5、『英雄王』


 主人公のスキル名を『残業』から『超過勤務』へ変更しました。

 もう1人の魂喰らい、ロベールのスキル名『可燃』も『焼却』に変更しました。


 ────────────────────




 村を出発して14日。


 時間は不明。多分昼頃。


「…あの、何処に向かっているんですか?」

「・・・・・」

「……どうして魂喰らいって嫌われているんですか?」

「・・・・・・・」


 カタカタと揺れる馬車の中で、ここ数日の日課である見張りの騎士に話し掛けるチャレンジを行う。


「…魂喰らいは何をしたんですか?」

「・・・・ッ!」


 兜の下の顔は見えないものの、少し反応した気がした。顔が見えなくて違いは分からないけど今日の騎士なら何かしら聞けるかもしれない!


 久しぶりの会話の可能性とずっと抱いていた疑問が解消出来るかもしれない道が見え、更に話し掛ける。


「…魂喰らいってこれまでにどれくらいいるんですか?」

「・・・・・ッ!」

「魂喰らいは教会にいるんですか?何回魂喰らいに会った事がありますか?」

「・・・・・ツッ!」

「どうして魂喰らいって呼ばれているのか知っていますか?過去に何かしたの?魂喰らいって人間以外にもいるの?後は………」


 飢えていたのかもしれない。他者との交流に、話して聞いて返して、少しでもいいから、会話をしたかったのかもしれない。


 矢継ぎ早に夢中で訪ねる私は、騎士が歯軋りをしていたのに気付かなかった。


「ッ!黙れ!!」


 騎士は突然立ち上がり、扉を開けると腰に帯刀していた剣を抜いて私に突き付けた。


「お前らがした事を!よくもまぁぬけぬけと聞けるな!楽しいか?そうやって心を弄ぶのは」


 向けられた剣先に、強い敵意に、必死に首を振る。恐怖で溢れそうになる涙を堪えて、声を絞り出した。


「………ッ…ち、違っ、ただ…」

「…虫酸が走る。まるで子供かのように振る舞いやがって。この前の話、俺も聞いていたぞ。お前が成人を迎えていると話していたなぁ」


 私の言葉は逆効果だったらしく、騎士の圧は強くなった。剣先が鼻先に触れる程に近付く。


「今すぐ殺してやる。この世の害悪めが。生きているだけで悪なんだよ。魂喰らいは」


 憎悪を向けた騎士が何の躊躇もなく剣が振り上げ、勢いよく振り下ろす。

 スローモーションで迫る凶器に堪らず目を閉じた。




 ──────キィィィン─────





「……?」


 しばらくしても痛みはやって来なかった。不思議に思いながら恐る恐る目を開けた眼前で2つの剣が交差していた。


「…どういうつもりだっ!?こんなッ!」

「魂喰らいを傷付けたら除隊処分になるぞ。良いのか?」


 剣を受け止められた騎士は低く唸るように剣を止めた騎士に訪ねる。だが即座に返された言葉に兜の下の顔を歪ませた。


「……ッチ!」


 今すぐ魂喰らいを殺す事と殺した先の事を天秤に賭けて傾いた結果に従い、騎士は剣を納めた。


「…外に出て1回頭を冷やしてこい」

「…すみませんでした」

「気にするな。感情を直ぐ様抑えたのは立派だった。傷一つないし、報告する必要もない。ただ、1回落ち着いた方が良い」


 急に怒り出した騎士の剣を止めた上に外に出してくれたイケオジ感漂う声の騎士。


「…あまり彼を虐めないでくれ。彼の故郷は魂喰らいの魔法で壊滅的な被害にあったんだ」


 助けてくれたのだろうか。あの騎士から、嫌われている魂喰らいの私を。


「ッ!ゴメン、ごめんなさい…!どうして嫌われているのか分からなくて、怖くて、知りたかった…」


 そう思ったら堪えていた涙が溢れてきて止められなくなった。泣きじゃくりつつ説明をした私にイケオジ騎士は目線の高さまでしゃがむと、


「そうか。知らないのならば仕方ないね。良ければ私が教えよう」


 頭を撫でてそう言ってくれた。


「良いの?」

「ああ。問題ないよ」

「…でも、怒られたりとか…」

「大丈夫だよ」


 嬉しいと同時に怖くなって確認する。私に何かを与える事でこの人が不利益を被らないか、反逆者のような立場になってしまわないか。優しくされているのに怖いなんて、初めて感じた。


「私は君の見張りの責任者だからね。私の判断に否を言う人はいないよ」


 だが、その不安はハッキリとした声で打ち払われた。


「それに……」


 良かった。魂喰らいに敵意を持っている人だけじゃないんだ。優しい人もいるんだ。さっきとは違う涙が滲んだ視界で、次の言葉を待った。




「それに、君だって身の程を知った方が良いだろう?」




「………え?」


 聞き間違いだろうか、そうに違いない。何か冷たい言葉が聞こえたような気がするが、きっと気の所為だ。疲れているんだよ。


「身の程を知ったらさっきのような行動はしなくなるし、懺悔の気持ちも湧くだろう。それはとても良い事だ。一生を賭けても償えるとは思えないが、償おうとするその意志はとても大切だからね」


