24、罪悪感
真っ暗で身動ぎしにくく狭い空間。
頭上から射す僅かな光。
だが、母親に抱かれているかのようにどこまでも安心してしまう木の手触り。
今いるのは
考えるのは今まさに教会の騎士達を相手にしているであろう小人の里の人達についてだ。樹木人の里に来る前にあった小人達との騒ぎが頭の中で何度も再生される。
◇◇◇
ナナネさんが感知した人々を見に行った
「よし。全員集まったな。里の外に教会の部隊がいた。此所を目指しているものと思われる」
ザワつく小人達に手を鳴らして場を静め、注目を集める。
「目指している対象は………アンリだ。今向かって来ているのは教会が忌み嫌っている存在の魂喰らいを追い掛けて来た捜索隊だった。……………皆、すまない。俺の所為で迷惑を掛ける」
誰を責める事なく、責任転嫁する事なく、ナノスは大きく頭を下げた。後ろに立っていたナナネや息子のナン、娘のナナも父親に続いて頭を下げる。
「…確かに里長の所為だ」
「お前…!」
「あの子供さえ来なければ、こんな事にはならなかったんだ!別にこの里で面倒見る必要無かっただろ!」
そう思っている者が出ることは当然だ。誰だって自分の家が家族が危機迫る事態になったら、それが自分の所為ではなかったらやるせない感情が溢れるだろう。
だが誰の所為かと問うのならば、それは間違いなく私の所為だ。私が此所に来た所為で、此所で過ごした所為で、里の人達に迷惑を掛けている。
「………あの私」
優しい小人の里の人達にこれ以上迷惑を掛ける前に、と手を握り締めて声を上げようとしたがそれは続けて言った声に遮られた。
「でも!………でも
その小人は、苦笑して言った。周りの小人達も同じく苦笑していた。それは呆れて、でも自分は動かなかったかもしれない事に迷わず動いた里長を少し誇らしく思う気持ちだった。
「全く仕方ない里長だよ」
「そうそう!その場のノリで動くんだからよ!」
「考えなしの里長の代わりに俺等が考えないとな!」
仕方ない人なんだ里長は。
あの自由気ままで普段は里長の威厳の威の字もないくせしてこういう時は真っ先に責任取ろうとするんだ。そんな里長を選んでしまったんだ自分たちは。
それならその里長を選んでしまった責任を自分たちも取らなくてはいけないだろう。里長が困っている時に助けなくてはならないだろう。
「…ありがとう皆。それじゃあ
「そこは『一緒に考えてくれ』って言うところじゃないのかー?」
「そーだぞ!里長だけ休むなんて不公平だ!」
爽やかな笑顔で面倒事を押し付けようとしたナノスを茶化した小人達もみんな笑顔で様々な案を出しあった。
あーだこーだ試す時間もない為、作戦は実にシンプルなものとなった。
まず、1番バレてはいけないアンリの隠れ場所に、と樹木人を呼んだ。因みに連絡方法は里に植えられている樹木人から貰った木である。
『やぁナノス。緊急事態とのことで急いで来たよ。何をすれば良いのかな?』
木で声を届けて樹木人が来たら次に樹木人経由で魔髪人の里に連絡する。
その間に他の小人は里全域に罠を仕掛けた。殆どが簡単な落とし穴や足を縛る程度の殺傷能力の低い罠で構成しつつ、泥や泥で面倒くさくした。
『ベレニケ様の命で参りました!』
魔髪人が来たら呪具を里に設置する。呪具の効果は不快感を増やす鈴や怒りが堪えられなくなる香木等、捜索の集中力を保っていられなくなるような物が中心だ。
遅々として進まない捜索に苛立ち、その苛立ちに漬け込むように呪具の効果が教会の部隊の精神を犯すだろう。結果として荒々しくなり、物が壊されるだろうが誰かの命と天秤に掛けたら安い物である。
アンリは樹木人の里に行き、一部荒らされたら嫌な場所は罠を殺傷能力のあるものにして、樹木人に呪具を隠して貰ったりして準備完了した。
「さて、罠に悪戦苦闘している教会の部隊を出迎えに行ってやろうか」
こうして教会の部隊は招かれた。
「いらっしゃい!お待ちしていましたよ!」
小人達のウソまみれの笑顔に迎えられて。
◇◇◇
樹木人の里に来た私は万が一を考えて更にロティスの洞に入った。膨大な魔力を持つロティスの中ならば聖刻を探知出来ないだろうと。
そうして洞に入ってから一緒に来たソルを腕に抱えてずっと祈っている。どうか無事に教会の部隊が帰ってくれますように、小人や他の亜人が怪我をしませんように。
……祈る事しか出来ない弱い自分に腹が立つ。守られるしかない子供である事に罪悪感が募る。
私の精神は大人なのに、何もできない。役に立てない。教会が来る原因のクセに。
