! お互いの足りない所を補い合えば良いんじゃないかな?」
「うん、そうだね! 早速だけど、前方から一体、大きいのが来るよ!」
アスがそう言ってから数秒も経たぬうちに、かなり大型のものと思われる何かの、地面を踏み鳴らす音が響いてくる。
樹齢が何千年も有るような、巨大な大樹と大樹の間から現れたのは、体長が20メートルは有りそうな一つ目の巨人であった。
「えっ? ショウヤ......流石にアレはヤバくない?」
「うん、僕が奴の気を引くから、アスは僕から一旦、離れて! さっきの結界を張るから、そしたらその場所から絶対に動かないでね!」
「うん、わかったよショウヤ!」
緑色の肌をしたその巨人は、かなり重量の有りそうな石の戦鎚を手にしている。
翔哉が図書室で調べた中に有った大型亜人族として該当しそうなのが、トールサイクロプスかギガントサイクロプスと言う種類である。
どちらも身体的な能力は同じような物らしいが、どちらにしても、あの体躯から繰り出される、何トンもの重量が有りそうな戦鎚のフルスイングを受ければ、今の翔哉であっても一溜りもないのは間違い無いだろう。
翔哉は自分に気を引かせる為に、アスから離れつつ剣擊により発生した衝撃波を、その巨人めがけて乱射する。
新たに獲得していた剣気レベル1が、その技に該当していたようだ。
巨人のヘイトが完全に自分に向かったと見た翔哉は、アスの方に向かって先程と同じ念派を飛ばす。
すると彼女の周りには、薄い青色に光る半円形の防御膜のような物が展開された。
翔哉による剣擊は巨人の体に浅い傷を付けはするのだが、怒らせるばかりで全く致命傷にはなっていないようであった。
剣擊を飛ばしながら立ち回っていた翔哉だったが、突然、彼は立ち止まり自身の周りにも結界を張る。
動きを止めた翔哉に対し、待ってましたとばかりに彼の脳天に向かい、石の戦鎚をフルスイングで振り下ろす巨人。しかし、物凄い衝撃音と共に、巨人はその体を後ろに仰け反らせた。
「うん! こいつの攻撃力でもしっかり防御出来るみたいだね!」
翔哉はそう独り言ちて結界を解除すると、今度は巨人の懐に一気に飛び込み直接その体に斬擊を入れる。
しかし、巨人は剣擊を飛ばした時に比べれば、幾分か深い傷を負った程度で、まだまだこの威力では致命傷には程遠いようであった。
再びその場に立ち止まる翔哉。巨人の攻撃が容赦なく彼の脳天を襲う。
結界に弾かれた時と同様に物凄い衝撃音がするも、今回は巨人の体が仰け反らされる事なく、翔哉の周りには激しい土煙が立っていた。
「えっ? ショウヤ!!」
思わず言われた事を忘れ、結界から飛び出してしまうアス。
彼女の叫び声と動きに反応した巨人は、標的を彼女に変更し動き出す。
一つ目の巨人はその巨体に似合わず俊敏な動きだった為、彼女が気づいた時には既に攻撃される瞬間であった。
『私も死ぬんだ』
そう思い覚悟を決めたアスだったが、どういうわけか巨人は戦鎚を振り上げたまま動かない。
「アス! 前に倒れるから避けて!」
声の指示に従って、横っ飛びで移動するアス。
次の瞬間、一つ目巨人の体は声の主の言う通り、彼女が元居た場所に倒れ込んだのだ。
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