6、『悪の王』
『英雄王の誕生だ!』
国民は喜びに満ちていた。腐りきった王家から勇気ある者が王になった事に、これからの生活は良くなるだろうと思いを馳せていた。
だが、新たな王になった元男爵令息が最初にしたのは増税だった。それも前王家とは比べ物にならない程の。
ある貴族が反対した。その額では民の生活が成り立たなくなると。反対した貴族は後に家族を含めた全員が処刑された。
増税に反対する者がいなくなり増税されると民の生活は明日すらままならないものになった。
次に王がしたのは徴兵だった。国中からかき集められた者達は訳も分からず隣国への侵略を命じられた。
何もしていない隣国は寝耳に水の侵攻に対応が遅れ、敗北した。
数多の仲間を犠牲にしながら勝利を掴んだ兵士達は戦場では仲間の屍を踏んででも隣国の兵士を殺し、街では反意を示した民を何人も殺して精神はギリギリだった。それでも生きて家族に会えると思っていたが、着いたのは次の戦場だった。
国内では圧政に餓死者が続出、国外では兵士も民も殺す侵略、と地獄が広がっていた。
だが、王宮ではその地獄を造り出した英雄王は税金が払えなかった者に金の代わりとして無理矢理連れてこさせた国中の美女と食べきれない程の料理をマナーもなく喰らっていた。
共に立ち上がった勇敢な仲間達はそれを諌める事なく、寧ろ一緒になって酒池肉林の宴を楽しみ、宝石を身に付け、口に合わない料理を捨てていた。
更に、国内に住んでいた亜人達も標的にしていた。美しいエルフや猫や狼などの特徴を持つ獣人、他にも魔法に優れた魔女やガラス細工のような羽を持つ妖精なども、増税に更に亜人税を作って根こそぎ連れて来ていた。
美しい女は英雄王や仲間の相手をさせられた。男は兵士として戦場へ出したり、暇潰しの遊びに使われた。
彼等は、ケタケタと笑っていた。
『やっぱり王ってスゲー!只の男爵令息で終わるなんて勿体ないもんなぁ~王になれるように頑張った甲斐があったわー』
王家の悪評を流したのは男爵令息とその仲間の達だった。男爵令息は表では従順に振る舞い、裏では虎視眈々と王座を狙っていたのだ。
そうして王座を奪ってから数年、侵略した国家が両手両足の数よりも多くなった頃、王を『英雄王』ではなく『魔王』の呼び名が定着した頃。
地獄は唐突に終わりを迎えた。
『我々は悪しき王を討伐する者!正しき国を我々が取り戻す!』
1人の青年が立ち上がった。
青年は最初に侵攻された隣国の生き残りの王子だった。従順に振る舞って生き残ったある貴族が匿い、少しずつ侵攻された国から同士を集め、亜人の手助けを受け、教会の手を借りて、王を討伐したのだ。
生き残りの王子は英雄王と称えられた。
英雄王は、王やその側近を倒した後、即位してまず侵略を止めた。その上で侵略された国を全て元の王家に戻した。王家がいなくなってしまった国は英雄王の属国という形になった。
王が作った法も撤廃され、度重なる増税に苦しんだ民は喜んだ。
無理矢理連れてこさせられていた亜人達も解放された。亜人税も撤廃され、逆に亜人を守る法律が造られた。亜人達は英雄王に感謝した。
その英雄王は、民に向けて言った。
『我々は長く苦しめられた。人を人とも思わぬ極悪非道の王によって。その王は最期に言った。
『テンセイしたのに、チートムソウ出来てたのに、どうして逆らわれる!?有り得ないだろ!』
と、王は〈記憶〉の
だが、本当に彼等は我々に祝福を与えてくれたのか?大地を破壊し、戦争の火種を作り、圧政によって民を苦しめた!ギフテッド?いや違う。奴は奴等は人のフリをした悪魔だ!』
英雄王の演説は人伝に広まり、〈記憶〉の
『〈記憶〉の
それまでは、当然
例えば<豊穣>のギフトが目覚めた者が農地の近くに来るだけで植物は元気になり豊作が約束される。スキルと違ってコントロールが効かない代わりに効果が高い事で知られている。
<記憶>の
だが、<記憶>の
その結果とある事実が判明する。
『チェンジリング』、『ドッペルゲンガー』、妖精や悪魔がイタズラの1つとして子供と入れ替わったりする行為は幾つも確認されている。
教会はそれを悪魔や妖精に不意討ちで聖魔法を浴びせる事で神聖な空気感を嫌がり、イタズラをした子供を還させていた。そしてその時に悪魔や妖精等の偽物の子供は聖魔法の光を浴びず光る事がない。
当然、<豊穣>の
<記憶>の
聖魔法を浴びていないという事は悪魔や妖精に近しい、清らかな存在ではない可能性が高い。
『<記憶>の
調べた者達は<記憶>の
『
<記憶>の
「……これで分かったかな」
話が終わったが、何も言えなかった。その壮絶な内容に絶句していた。何とか内容が飲み込めた私は声を震わせながら抗議した。
「…それは、昔のはな」
「今でも魂喰らいによる被害は出ている。先月も他国から来た魂喰らいの冒険者が魔物の討伐の際に火属性魔法を使って森が焼けたりね」
『それは昔の話で今は関係ない』と言おうとしていたのを読んでいたらしく、最後まで言う前に最新の被害を言われてしまった。それでも、それもまた私とは・・・。
「確かに今した話の全てが君とは関係ない話かもしれない。だが、既に君は大きな罪を犯している」
次は心の声を読まれた。この人心を読む〈読心〉とかのスキルでも持っているんじゃないのかな。
「罪…?」
「そう、大罪だよ。……だって赤子の肉体を奪っているんだからね」
「…ッ!」
何度も繰り返し言われた言葉をもう否定する気持ちにならなかった。
・・・もう信じるしかないのかもしれない。心の何処かでは、私は魂喰らいとは違う、似ているだけでただの転生者だと思っていた。
思いたかった。
そんな記憶は無いけれど、私は本物のリージュを殺して、リージュに成ったのかもしれない。
「無垢な赤子の命を、家族を、文字通りの全てを奪った君が君達が、許される事はない」
兜で顔が見えずとも、その声で埋められない溝があると分かって何も言う気にならなかった。話が終わって立ち去った騎士の背中を何も言わずにじっと見ていた。
もう、話し掛ける気は起きなかった。
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