15、小人族の里へ
「取り敢えず仲間と合流する。大丈夫。オレと同じで奴隷商人に引き渡すような奴らじゃないから」
何か勘違いしているらしい小人族のコービーは大人っぽく話す。
いや、自分の事を小人だって言っていたし成人しているんだろう。成人しても子供程度の背丈にしかならないから小人って呼ばれているんだろうし。
「…オレ達は基本、森の果実やキノコ、里で育てた野菜を中心に食べて暮らしている。肉は森で獲った魔物以外は食わない」
驚いている私を他所に、前を歩くコービーは説明を始めた。
亜人が人喰いをする噂の否定の為だろう。
亜人と魔人は昔から混合されてきた。
動物のような身体的特徴を持つ獣人や風の精霊の守護を受けたエルフ等の種族によって異なる身体的特徴を持つ人種族の亜人。
人と似た見た目をしながらその中身は残忍で狡猾な魔物の一種の魔人。
混合され、魔人とされた亜人達は教会の信者を中心に迫害されてきた。
それ故、亜人の多くは森の中に村や里を造ってひっそりと暮らしている。
迫害は魔術士や錬金術師等の長年に渡る研究と亜人の冒険者等の活躍によって現在、ウォラーレ王国やその他の国の貴族にも少ないながら亜人がいるくらいには迫害は減少した。
だが、何十年にも渡る迫害は簡単には消えなかった。まだ人喰いをしていると信じている者はそこそこいる。
「この弓は護身用の物だ。オレ達は亜人で、えーっと、その…」
だから誤解をされないように話をしていたコービーはアンリが考え事をしていた間に話す事が尽きてしまい視線を泳がせる。
「大丈夫だよ。お兄さんが亜人で怖い人達とは違うって分かっているから」
「そ、そうか。なら良かった」
自分が安全だと証明する為に、恥ずかしい過去だとか話すべきか…とコービーが口を開き掛けた時に自分よりも落ち着いた声で返されて何とか頷く。
「おーいコービー!」
「どこに行ってたの?心配したんだよ?」
そうこうしている内に仲間のところに到着した。コービーは何となく緊張しながら少女を紹介する。
「ごめん。その、この子を見付けて…」
「ッ!それって…」
「ああ…」
「お前、まさか……コービー、よく聞け」
言葉を失う仲間に、コービーも頷く。人の間に奴隷制度がある事は知っていたが、こんな子供すら奴隷にするとは…しかも生傷が多い。仲間もそれを察知したのか真剣な表情になる。
すると1人がコービーの肩を掴み、厳しい表情で喋る。
「彼女はノーマルだ。今は俺達よりも小さいくらいだが、数年もすれば身長は超される。止めておけ、それにお前には愛する妻と娘、それに生まれたばかりの息子がいるだろう」
「……ちょちょ!ちょっと待て!違う、違うって」
思っていた内容と少々、若干、大分離れた内容にコービーの頭は真っ白になった。呆けた顔をしていたが、正気を取り戻して首を振る。
因みにノーマルとは特筆するような特徴の無い人種族を呼ぶ。
「ネン。からかいすぎよ」
「すまんすまん。面白くって」
「お前…」
どうやらただの冗談だったようだ。安堵の息を吐くコービーと仲間の2人。今の僅かなやり取りで3人の仲がよく分かる。
「ごめんなさいね。アタシはピグミー」
「俺はネンだ」
申し訳なさそうに微笑んだ黄緑色の髪の女性、ピグミーとさっきまでふざけていたと思えないキリッとした顔立ちの焦げ茶の髪と眼の男性、ネン。
「アンリ…です。こっちはソル」
「ピピッ!」
「ふふ、可愛い鳥ね。よろしく」
「ピィー!」
ツンツンされてくすぐったそうに身を捻ったソルを見て笑うピグミー。ネンは私に近付かないもののピグミーとのやり取りを見ている瞳は優しい。
ソルも警戒していない事から一先ずこの人達は安心出来ると思う。
「さて、今日の狩りは終わったしお客さんもいるからさっさと帰ろうか」
「そうだな」
言われて見れば足下に鹿のような魔物の死骸がある。角が頭部を守るように枝分かれしてバラの茎のようにトゲトゲしている事は置いといて大人、小人ではなく普通の人族の大人でも持てなさそうなサイズが三頭もあった。
「コービーはアンリを見失わないようにね。獲物はアタシとネンで持つから」
「おう!わかった」
「アンリ、ちゃんとコービーに着いて行ってね。里への道は複雑で迷いやすいから」
「分かりました」
そう言うとピグミーとネンは軽々と狩った魔物を持ち上げる。ネンに至っては2頭持っている所為で後ろからだと見えなくなっている。子供程度の見た目からは想像もつかない力に驚いているアンリを他所に移動を始めた。
「じゃあアンリ、オレに着いて来てくれ」
コービーもピグミー達を追い掛けて走り出した。驚いて止まっていた思考を戻してコービーを追い掛ける。
「ここから木の上を移動する!オレが着地した枝だけ使うようにしてくれ!」
後ろをチラチラと見て確認をしつつ、危険な時には声を掛ける。そんなコービーの姿にさっきネンが揶揄って話していた家族がいると言うのは本当なのかもしれないと思う。それはそれとして彼らはこの森に産まれた者なんだと感じる。
木の上を駆けたと思ったら、木の下に掘られた穴を通り、パッと見は崖と蔦にしか見えない隠された道を行き、落ちれば永遠に眠りにつくだろう崖スレスレを歩く。
一体何処の修行だ。と言いたくなるほど険しく複雑な道のりだった。幼女に行かせる道のりじゃない。
それでも身体強化を全力で使い何とか追い掛けて、水が滴る洞窟を抜けた先でやっと3人が止まった。
「ここがアタシ達の里よ。……ネン、里長に報告してきて」
「わかった」
ピグミーの言葉にネンが先に里の中に入って行く。
一方、途中崖から落ちかけたり、毒蛇に噛まれかけたりして疲労困憊のアンリは真っ青な顔で過酷な道のりが終わった事を喜んでいた。
「一応先に里長に報告に行ってもらうだけだ。里長なら、まぁ平気だろう」
「そうね。里長だし」
疲労困憊で訪ねる余裕もないが、謎の信頼があるらしい里長を呼びに行っているらしい。
「お前達、その子はどうしたんだ?」
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