悪い方向だと分かっていても思考はグルグルと暗い方へ行ってしまう。
「アンリ、小人の里から教会の捜索隊が出ていったよ」
「ダヨー!」
何度目か分からないため息を吐いた時、外からリグナムの声がした。
顔を上げると洞が大きくなって光が大きくなっていく。洞のサイズが私が出られるくらいになるとロティスは枝を階段にしてくれた。有り難く使わせて貰い、降りた先にはリグナムと数名の樹木人がいた。
「みんな無事ですか?」
「うん。小人達に怪我はないよ。少し里が荒れたくらいだね」
取り敢えずは怪我人がいないと分かってホッとする。
「それじゃあ里に行こう」
リグナムに抱えられて私は木の根に巻かれた。
「アンリー!無事で良かったー!」
木の根が無くなるとそこには沢山の小人達がいた。いの一番に駆け寄って来たエナノに抱き締められる。
「ナノス。土を均すのを手伝おう」
「助かる。畑や果樹の様子も見てほしい」
「分かった。じゃあバウムは野菜畑、アルブルは果樹園に…」
一緒に来たリグナムはナノスと話し合い散り散りに里の奥へ歩いて行った。
「罠がまだあるからわたしの側にいるんだよ?お姉ちゃんが守るから!」
胸を張って言うエナノに手を引かれて里を見た私は言葉を失った。道が罠で泥だらけの穴だらけになっていることではない。それもビックリしたがそれよりも、ぐちゃぐちゃの畑に、扉や窓が壊され一部燃えていたのか煙が上がっていることにだった。
近くで落とし穴に土を放り込んでいる小人達の話が聞こえる。
「全く。亜人の里だからって好き勝手に壊しやがって」
「まぁ呪具をしこたま仕込んで誘導したところもあるけどな」
「だからってここまで壊すとは思わねーじゃんか。スカスカだと変だからって残した木工品の数が合わないらしいし」
「それ本当か?壊した上に盗ったのか。あの教会の女神とやらは亜人から奪う事は罪ではないんだな」
違いない、と笑っている小人達の側を走り抜ける。近くに行けば行く程酷い有り様が分かって下唇を噛んだ。
「ナナネさーん!アンリちゃん連れて来たー!」
何処へ走って行くのかと思っていたら里長の家に着いた。家の前ではナナネさんが小人達に指示を出している。
「あら~。ありがとうエナノちゃん。アンリちゃんも大丈夫だった~?」
「はい。すみません大丈夫です」
「それならよかったわ~。ソルも大丈夫~?」
ナナネさんはソルにも話し掛けていたがやって来た小人に指示出しで直ぐに忙しくなっていた。
一段落着いた頃にナナネさんに話し掛ける。
「あの、何か手伝える事はありませんか?」
「アンリちゃん…」
私が小人の里に来た所為で教会の人たちは来たのに、守られただけで何もしないのは心苦しい。1つでも手伝える事があるなら何かしたい。
「私は子供だけど、魔法を使えば重い物も持てますし体力だってあります。魂喰らいだから精神は大人なので計算とか、連絡係とかも出来ますよ!」
困り顔をしているナナネさんに出来る事をプレゼンする。プレゼンというには幼稚な気がするが子供になった影響だろうか。
「…でも無理にとは………」
「わたしも!アンリちゃんがやるならわたしだって手伝う!」
困らせたくはないと我に帰っだがエナノが声を上げた。どうやら妹(仮)がやるならお姉ちゃん(仮)である自分もやる!という思考らしい。
眉をギュッと寄せて困り顔をしていたナナネさんだったが諦めたように微笑むとしゃがんだ。
「…それなら、明日手伝って貰えるかしら?今日はもう日が落ちるから仕事はおしまいなのよ。明日なら頼めることがある…というか幾らあっても足りないくらいよ。明日から嫌でも手伝って貰うから今日はゆっくり休んで」
言い聞かせるようにだが許可が降りた。エナノは弾けるような笑顔になり、私はホッと息を吐いた。
「明日から頑張ろうね!」
「うん」
ウッキウキで話すエナノと比較的荒らされていなかった部屋で一緒に眠った。
三日月が僅かな光で森を照らす。集まった小さな影が里の外へ出る。
「そんじゃあ行くか」
深緑の髪の少年を先頭に音を最小に小人達は森を駆けた。
────────────────────
お読みくださりありがとうございます!
体調を崩していたために更新をお休みしていました。申し訳ありません。
体調は回復いたしましたので頑張って更新しようと思います。
皆様も体調にはお気を付けて下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます