第4話 俺も彼もこれがフラグになるなんてなんて。


小春と組手をすることになったため、正面から向き合い、互いの動きを観察し出方を伺う。一挙手一投足に集中し体に英気──漫画やアニメで言う魔力のようなものを循環させる。これによって動体視力と身体能力が格段に上がる。


小春も俺と同じように英気を自身の体に循環させている。俺はとりあえず自分から仕掛けることにした。接近し小春の構えている右手を自分の左手で払いのける。すぐさま小春が左手で俺の左手を払いのけ距離を取った。


「攻めて来ないのか?」


「うーん、だって兄さんには絶対勝てないし、痛いのは嫌なんだよね」


「加減はしてるだろ」


「うん、確かに兄さんに投げられるときは受け身が取りやすいよ?けど、それはそれで腹立つんだよね」


「小春君も男の子だものね」


「その口調やめて」


視線を横に逸らしてみれば床に座って春子と星奈がお菓子を食べていた。あいつら組手をするんじゃないのか。それにお菓子はさっき片付けたはずだが……。


すると小春が接近してくる気配を感じたので俺の襟元を狙った左手を払いのけ、軽く足払いをかけた。それを片足持ち上げることでかわす小春。すぐさま右手を仕掛けてきたのでそれも払いのける。


少し脇が開いていたのでそこを狙って右手を入れるとそれを狙ってたのか小春が右腕を絞めて俺の右手を固定した。俺は動けなくなったことに動揺せず、右手で小春の脇をくすぐった。


「うっ、兄さん、組手でそう言うお遊びはくふふっ」


「ほらほらどうした、放さないならずっとくすぐり続けるぞ?」


そう言ったら超近距離のビンタを放ってきたので空いてる左手で払いのける。それに小春の力では俺の動きをずっと固定することはできない。少し力を入れて体を捻ることで俺は小春から逃れ距離を取った。


「小春、あの二人モサモサ菓子食ってるぞ」


「ほんとイラつくよね。特にセイ姉はあれだけ組手を望んでたのに」


「そこ男子二人、女子の行動に文句をつけないの!」


星奈が横から抗議してきた。


「セイ姉が女子?ゴリラの間違いじゃないの?」


「うわあ、小春君、そう言うこと言うんだ~、へ~。なら、今からわたしと組手する?」


「そう言う短気なところもまた……」


「これはなに言ってもわたし、ゴリラになりそうね……」


だって始めて会ったときから俺の星奈に対する印象もそんな感じだからな。普段大人しい小春が熱血女子の星奈にうんざりするのもわかる。まあそう言うのもいつかなれる。


「小春が星奈とやるなら俺は抜けるな」


右手を上げ俺はその場から退散した。


「えっ、ちょっと待ってよ兄さん!」


ごめん小春。俺も組手やるの面倒になってきたんだよね。星奈が立ち上がり屈伸し始めた。そして小春に迫る。


「それじゃ行くよ!小春君!」


「嫌だ!僕はプロレスが嫌いなんだあー!」


この後小春の悲鳴が響いた。


◇ ◇ ◇


季節は桜の花開く春。無事アトラ高校の入試に合格した俺と星奈は晴れて今日から高校生だ。桜の花弁がそよ風に流れるのを視界に納めながら俺は校門を潜った。隣には鼻歌を歌っている機嫌のよい星奈がいる。胸元には十十木母とおそろいの赤い『英霊石』をかけている。


「おい、あの子可愛くね?」


「めっちゃ美人……綺麗な銀髪……」


星奈の容姿は目立ち可憐だ。他の新入生たちの視線──特に男子の目がこちらに向く。俺たちはそれを気にせずに張り出されてるクラス分けの表を見に行く。


「英二君と同じクラスだったらいいな」


星奈が嬉しいことを言ってくれる。俺も気心知れた奴が同じクラスに居ると助かる。可能なら同じクラスになりたいものだ。


「そうだな」


と、同意しておく。表を見た結果俺は一年Bクラス。星奈は一年Dクラスだった。どうやら違うクラスらしい。まあ仕方ない。クラス分けは学校が決めることだ。俺たちはそれに大人しく従うしかない。


「残念、違うクラスみたいね」


星奈もどこか不満そうに顔と声に出す。あまり気にし過ぎないようにして欲しい。


「そうだな」


「もう!さっきからそうだなあ、としか言ってないじゃない!もっと不満そうにしたらどうなの?」


「別にいいじゃないかクラスぐらい」


「良くない。それに英二君の目的忘れたの?」


「まあそれも何とかなるだろ。クラスでは大人しくしてる、それにあれ」


俺はBクラスのある名前を指さす。それを見て星奈が首を傾げた。


「あそこに書いてる小園龍心って俺のおな中の友達なんだよ。別に一人ってわけじゃない」


だから一人寂しい思いはしないで済むだろう。たぶん。龍心も俺の名前を見つけて同じことを考えているといいな。


「ふーん、英二君いつも休みは家に居るから友達なんていないと思ってたわ」


実際それは事実だ。俺は友達は三人ぐらいしかいないし、俺含めて四人とも友達と休みの日にどこかに遊びに行きたがる人種じゃない。皆、学校で一緒に学食食べたり会話したりするだけで十分だと思っている。


「それじゃここで一旦お別れね」


「ああ、俺の下駄箱こっちだから、じゃあな」


「ええ」


俺たちは別れ俺は一人自分のクラスの下駄箱に向かい靴を履き替えた。すると背後から俺に迫ってくる誰かの気配があった。


「おっす!英二!」


そう言って俺の背中を叩いてきたのは龍心だった。首元には緑色の『英霊石』を仕込んだネックレスをかけている。少し焼けた肌に元気な雰囲気を持つイケメン。俺の中学一年の頃からの友達で親友だ。