 混乱している私に気付いてか気付かずか変わらない声でイケオジ騎士が畳み掛けた。


「君の仲間が、どれ程の罪のない命を奪ったのか、知るといい」


 兜で顔が見えなくても、穏やかな声でも、さっき剣を突き付けた騎士と比べ物にならない程の憎悪がイケオジ騎士の中にあるのだと、冷たい言葉を聞いて理解した。


「じゃあ、話そうか。少し長くなるけど最後までちゃんと聴くんだよ?」

「…は、い」


 振り下ろされた剣を止めてくれた時に感じた感謝はどこかに行き、残ったのは嫌われていると言う事実だけ。


 少しでも離れたくなり、部屋の隅に行って縮こまったが騎士は特に何も言うことはなく話を始めた。


「昔、世界中で稀に幼いながらに天才的な頭脳に強力なスキルを持ち、高い能力を誇る者達が生まれていた…」


 彼等が一様に特殊な〈記憶〉があったことから〈記憶〉の祝福された者ギフテッドと呼ばれ、驚異的な成長をする彼等は成人すると英雄と呼ぶに相応しい行動をした。


 ある者は村の娘を生贄として欲する魔物を討伐した。


 ある者は新たな魔法の理論を発表し世界に衝撃をもたらした。


 ある者は領主の子として生まれ、その領地を大きく発展させた。


 他にも、邪竜討伐、高い回復魔法を使う聖女、伝説的な物を造り出す錬金術師、〈記憶〉の祝福された者ギフテッドは世界に数多の影響を与えた。


 ・・・・だが、その行動は全てが良い行動ではなかった。


 ある〈記憶〉の祝福された者ギフテッドが村を周囲の魔物から護る代わりに食料を要求していた魔物を討伐した。何十年も村を守り続け、守り神とも言える魔物を失った村は別の魔物に襲われて壊滅した。


 ある国の貴族令嬢だった〈記憶〉の祝福された者は魅了魔法を使用して王子から高位貴族まで夢中にさせ、彼等から国が傾く程に宝飾品等の物を貢がせた。


 商人をしていた〈記憶〉の祝福された者が高い効能の回復ポーションを売った。その材料になる薬草が採れる地域を何度も吹聴した所為で、緑溢れる産地は富を求めた者達によって死が蔓延する戦場になった。


 だが、それでも〈記憶〉の祝福された者ギフテッドは頼られる存在だった。それをしたのは一部の者。1人の祝福された者ギフテッドが何かをしたからといって全ての祝福された者ギフテッドが悪い訳ではない、そう考えていた。


 ある事件が起きるまでは。


 とある王国の男爵家に長男が生まれた。その者は幼い頃から魔法から剣術、勉学まで完璧にこなし天才、祝福された者だと持て囃されていた。両親を気遣い、使用人にお礼を良い、民の1人1人に寄り添う姿から慕われていた。


 その噂を聞き付けた当時の王が、近しい年齢の王子の友人の1人にとその男爵令息を呼びつけた。


 男爵令息はその申し出を引き受け、王子と男爵令息は兄弟のように仲を深めた。親として国王として王は男爵令息に感謝した。


 ただ、その頃から王都である噂話が話されるようになった。


『王家は民の血税を私的に使っている』

『王妃がメイドを虐めて殺した』

『王は違法な奴隷を大量に購入しては、女は性的な奴隷として使い、男はストレス発散の道具として暴行をしている』


 どれも事実無根の噂だった。だが、王家に反意を持つ貴族が噂を大きく、面白可笑しくして国に広め、いつしか周知の事実となっていった。


 その頃に税金が増えて民の不満が募った。あの王のままで良いのか。今の王家は国主として本当に相応しいのか。そう考える者が多かった。


『俺たちは王家に反逆する!民のことを考えない悪しき王を打ち倒し、平等を掲げ、民の為にこの国の真の王となろう!』


 そんな民の不満が募っていた時、1人の青年が仲間と共に立ち上がった。


 それは王子の友人だった男爵令息だった。彼は王子と共にいる内に王家の闇を知り、国を正そうと仲間を募って立ち上がったのだと言った。


 男爵令息率いる仲間と思想を同じくする貴族軍と王家の軍が衝突し、男爵令息率いる軍が勝利した。


 王家は全員処刑され、王家側に着いた貴族も全員処刑された。


 男爵令息が新たな王となり、仲間がそれを支える事になった。


『英雄王の誕生だ!』


 これで平和が訪れる。平民は喜び、貴族は安堵し、他国は新たな王との繋がりを模索し始めた。


 ───誰もが平和になるんだと愚かにも信じていた。




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