邪神に会いに行くけど君も行く?



「あれ? 普通にけっこう熱いんですけど......それに息が出来ない!」


 燃え盛る炎による黒煙は、既に翔哉の全身を包み込んでいた。熱さもそうだが煙により窒息してしまっている事で、彼の意識は段々と遠退いていく。


 炎が鎮火し、死体の確認の為に二人の男達が翔哉を丸太から下ろし、息の確認が為される。


「ん? 生きてる! 死んでいないぞ!」


 男の一人がそう叫んだ次の瞬間、翔哉はムクッと立ち上がり、その場は騒然となる。後ろ手に縛られていた縄は、どうやら熱には弱いらしく融けて無くなっていた。


 翔哉はある事に気づき始めていた。


 大空岬にタコ殴りにされていた時もそうだが、補正値が20だったとは言え、自分の三倍も腕力が有る事になる相手に殴られ続けても無事だった事。


 二回目にオーガと戦った時のように、死亡する程では無いにしろ、ある程度の強い攻撃を受けたら痛いと言う事。


「たぶん死ぬ程の目に遭ったわけじゃなくても、女神の加護って働いてるっぽいね」


 そう独り言ちる翔哉。続けて彼は、その場の者達に向かって言う。


「見ての通り、あなた達に僕を殺す事は出来ないみたいですが、それでもまだ僕の事を殺そうとするつもりですか?」


 悠然と歩き出した翔哉にギルバートが言葉を発する。


「ま、待て! 何処へ行くと言うのだ?」


「う~ん、とりあえず自分でも、自分が何者なのかよくわからないでいるから、邪神? 女神? どっちなのかわからないけど、そう言われる存在に会いに行くつもりではいますね」


 翔哉の軽い感じの一言に、アスは叫ぶ。


「人間が一人で、マリーザ様の所にたどり着けるなんて事、不可能に等しいわ!」


「マリーザ? それってその女神様の名前?」


「ええ、そうよ! あなたそんな事も知らないで、女神の使徒だって言うの?」


「ひょっとして女神様って、長い銀髪の綺麗な人だったりする?」


「それは私もわからないわ! 会った事は一度も無いもの......でも、女神がいるとされる場所の事なら知っているわよ!」


 アスの口からそう聞いた途端、叔父とギルバートは顔を見合わせてお互い頷く。


「二人を殺せ!」


 ギルバートの下知により、待機していた弓兵達が一斉に弓を構える。


 叔父と二人で後方に下がった彼は、再び命令を下す。


「殺れ!」


 弓兵達から一斉に矢が放たれる。しかし、目にも止まらぬ速さでアスの前に立った翔哉は、その矢の雨を全て手刀によって叩き落としてしまったのだ。


「えっ? 嘘!?」


 その光景に愕然とするアスと、部族の者達。


 翔哉は言う。


「う~ん、たぶんだけど、今の僕が本気を出したら、あなた達を皆殺しにするくらい容易い事かも知れないですね。見た目が人間そっくりな人達を殺したりするのは、ちょっと気が引けるので、黙って通してくれると言うなら、特に何もするつもりは無いですけど、どうされますか?」


