第13話 家族のような
食事はすっかり冷めてしまったが、残すのはもったいないと思ったので、再び席についたはいいが。
(バルタザール、怒ってるのかな?)
向かいの椅子に座るよううながしたが、こちらを全く
アレンダの判断に納得していないのだ。気持ちに折り合いをつけるのに時間がかかるのだろう。
ちぎったパンを口にしながら、
いいように誘導されはしたが、一応自分の意思でエミリアの替え玉を引き受けた。しかし、彼女を探す戦力になれるはずもない。バルタザールの心労を増やしただけではないだろうか。
横を向いて座る少年のイヤリングは、微動だにせず照明を反射している。
パンを
「こんなこと聞いてごめん……エミリアはあなたにとってどんな人? 例えば、好きな相手とか?」
「……え?」
遅れて疑問が返され、バルタザールはゆっくりこちらをふりかえる。
「恋愛感情があるかどうか、ってことか? それはありえない。あいつは俺が仕える相手だ。立場が違うのにそんな気持ちになるはずがないよ」
「じゃあ、家族みたいには思ってる?」
「エミリアは、そう思ってくれてるみたいだ。俺には何も遠慮しないからな、あいつ」
「あなた自身はどうなの?」
再び彼は摩李沙の方を見やる。水色のイヤリングが、涙のように光った。
「とても不遜なことだけど、家族だと思ってるよ」
「だったら、すごく心配だよね」
何かに打たれたように、バルタザールは身体をこわばらせた。片手がゆっくりと
「本音を言うと、朝から晩まで街中を探し回りたい。けど、アレンダさんに止められているんだ。絶対に一人で行動するなって」
(エミリアを一人にしちゃったから、誘拐されたことに責任を感じてるんだね)
脳裏にアレンダの説明を思い返し――摩李沙は妙なことに気づいた。
だがその思いつきは、すぐ口にしていいのかためらわれる。
その時腹の鳴る音がして、バルタザールが頬を染めた。
「ごはん食べてなかったの?」
「……そんな気分じゃなかったんだよ」
ばつが悪そうな彼へ、パイとりんごが載った皿を差し出した。
「君の分だろ。いらない」
「私ひとりじゃ食べきれないし。残したら作ってくれた人に悪いから、よければあなたにも食べてもらいたいの。エミリアを探すのならしっかり食べておかないと、体力が無くなっちゃうよ?」
「マリサ」
「うん、何?」
「ありがとう。ちょっと力が入りすぎていたみたいだ。エミリアがいなくなってから、どうにも落ち着かなくて」
「それは当然だよ。あとね、私を守ろうってあんまり気負わなくてもいいと思うの」
「どうして?」
摩李沙は、テーブルの下で手を握り合わせる。
「あなたもアレンダさんも気づいてるんだろうけど。誘拐されたのはエミリアだけど、きっと本当の狙いはエミリアじゃないんだよね?」
バルタザールは返事をかえさず、息を
それが、肯定だと思った。
「犯人は『魔法使いの血と引きかえだ。早くこちらにこい』って言葉を残したんだよね。引きかえってことは、エミリアと誰かを交換したいってこと。エミリアを盾にして、本当の目的である人物を揺さぶろうとしてるんじゃないかな。だからアレンダさんは私を替え玉に仕立ててエミリアが健在なふりをして、誘拐犯の裏をかこうとしてる」
バルタザールの顔がどんどん曇っていく。
摩李沙は、彼の瞳を探るように
(私ね、さっき気がついちゃったんだ)
もしかしたら目の前に座っている少年は、嘘をついているのかもしれないと。
バルタザールが黙り込んでしまいどうにもならず、摩李沙はくしゃりと破顔する。
「ごめんね。適当なこと言って。あ、ごはん最後まで食べなきゃ」
強引に話を切り上げ、食事を再開する。
途中エミリアに関する話を聞きたいと言ったら、少年の雰囲気が少し和らいだ。
「エミリアは火の魔法と、夢幻魔法を使うんだ。でも実は、他の魔法も使おうと思えばできる。アレンダさんと一緒だよ。ただアレンダさんみたいに、全方位の魔法を習得して磨くつもりはあんまりないみたいでさ。才能があるのに、勿体ないと俺は思うんだけど」
「夢幻魔法って、何ができるの?」
「いろいろだよ。相手に幻を見せたり、意図した内容の夢を見させたり。上達すると、記憶操作や相手の夢に入り込むこともできるらしい。まだ試したことはないって言ってたけど」
「そうなんだ……今更だけどアレンダさんって、いろんな魔法を使えるんだね。他の人はせいぜいひとつかふたつなのに」
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