19、教会の捜索隊



 広大な森であり普段から一定数の魔物が出現するメルバの森。その森の比較的浅い場所にあるのが先日の魔物暴走で殺され壊された教会の物と魔物の死体の山である。


「おーい!誰か来てくれー!人手が足りない!」

「司祭様!魔物の死体の浄化を頼みます!」


 この日、周辺にいた冒険者や領主の騎士、更に教会が集まって、死体処理をしていた。

 近くにいた冒険者が直ぐに見付け、出来る限り死体処理をしたものの数があまりにも多く、手が回らず3日程野晒しで放置された死体は腐り死臭が満ちている。


 主に魔物を相手にしていて慣れている冒険者達は解体処理を担当していた。解体した魔物の素材は貰えるとあってやる気に満ちている。そんな中でシューティングチーターという猫系統の魔物の解体をしていたパーティー『赤旗の狼』のメンバー、犬系獣人のアルクは教会の者が近くにいないことを確認してから話し出す。


「…この量の魔物の浄化をしてくれるのは助かるが、何で今頃来たんだろうな?」


 人種族で剣士のリック、犬系獣人でシーフのブラウン、犬系獣人で盾使いのアルク、人種族で火魔法使い兼リーダーのノア、で構成されたパーティー『赤旗の狼』。

 アルクは、特に強力な魔物の死体が放つ障気を浄化出来る教会の司祭とその護衛として騎士がいるのは普通だと思っているが、タイミングに不満があった。

決してさっきから何十と解体して疲れてきた手を休めたいからだけではない。


「単純に教会関係者の遺体とか物とかがあるからそれでじゃあないのか?」

「………さぁな」


 能天気なリックが軽い調子で、慎重なブラウンは魔物の解体の手を止めずに興味無さそうに言う。


「無駄口叩いている暇があるなら手を動かせ。数をこなせばそこそこの収入になるんだぞ」

「へーい」


 ノアに叱られてしまったので真面目に解体をする。肉は食べられない状態なので皮や牙、身体の何処かにあったり無かったりする魔核が買い取りしている。


 飽きるとお喋りが始まるアルクが黙った事で解体速度が上がった。ノアはそれに安堵しながらもアルクも感じていた不満には同感だった。

確かに魔物の死体に遺体の数々、量は多かったがそれは領主の依頼で来た冒険者と領主の騎士が昼夜問わず解体して埋めたことでもう終わりかけていた。

亡くなった教会の者が埋められた場所で祈るこの場での教会責任者らしき巨漢の司祭を見る。


此処に来た本当の理由は何なのかと。




 冒険者達が大量の魔物の死体を解体している中、教会の司祭服を纏った者達が中心になって盛り上がった黒い土の前で祈っていた。

 この土の下には死亡した司教と多くの騎士などの教会の者達を聖魔法の〈魂は天へ旅立つハブ ア ベブン トリップ〉でアンデッド対策をした後、埋められた。


「ポール司祭、魂喰らいの…ええと」

「『超過勤務』だ。仮名だがな」

「そう!…感じますか?」


 祈りを終えると側にいた騎士が訪ねる。ポールは眉を少し上げたが息を吐きハッキリと通る声で言った。


「いや。感じない。まだ生きているのは分かるから聖刻が解かれた訳ではないが。これでは視界に入るくらいの距離ではないとそう、だと分からんだろう」


 ポール達は先日魔物暴走で亡くなった教会の者達の遺体処理を名目にして魔物暴走の折に乗じて行方不明となった魂喰らい『超過勤務』の捜索に来ていた。


「そうですか…」


 自分から聞いたのに大きく落胆した若い騎士に『神に仕える者としての自覚が薄い』とは感じたものの、真面目にやれば良いので声には出さなかった。


 メルバの森近くにあるクユル村で魂喰らいが目撃されたと聞いた時は神の思し召しだと思った。


『額に教会の印がある子供が、森から来て子供を襲おうとしたんだ!』

『氷のような髪色だった!魔法を使われて怪我したんだ!』


 クユル村周辺で目撃された子供は容姿や年齢、魔物暴走から数日後という時期も一致している。それに教会の印は聖刻の模様だ。本当なら何重にも重なっている筈だった聖刻は発動者の司教が亡くなった影響と司祭数名の死亡により、教会の印だと判別出来る程になったのだろう。


 実際、クユル村周辺で子供くらいの小さな足跡を発見した。足跡は直ぐに無くなってしまって行方は追えなかったのだが、まだ確実にこの森にいる。


 残念ながら教会本部からの増援は時間が掛かるとの事だったので魂喰らい『超過勤務』捜索隊はポールと近くの街等で働いていた騎士となり森の奥地へ踏み入った。


「クソッ!回復をお願いします!」

「こっち手が足りてない!」


 何人も団体になって歩いているポール達は魔物からは格好の標的になっているようで、直ぐに襲われて始めた。


 そんな中、唯一魂喰らいの聖刻に魔力を籠めたポールは守られていた。自分は殴って戦える司祭ではあるが、騎士の連携を壊すのは憚れる。


「フン!!」


 なので騎士の僅かな撃ち漏らしを仕留めるに止めた。


「…あ、ありがとう、ございます………」

「…これ、護衛の必要あるか?」

「さぁ……」


 騎士達はポールの強さを見て守る必要性は無いのでは、と思ったがそれだと自分たちの役割が無くなってしまうので考えない事にした。


暫くしてやっと魔物の襲撃が収まったので、その場で休む。


「どういたしますか。ポール司祭、この魔物の量でまだ森にいるとは………」


『捜索を諦めよう』と言いたげな騎士にポールは自分の考えを話す。


「だが、近くの街を捜索している騎士からの報告は無いのだろう?それに村で1度目撃されたんだ。暫く街や人里には警戒して寄り付かない筈だ」

「成る程……」


 まだいるかもしれないと分かり、少し安心したのか騎士は離れて行った。1人になったポールはため息を吐く。


 騎士にはああ言ったが、幾ら子供とはいえ魂喰らいの能力は高い。既に森から出て、もっと遠くの街に行ってしまった可能性もある。


 それでも。


 まだいるとしたら何処にいるだろうか。魔物のいる森ではゆっくり眠れない。村周辺にはいない。何処か安全な場所を見付けたとしたら…。


「…確か近くに幾つか亜人どもの集落があった筈」


 無意識に顎に手をやり、少し口角が上がる。

 亜人の教会信者は少なく、土着の精霊信仰が主だ。精霊は自然の意志そのもの。自然災害を精霊の意志として許すように、魂喰らいの事件も人災として許していると耳にした事があった。


 例え魂喰らいによって苦しめられた者がいても子供の姿をしている『超過勤務』と出会ってしまったら、愚かな彼等は匿ってしまう可能性がある。


 ここまで考えたポールはメルバの森近くの街で育った騎士を呼んで、亜人の集落について尋ねた。


「ここらの集落だと………確か小人と魔髪人コームウィッチ、それに樹木人ドリュアスの3種族がいると聞いた事がありますよ」

「そうか、場所は分かるかな?」

「いえ…。どれも険しい道のりの上に巧妙に隠されているらしくて、それに最後の樹木人は眉唾ですよ」

「それでもいい。ありがとう」


 小人、魔髪人、樹木人、の3種族がメルバの森にいると分かりポール司祭は騎士達を集めて宣言する。


「魂喰らいの捜索の為に亜人の集落へと向かう。準備してくれ」


 亜人の集落に行くと聞いてざわつきはしたが、騎士達、直ぐに準備をしてポールを筆頭に魂喰らい捜索隊は亜人の集落へと出発した。





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