 彼の言葉に一瞬、悩んだ素振りを見せ、叔父に視線を向けるギルバート。


 叔父が頷いたのを見て、彼は決断する。


「わかった。そちらに攻撃の意志が無いのであれば、こちらとしてもこれ以上、手出しはしないと約束しよう。何処へなりと行くがよい!」


 その言葉を聞いた翔哉は、アスの縄を切り、彼女の手を引いて悠然と歩き出す。


 立ち去り際に、背格好が同じくらいの男に声をかける翔哉。


「あっ、悪いんだけどズボンと靴を脱いでくれるかな?」


 男の身ぐるみを剥いだ翔哉は、焼け焦げたズボンとブーツを履き替え、再びアスの手を引いて堂々と集落を立ち去って行った。


 だんだんと遠退いて行く二人の後ろ姿を見ながら、リュークは呟く。


「ア、アストレイア......」



 二人はそのまま歩いて行き、部族の集落から1キロくらい離れた所で、ようやくアスが口を開く。


「ねぇ、いつまで手を繋いでいるつもりなの?」


「あっ、ご、ごめん!」


 そう言ってすぐに手を離す翔哉。


「ねぇ、どうして私を連れ出したりしたの?」


「えっ? だって君、あのまま、あの場所に残ってたら、確実に殺されちゃってたよね?」


「でも、そんな事あなたには関係無い話しでしょ? ましてや私、あなたの事を一度、殺そうとしたのよ?」


「そう言えばそうだったね。でも君、女神様の居場所を知っているんだよね?」


「あー、それで私の事を助けたのね」


 少し残念そうな感じでそう言うアス。


「ねぇ、僕も君の事、アスって呼んでも良いかな? 僕の名前は涼森翔哉、ショウヤって呼んでくれて構わないよ!」


「ショウヤ......あなたの名前はショウヤって言うのね。私の事はアスで良いわ。ところで私の名前を誰から聞いたの?」


「アストレイアって言う名前は族長からだね。アスって呼び方はリュークからだよ」


 二人の名前を聞いて、あからさまに悲しげな表情になるアス。


 翔哉はそんな彼女に気を遣い、すぐに謝罪をする。


「ごめんね。嫌な事を思い出させちゃったよね? でも、リュークは君の恋人だったんでしょ?」


「はぁ? リュークが恋人? 全然違うわよ!」


「えっ? だって彼が君の事、俺の女だから手を出すなって言ってたよ?」


「昔から勝手にアイツがそう言ってるだけだよ! 私はアイツの女になるなんて言ったこと一度もないわ!」


「そ、そうだったんだね......」


「ねぇ、ショウヤ、少し休もうよ。疲れた」


 実際、彼女はかなり疲労している様子であった。


 たった一人で逃走劇を繰り広げ、頼った先の大叔父にまで裏切られ、すぐに徒歩で元の集落まで連れて来られたのである。当然と言えば当然だろう。


「うん、わかったよ。じゃあ30分くらい休憩しようか。それに、せっかくだからステータスの確認もしとくね!」


 そう言って大樹の根元に二人して寄りかかり、ステータス画面を開く翔哉。


 以下、翔哉のステータス情報。


名前 涼森翔哉  年齢 16歳  天職 女神の使徒


天恵レベル3


腕力 23(473)


敏捷 24(474)


体力 45(495)


神気 450


神気操作 500


アクティブスキル


瞬足レベル2 剛腕レベル3 剣気レベル1


気配感知レベル1


パッシブスキル


女神の加護レベル9,996 毒耐性レベル6 薬物耐性レベル1


火耐性レベル2



 どうやら、火炙りによる煙で窒息した事が、死亡判定だったようである。そして、後ろから彼のステータスを見たアスは、驚愕のあまり叫んだ。


「な、何なの?そのステータス! バグってるの!? 天恵レベルがまだ3なのに、既に人外レベルの強さじゃない! それに加護レベル9,996って一体どういう事なの?」


「うん、ある程度は自覚していたけど、やっぱり他人の目から見てもそうなんだね。アスも自分のステータスって見れたりするの?」


「うん、私は啓示を受けているから見る事が出来るよ!」


「啓示? じゃあ、その啓示を受けていない人は、ステータスを見る事が出来ないって事?」


「そうね。女神の使徒として啓示を受けた者だけが、ステータス画面を開く事が出来るのよ。啓示を受けるのは大体、各部族毎に一人か二人ってところかしらね」


 そう言って彼女もステータス画面を開いて見せる。


 以下、アスのステータス情報。


名前 アストレイア・メタルカーナ  年齢 15歳


天職 女神の使徒


天恵レベル23


腕力 16(21)


敏捷 23(28)


体力 25(30)


霊気 498


霊気操作 35


アクティブスキル


瞬足レベル5 速射レベル4 乱射レベル4


気配感知レベル3


パッシブスキル


女神の加護レベル3



 いろいろ質問のしどころも多かったのだが、翔哉はとりあえず女神の加護について聞いてみる事にした。


「やっぱり女神の加護レベルが減る事で、天恵レベルが上がるのかな?」


「えっ? 何よそれ? 女神の加護レベルは変動なんてした事無いよ? 私は啓示を受けた時からずっと3のままで、変わった事なんて一度も無いけど」


「そうなんだね......僕の場合は何故か、この加護レベルが下がると天恵レベルが上がるみたいなんだよね。あと、僕が神気ってなっている所が、アスの方は霊気ってなっているのは、どう言う事なのかな?」


「そんなのわからないよ! 私の方が聞きたいくらいだよ!」


「そ、そうだよね。ごめんね......」


「いちいち謝らないでよショウヤ! ちょっと驚きすぎて声が大きくなっちゃってるだけだからさ!」


「そ、そうなの? 別に怒ってる訳じゃないのかな?」


「うん、別に怒ってる訳じゃないよ!」


 そう言って彼女は翔哉に対して、はにかんで見せる。初めて会った時は大人びて見えた彼女だったが、その表情は年相応の可愛らしさが溢れだしていた。


『か、可愛い!!』


 心の中でそう叫んだ翔哉は、あまりの気まずさに彼女から目を背けてしまう。


 不思議に思って首を傾げるアス。その仕草が尚のこと可愛らしい。


「霊気と神気の違いで一つ言える事が有るとすれば、補正値のところだね!」


 アスにそう言われ、もう一度自分のステータスを開く翔哉。


「あ、神気はダイレクトにそのままの数値が補正値としてプラスされてるけど、霊気の場合は大体1/100がプラスされてるみたいだね」


「うん、そうだね! まぁ、とりあえずこれの意味も含めて、この能力を与えてくれた女神様に直接会って聞いてみれば、ハッキリする事だよね?」


 そして、この後二人は、お互いの事や先の事など話しに花が咲いてしまい、一時間以上その場所で休憩してしまう。


 翔哉とアスとの間で話し合った結果、これから二人が共通の目標とする事は、樹海の民から女神として崇拝されているマリーザと呼ばれる神に、二人で一緒に会いに行く、という事となったのだ。

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