14、久しぶりの会話



 ソルの言った通り、昼過ぎくらいに人里に着いた。規模からして村だろう。私が逃亡出来る切欠になった魔物の大量発生の影響があったのか壊された木の柵と家屋が見える。


 急に村へ行くのは怖いので誰かいないかと村の周辺をウロウロすると、木の柵の側で遊んでいる子供達を見付けた。


 第一村人発見!なんて何処かで聞いたような事を思いながらそーっと近付く。


「あの………」


 久しぶりのまともな会話チャンスにオドオドしつつ話し掛けると第一村人の子供達は私の方へ顔を向けた。


『「「「・・・」」」』


 と思ったら楽しそうな笑顔がストンと消え、走り去ってしまった。


行っちゃったねピピィピッピッ

「うん。急に森から話し掛けられて驚いたのかな」


 一応木の上に隠れて貰っていたソルの言葉に答える。

 それにしても感情が抜け落ちた顔は怖いなぁ…。


いっぱい来るピッピィピピィ!」

「いっぱい?」


 村の大人達らしき人達が近付いて来た。村人は手に鍬や斧などの物騒な物を持っていた。


「───こいつか!」

「本当だ…」

「本物だ……」


 ザワザワしている村人達、その間にも更に村人は増えて囲まれる。増えていく村人に嫌な予感がした。


「…この人達敵意があるピピィピッピッ!」

「こいつ、魂喰らいだ!」


 ソルが警戒の鳴き声を上げるのと村人が恐怖と驚愕が混ざり合った声を出したのはほぼ同時だった。


「俺達の村を壊させはしない!」

「新たに別の子供に乗り移らせたりしない!」

「人殺しの化け物め!」


 どうしてバレた、そんな事を考える前に囲んでいた村人から石が飛んで来た。


「イタッ!」

「ピッピィ!!」


 1つどころではなく何十と投げられた石は身体の至るところに当たる。ソルが飛んで来ようとしたのをバレないように首を振って止めた。


「退けぇ!オレがここで殺してやる!」


 斧を持った、ソルから見たら巨人にも見える身長の男が村1番と言われている怪力で斧を振り上げて主に向かって躊躇なく振り下ろす。


「ッヅ!?〈シールド〉!」


 こんな可愛い幼女に本気と書いてマジの攻撃をしてきた事に驚愕で目を見開いたが早く避けなければヤバい。

 慌てて結界魔術で1枚の結界を出現した直後、斧がぶつかって大きな音を立てた。


「な!?」


 予想外にも斧が止められた事で男は驚くが、すぐに結界を割ろうともう一度更に力を籠めて斧を振り下ろす。

 結界は衝撃でひび割れ、徐々にひびが広がると最後にバラバラに砕けて消え去っていった。


「今度こそ終わりだ!魂喰らい!」


 周りの村人からの応援を受けた男の斧が結界を砕いた勢いのままに迫る。


「〈一陣の風フラーリィ〉!」


 だが結界を張った後、何もせずに怯えていた訳じゃない。風魔法を発動させて斧を振り下ろす男はもちろん、周りを取り囲んでいる村人ごと吹き飛ばした。


「なっ…!待て!」


 包囲の隙間を縫って出た魂喰らいは風魔法によって倒れた村人達の静止の声に反応する事なく、森の奥へと姿を消した。



 ◇◇◇



「ここまで来れば大丈夫だよね…」

あいつら来てないよピピッピピ!」

「良かった~」


 狂気の村から無事逃げられた。ソルの言葉に安心して座ったのは走った疲労だけじゃない疲れがあるからだろうか。


あいつら酷いピピィピッピィ主は何もしてないのにピッピッピピ!」


 足の上でプンプンしているソルを撫でて落ち着かせる。

 確かに、私は何もしてない。なのにどうして魂喰らいだとバレたのだろうか。

 私の容姿が広まっていた?この世界の情報伝達速度は魔法のお陰で中世よりは早い。馬車でガタガタ移動していた日数を考えればあの村に情報が伝わっていたとしてもおかしくは無い。

 でも情報が伝わっていたとして何故、一目見て私が魂喰らいだと分かったのだろう。

 もしかして一目見て分かる何かがある?


「…ねぇソル。私の顔に何か模様とかある?」

ピピッあるよピィピピピッピおでこにキラキラしてる模様


 ソルが返した言葉に天を見上げた。どうしてもっと早く気が付けなかったのか、と。


 絶対に司教に付けられた魔方陣じゃん。魔法が使えるようになったから大丈夫だと思っていたけど効果生きてたの?

 それにしても私……水浴びの時とかさぁ!あったじゃん気付ける瞬間。

 それと同時に前にソルが言っていた『キラキラしてる』の言葉の意味が分かった。物理的にキラキラしてるおでこを見て言ってたんだね!

 ハゲか私は。


 脳内で叫び散らかしつつ、ソルをモフモフしていたらちょっと落ち着いた。

 つまりは全ておでこの魔方陣の所為って訳だ。


「どうにかして魔方陣隠せないかな…」


 魔方陣がどんな模様なのか分からないが、どうにかしなければ街に入る事すら出来ない。これは非常に不味い。本当に。


 という訳で実験を始めます。パチパチ。


「魔方陣が消えたら教えてね」

「ピッピ!」


 ソルに見守ってもらい、まずは魔力を使って隠す事を試みる。

 魔方陣から魔力を遠ざけて少なくしてみる。


変わってないよピピッピ~」

 失敗。


 次は魔方陣を幻影魔法で覆ってみる。


ちょっと色が変わったよピッピッピピ~」

 失敗。ただ魔方陣の色が変わったらしい。


 次は魔方陣に魔力を集めて乗っ取りを試みる。


キラキラしてるピィピピピピィ

 失敗。おでこを発光させて終わった。


「万事休す……」


 他にも魔法解除の白魔術〈リボーク〉を使ったり、魔力を魔方陣に集めて凝縮、魔方陣の破壊を狙ったりしたが、どれも失敗。


「葉っぱか布で隠す方法しかないのか……」


 唯一と言って良い成功はシンプルに物を使って額の魔方陣を隠す方法だった。


「ソル、協力してくれてありがとう」

どういたしましてピィピィピピ!」


 それでも無いよりはマシだ。丁度いい布がないので葉っぱで隠すしかない。常に掲げて街に入る訳にはいかないと思い側に生えている草を千切り始める。


何してるのピピピピ?」

「葉っぱを編んで草冠を作ろうと思って。ソル用の草冠も作ろうか?」

良いのピピィ欲しいピィピ!」


 興味を示したソル用とあわせて黙々と作る。作り方はスザンナお姉ちゃんに教えて貰ったんだっけ……ウッ、何か苦しい………。


「ピッピッ!」


 精神的ダメージを受けつつ草冠を順調に作っていたが、突然ソルが強い警戒を滲ませた声を出す。


 弾けるようにソルが見た方向へ振り向いたのと同時に茂みが揺れ、出てきた者と目が合った。


 自然に溶け込む茶色と緑色の服、弓を構えた姿。


「…子供?」


 目の前の者は驚いた顔で呟いた。がその言葉をそっくりそのままお返ししたい。

 距離はあるものの、木や茂みの高さから私より少し高い程度の身長しかないまだまだ子供にしか見えない少年がそこにいた。


「…その魔方陣は……」

「!!」


 その姿とソルの敏感な気配察知を以てしても直前まで気が付けなかった事も驚いて止まっていたが、少年が魔方陣に目を向けていると気が付いてすぐに身体を反転させて走り出した。


「待ってくれ!オレは、オレ達は君に危害は加えない!」


 背後から声が聞こえるが罠かもしれない。子供だからと言って、油断は出来ない。子供だからこそ、油断してはいけない。

 身体強化の魔法を使い全速力で離れる。


「大丈夫だ!オレは小人族!オレ達は奴隷商人に引き渡したりなんてしない!」


 その声に氷のような髪色の少女は足を止めると木に隠れた。不安に思うが下手に近付く訳にもいかずその場で待つ。


「…本当に?」

「ああ!もちろん」


 少しして顔だけ出した少女に訊かれ、しっかり頷いた。


「この人は大丈夫?」

敵意は感じないよピッピィピピ


 コッソリ訊いてみるが、特に何も感じないらしくソルは頭の上に乗ってお昼寝をしようとしている。


「オレはコービー。小人だ。君の名前は?」

「えっと……」


 子供…いや小人ならもう大人なのか?に訪ねられるが返答出来ず、言葉に詰まる。

 私が今、名乗れる名はあるだろうか。リージュは名乗れない。殺してしまったかもしれない人の名前だ。前世の名前も、名乗れない。既に教会にバレてしまっている。

 考えている間、コービーは静かに待ってくれている。


「…名前、は………」


 何か、良い名前はないか、何か何か……………。


「アン、リ」

「アンリ?って名前なのか?」


 咄嗟にそう出てきた。何故かはわからない。それでも聞き返したコービーにしっかりと返す。


「うん。うん。私の名前はアンリ」


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