「なあ英二」


「なんだよ」


「さっきまで一緒に居たあの子、一体誰だよ。めっちゃ、可愛い子だったな!」


どうやらさっきまで星奈と一緒に居るところを見ていたらしい。


「見てたなら話しかけて来いよ」


そうすれば星奈を紹介したのに。


「いやあ、あの子に話かけるのは勇気いるわ。うん、無理」


どうやら星奈の魅力に引け目を感じて話しかけてこれなかったらしい。そんなに気を使わなくてもいい相手なんだがな。星奈は見た目はインパクトあるが話せば気さくで話やすい。というか若干筋肉お馬鹿なので気にするとこっちが疲れる。


「それであの子とは付き合ってるのか?」


「付き合ってない」


「だよなあ、お前昔から女子に興味ないって顔してるもんな」


「そっちこそサッカー以外には興味ないって顔してるぞ」


「まあな」


龍心は小学校のクラブ活動からサッカーを始めたらしくこの高校でもサッカー部に入る予定らしい。俺は特に入りたい部活もないしさっさと家に帰って読書でもしたい。あとアニメ観賞とか。


俺たちは一緒にBクラスの教室を目指し着いた。教室の扉は開いておりすでに人の声がしていた。入学早々賑やかだ。皆今からグループ作りに励むのだろう。俺は龍心ともう一人、松田淳樹という男にしか興味のない変わり者の友人が居るから十分だ。さっき淳樹の名前を探したらCクラスに名前が載っていたからあとで声を掛けに行こうと思う。


教室に入り名簿順に決められた席を黒板に書かれた図で確認したあとそれぞれの机に荷物を置いた。俺の席に近づいてきた龍心と再び合流し話し合う。


「隣のクラスの淳樹、探しに行くか?」


俺の机に座った龍心が椅子に座った俺より高い視線から聞いてくる。


「いや、淳樹も自分のクラスでグループを作りたがるだろ。あとで行こう」


「そうか?俺は男漁りにせいを出すに一票」


「俺もそれに賛成」


中学時代アイツのせいでトラウマ背負った男子生徒が何人いたか。悪い奴じゃないし顔も良くて可愛らしい感じの男子なのだが……。


可愛い男の子が好きな女子にモテるのに男にしか興味がないその性格が災いして恋人ができたことがない。サッカーにしか興味がない龍心。


ラノベやアニメにしか興味のない俺。男にしか興味のない淳樹。俺達三人は馬が合ったため今も仲良くしている。


「まあ淳樹も入学早々無茶したりしないか」


龍心がそう言って笑う。俺もそう思ったため同意しておく。


「それもそうだな」


これがまさか──フラグになるなんてことは、俺も龍心も考えてなかった。


◇ ◇ ◇


入学式が終わりそのあとのホームルームも終わった。俺と龍心は淳樹が帰宅する前に一度会っておこうと思い隣のCクラスに向かったのだが……。


「ねえ、今から僕と帰りに寄り道しない?」


「い、いいい、いいですっ。僕は一人でかかか、帰るので!」


ある男子生徒にナンパをかける淳樹を見つけた。自分の席に着いた男子生徒に迫り肩に手をかけて甘い声をかけていた。それを見て俺と龍心はげんなりした。こいつマジで入学早々やってるよ……。まさかさっきの俺と龍心の会話がフラグになってたりしないだろうな?


「そんなこといわずにさ、ねえ、僕とどこか出かけない?」


そう言って男子生徒の耳元に息を吹きかける淳樹。うーん、実に色っぽいがやられてる側は最悪だ。顔がいい可愛らしい相手だが、相手は男だ。しかも多分初対面だろう。あの迫られてる男子生徒が気の毒すぎる。


限界が近かったのか男子生徒は立ち上がり叫びながら逃げ出した。


「け、けけけけっこうですうー!」


横を走り抜けていった男子生徒は顔が真っ赤で涙目だった。可哀そうに。


「はあ、また振られちゃったな、まっ、いいけどね」


そう言って髪をかき上げる仕草をする淳樹。これもこれで絵になる奴だから質が悪い。すると俺達の存在に気づいたようでパアと顔が明るくなる。その顔女子に向けてやれよ……。


「やあ二人とも。僕に会いに来てくれたのかい?」


「まあそうなんだけど……」


一応同意しておく俺。


「急に帰りたくなってきたんだけど俺」


早々に帰宅を希望する龍心。気持ちわかる。


「英二君、帰ろ」


後ろから星奈の声が聞えてきたので振り返る。そこには帰る準備万端の星奈の姿があった。どうやら一人らしい。友達はできなかったのだろうか?


「お前ひとりか?」


「うん、さっきまで仲良くなった子と話してたんだけどね」


どうやら友達ができなかったわけではないらしい。俺の我儘でこの学校に入学させてしまった手前、星奈には充実した学校生活を送ってもらいたいからな。俺は二人に星奈を紹介することにした。


「二人とも、こちら十十木星奈。俺ん家の居候でそこそこ親しい奴だ」


「どうも、十十木星奈です」


星奈の自己紹介に対して龍心と淳樹は対照的な表情を浮かべた。邪気のない爽やかな顔を浮かべた龍心は挨拶する。


「俺は小園龍心。英二とは中学からの親友だ、よろしく」


一方、淳樹はどこか冷めた表情で自分より少し身長の高い星奈を見つめた。


「僕は松田淳樹。よろしく」


これで自己紹介はお仕舞。淳樹は星奈に冷たく感じるが淳樹はすべての女子に対してこう接する。普通に女子とも話すし遊ぶこともある。でも本人はあまり楽しくないらしい。


俺たちは四人で下駄箱に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る