第2話 クンエイの才能とエイクオンの思い


 エイクオンは気になる表情をした。

兎機関とうきかんは秘密の組織ともなれば、暗殺も行う事になるのではないか? そうなるとイスカミューレン商会に不利益を与える事になると思うが?」

「いえ、兔機関は秘密の組織ではありますが、暗殺は行いません。情報を持ち帰る事が絶対条件ですので、死んで情報を守るのではなく、生きて情報を持ち帰る事を是としてます。ですので武器で戦うより言葉で相手を説得させるか、時間を稼ぐ事で助けを待つなり、交渉の時間を稼がせる事、戻った時には情報を話せるようにする事が大前提です。死ぬことより、死なない事が組織の利益になると、方向性を持たせてますから、相手に危害を加える事はありません」

 エイクオンは、ゆっくりと息を吐いた。

「証拠は出ないのか?」

「はい、物を持ち出すこともメモも禁止してます。記憶に留められる情報だけを持ち帰る事によって、万一、捕えられても証拠は出ません。証拠のある場所が分かっていれば、正式な調査を行うようにします」

 エイクオンは、納得するような表情をした。

「それに不用意にイスカミューレン商会の職員を捕らえたとなれば、取引停止も考慮できます。商品のレパートリーは広く帝国内の貴族であれば領内での物流が停滞します」

 エイクオンは、話の内容を考えるような仕草をした。

「国外の場合においても、帝国の穀物を輸入している国は多く、イスカミューレン商会を使っている事を考えたら、確たる証拠がない限り捕らえる事は難しいでしょう。イスカミューレン商会に所属する兎機関は情報を持ち帰る事が任務です。潜入はイスカミューレン商会とは別に用意いたします」

「なる程、それならイスカミューレン商会に迷惑は掛からないか」

 エイクオンは納得した。

「情報は大事ですが、大事なら情報を得るための手段は確実に作っておき、リスクは最小限にとどめる。イスカミューレン商会に潜入した兎機関の職員は情報の繋ぎ役に徹してもらいます」

「なる程、情報を集める者、情報を運ぶ者を分けて、リスクを減らそうというのだな。確かに潜入した者が、突然居なくなってしまっては怪しまれる。集めた情報を受け取るなら商人が適任という事か」

 クンエイはエイクオンが理解してくれた事に安堵した。

「お前の思った通りに進めて構わない」

「イスカミューレン商会との繋がりは、父上の幼馴染だけで終わらすのではなく継続する事こそ重要です。イスカミューレン商会との繋がりは世代とともに薄れさせるのでは勿体無いと考えます。繋がりを離さないでリズディアによって、より強固なものとなるはずです」

 エイクオンはクンエイの考えに賛同したが何か疑問が浮かんだようだ。

「それで、イスカミューレン商会での兎機関はリズディアが行うのか?」

「いえ、リズディアには、情報を集めさせるよりも経済的にイスカミューレン商会を発展させてもらおうと思っております。リズディアとイルルミューランは、南の王国に留学した際、ジュエルイアンと交流を持ち一時はイスカミューレン商会に入るように導いております。このパイプは、イスカミューレン商会を大きくさせる可能性が高いので、リズディアには兎機関との接点は最小限に止めた方が良いと考えます」

「ジュエルイアン商会か、この大陸全部の国に支店を持つ大商会だな」

「はい、リズディアには表の情報を、兎機関には裏の情報を集めるように考えておりますので、リズディアには兎機関の管理を任せない方が得策です」

 エイクオンは納得した。

「そうだな。表と裏が一緒になってしまうと不具合が生じる。相反するものは別々に管理する方が得策だな」

「はい、兎機関の事をよく知らないなら、リズディアはジュエルイアンに話さないでしょう。いえ、内容を殆ど知らないなら話せませんから、安心して接触できるようになります。そして、イスカミューレン商会は、より大きくなってもらい、ジュエルイアン商会と同等かそれ以上に育ってもらう必要が有ります。リズディアは学生時代から才女だった事もありますし、行政区での仕事も抜きん出ており、新たな政策も提案しておりました。それが、イスカミューレン商会の経営に携われば、近い将来ジュエルイアン商会に並ぶでしょう」

 エイクオンは、喜ばしいと思ったように笑った。

「分かった。ところで、具体的にはどうするのだ?」

「はい、イスカミューレン商会の運輸部門を独立させ系列下とします。所属はイスカミューレン商会系列の一商会となりますが、不都合があった場合は、イスカミューレン商会は切り捨てられるようにし、輸送隊の中に兎機関を紛れ込ませます」

「なるほどな。それなら良いだろう。進めてくれ」

 エイクオンは、クンエイに退室するように手を振ると、クンエイは一礼して執務室から退室した。

 エイクオンは一人になると大きく息を吐いた。

「クンエイの奴は、私以上に帝国を大きくしてくれるな」

 そう呟くと机の上で右手の人差し指をトントンと叩いた。

「親以上の事を考えられる息子だから、次期皇帝を指名したのだが、あいつはそれ以上の事を考えている」

 天井を向き遠い目で見た。

「これで、私はいつでも引退して、クンエイに帝国を任せられるな」

 エイクオンは、嬉しそうではあるが、どこか寂しさが伺えた。

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