第3話 これはプロレスじゃねーよ。


俺は十十木家の家計全般を支えることにした俺は自宅に十十木親子を住まわせることを提案した。俺の両親と十十木母が話し合って俺の意見が採用された。俺の両親は優秀な人が好きだ。だから会話やその能力から十十木親子が優秀なのを見抜き即座に気に入り懇意にすることを決めたっぽい。


玄関には荷物を持った十十木親子が居る。二人はうちの広い家を見て驚いているようでキョロキョロ視線がさ迷う。


「どうぞ上がってください。二人分くらいの部屋は余っているので安心してください」


「すごく大きい家ですね。ビックリしました」


「わたしの部屋も期待していいのかしら?」


「期待に応えられるかはわからないが普通の部屋よりは広いぞ」


二人を二階の部屋にそれぞれ案内する。階段を上がり一番奥にある右手の部屋とその隣の部屋が空き部屋だ。二人をそれぞれ部屋に入れた後、俺は茶菓子と紅茶の準備に取り掛かった。


◇ ◇ ◇


家の隣にある道場で賑やかな声が響くのを耳にして目を覚ました。昼寝をしていたのだがどうやら窓を開けっぱなしにしていたらしい。声の主は聞いてみるとどうやら双子の兄妹である春子(妹)と小春(弟)と星奈の三人がなにか騒いでいるようだ。


仲良くなったことをいいことだと思い、三人のコミュ力に感心する。俺は友達付き合いが苦手だからすごく羨ましい。前世での俺は友達がまったくといっていなかったが今世での夜霧英二も友達が少ないみたいだ。


記憶の中にある中学の仲いい奴は三人ほど。将来小説家を目指している少女と俺と普段学食を共にする男が二人。どいつも俺にはもったいないほどの良い奴で友達が少ない今にも満足している。


「はあ~」


あくびを堪えず思いっ切りしつつ、着替えをする。見た目より動きやすい服を優先して着替え、喉を潤しに一階に降りた。リビングには誰もおらず静かだった。中学三年の春休みの今、学生は休みだが大人は仕事だ。


俺の両親も十十木母も仕事に出かけている。俺は冷蔵庫から牛乳を取りだしコップに注ぎ一気に飲み干した。はあ~潤う~。そんな感じでボーとしてると、ドタドタと誰かが駆けてくる音がした。


廊下の走ってやって来たのは星奈だった。今日も元気一杯、顔を輝かせて俺を見つける。


「先生!暇なら稽古つけて!」


「星奈、俺のことは先生と呼ぶな」


星奈との暮らしが始まってから気づいたことだが……俺は星奈より強かった。身体能力も体術も剣術も知力も俺が上だった。だからうちにある道場を使って日々体を鍛えている俺達三兄妹と星奈が稽古をするのは自然の流れで、いろいろやってるうちにいつの間にか星奈に先生と呼ばれるようになっていた。


こいつを弟子にした覚えはないのだが……。自分が強いとわかったからと言って星奈を追い出すなんて薄情な真似はせず俺たちは家族のように生活するようになった。俺はこれでも学校での方針を変えるつもりはなかった。


実力を隠す気はないがやる気もない。星奈の影に隠れてのんびり青春を過ごすつもりだ。それに小説では星奈より強い生徒はそれなりにいた。星奈より強いからと言って俺が一番強いわけじゃない。


だから余計なシナリオ介入やでしゃばりをするつもりはない。


「英二君、暇なら稽古つけてよ」


「ええ~、めんどくさい~」


「いいから付き合いなさい!」


なんで急に上から目線?まあいいか……。一日体を動かさなかっただけでもなまるものはなまる。俺も体を動かしたほうがいいと感じたので行くことにする。


「最近春子ちゃんも小春君も『英霊石』との共鳴性が調子いいんですって」


「ああ、あいつらも成長期だからな。伸びしろなんだろ」


『英雄石』との共鳴性は大事だ。共鳴率が高いほど高い身体能力や発達した能力をより強く発揮できる。記録では成長期に『英霊石』を身に着けていたほうが共鳴性が上がるとの結果も出てる。今が春子と小春の伸びしろなんだろ。


「英二君、英霊石は?首に掛けてないの?」


「ああ~、部屋に忘れた」


「まあ英二君なら必要ないか……」


「まあな」


驚いたことに俺は英霊石なしでも身体能力がずば抜けて高く、十十木母と同じく二つの能力を手にしていた。基本、英雄の血を継いでいても能力は発現しない。発現率は十人に一人の割合である。


道場に着き中に入ると隅で動きやすい格好をした春子と小春がお菓子を食べていた。


「道場で飯食うと父さんが怒るぞ」


「あっ兄さん、起きたんだ。一生寝てればいいのに」


この俺のことを兄さんと呼ぶのは中学一年の弟小春。俺に似て爽やかな雰囲気を持ち、俺以上の美形だが……兄の俺から見てもこいつは性格が悪い。まあ友達が居るみたいだし学校生活でも擬態しているようだから問題ないのだろう。


「お兄ちゃんもお菓子食べるう?」


俺をお兄ちゃんと呼ぶのは妹の春子。この子も一癖あり、学校でファンクラブができるほど人気らしい。だがこの子は可愛い子ぶりっ子している。兄の前ですら甘ったるい声を出して誘惑してくる。前世にも居たな。こんな奴……。俺のことは眼中にないようだったから関わりはなかったけど。


二人とも星奈ほどではないが優秀で英雄の血を色濃く受け継いでいる。将来は優秀な冒険者にでもなるのかな?


「二人ともお菓子ばかり食べてないで稽古しよ。英二君も来たことだしさ」


「ええ~、セイ姉さん、僕たち疲れたよ~」


「そうだよお~。あんまり筋肉ばかり追い求めてると彼氏ができないよお。セイ姉」


「わたしは筋肉を追い求めているわけじゃないんだけど……」


「でも毎日プロテイン飲んでるよな?」


「英二君は黙ってて」


二人を無理やり起こしてお菓子を片付け始める星奈。散らかったお菓子のクズを箒と塵取りで片付ける。二人が嫌々な顔で立ち上がりブラブラとふらつく。そんなに嫌なのか……。それとも今まで稽古をしていたのか。


「兄さん、僕と稽古しようよ」


「別にいいけど」


「ええ~わたしがお兄ちゃんと稽古するう~!」


「ダメだよ春子。先に言質を取ったのは僕だ。諦めてセイ姉さんとするんだね」


「嫌だよ~。だってセイ姉、組手なのにスープレックスかましてくるんだも~ん」


スープレックスってプロレスかよ……。というかこの二人相手にその技決めるってどういう動きしてるんだ?


「うっ……わたしの相手するのそんなに、嫌?」


瞳をウルウルさせて庇護欲そそるような感じで二人を見つめる星奈に対して……。にっこり笑った二人は──。


「「うん、嫌」」


容赦ねえなこいつら。

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