リズディアの結婚 パワードスーツ ガイファント外伝
逢明日いずな
第1話 兎機関と大ツ・バール帝国
大ツ・バール帝国は、初代国王ツ・エイワン・クインクヲンにより大陸中央部に北の王国の庇護下でツ・バール国として建国した。
第20代国王ツ・エイデル・リョウリンは、国名を大ツ・バール帝国と改名し、自身を皇帝とした。
月日は流れ第21代皇帝ツ・リンクン・エイクオンは、正室との間に子供はなかったが、10人の側室から八男十二女を儲けた。
第一側室のツ・エイレイ・ミュナディアが生んだ長男ツ・リンケン・クンエイは、亡き祖父である第11代宰相のツワ・リンデル・リョウクンの日記を元に帝国の情報機関として、
皇太子であり次期皇帝を指名されているクンエイは、エイクオンの執務室を訪ねた。
「皇帝陛下、イスカミューレンの息子のイルルミューランにリズディアを嫁がせるにあたり、お願いがあります」
クンエイの言葉にエイクオンは、お願いの内容が気になり、探るような表情でクンエイを見た。
「なんだ、改まって。二人だけの時は父で構わないぞ」
「かしこまりました。では父上、お願いの内容なのですが、実は兔機関の隠密性が薄れてしまいそうなのです」
エイクオンは、自身の考えていた内容とは違った事からホッとしたようだ。
「10年前のアツ家の取り潰しの時に、兎機関による情報収集が決め手となりましたが、あまりに情報が正確だった事から一部の貴族が兎機関の存在を疑っている節があります。情報収集の需要性は大きいのですが、このままでは兎機関の存在が発覚する可能性が出るやもしれません」
エイクオンもリョウクンの日記の内容から情報収集の重要性は理解していた。
その具体的な方法を長男のクンエイが国の秘密組織として兎機関を作り、貴族の不正や他国の情報収集を行なっていた。
それが、大物貴族であるアツ家の取り潰しにおいて、その証拠固めが見事だった事から貴族達が兎機関を探るような動きが出ていた。
「そういう話だったのか。……。しかし、兎機関とリズディアの結婚が何で結びつく?」
「はい、兎機関をイスカミューレン商会の一部門として引き受けてもらえないかと思います。その為、イスカミューレンの息子のイルルミューランと妹であるリズディアの結婚によって繋がりを強くしておきたいのです」
「うーん、イスカミューレンとは幼年学校時代からの付き合いだからな。あいつと私とは問題無いが、その後の事か」
エイクオンは、考えるように言葉にした。
「イルルミューランにリズディアを嫁がせる事で、関係を強化し兎機関をカモフラージュさせるためにイスカミューレン商会を使おうというのか。だが、それだと、リズディアを嫁がせたらイスカミューレン商会が疑われるのでは、……。いや、イスカミューレンは、この婚姻によって爵位も受けず、リズディアの皇位継承を放棄させる事で、貴族達を説得していたな」
クンエイは笑みを浮かべた。
「はい、都合良くイスカミューレンが動いてくれましたから、それに乗ろうと思います」
「それで」
「リズディアは皇位継承を末代まで放棄するとなっておりますから、その前に皇族籍を剥奪する事で他の貴族へ示します。ですので、皇城では結婚式を行う事はせず、皇位継承の退位式となります」
「なるほど、ツワ、ツヤ、ツフの家の方はどうだ? 宰相家のツワ家は30を過ぎたら、このまま皇室で、その才能を使った方が有効だから各国との外交を任せた方が良いとか言ってたが、……」
「問題ございません。リズディアがイスカミューレン商会に嫁ぐ事で経済面で支える事になりますから、三大公家のお抱え商会の支援も行う事になります」
「それなら三大公家への利益も増えるか」
「それにイスカミューレン商会では風車の粉挽きをヒントに水車を使い動力にした工作機械を開発中です」
「ん、お前が進めている門の開閉用水路の水を利用する権利か」
「はい、門の開閉用の水路は、門を使わない時は下流に流すだけになっておりますので、水路の水を利用した水車によって動力として使います。その力を利用した工業製品を開発中です。開発に成功して三大公家に使ってもらえれば生産量も増します。お抱えの職人の生産量が増える事になれば彼らとて嫌とは言いません」
「なる程、その開発品を無料で提供するようになっているのだな」
クンエイは笑みを浮かべた。
「その開発中の物は高額にもなり、それを無償提供した相手は生産量も増えて販売量も増えれば利益も上がるわけか」
「リズディアの婚姻によって利益の供与も有れば、三大公家も首を縦に振りましたので、表向きは、リズディアの婚姻により利益の供与となります。そして、兎機関の職員もイスカミューレン商会の営業担当となれば、邸内へ入る事も可能となりますので、内部の情報員との接触も楽になります」
「ふん、三大公家の成功を見せれば、外様の貴族達も国外の王侯貴族達にも伝わればイスカミューレン商会から購入を検討する。その交渉は兎機関だという事か」
「はい、商会を隠れ蓑にして情報を集めるシステムを構築します。血縁のリズディアがイスカミューレン商会に入り、表向きは縁戚関係を切る事で警戒される事を防ぎます」
エイクオンは、納得するような表情で聞いていたが、何か引っ掛かるような表情をした。
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