第2話 ゴリラ美少女との交渉
十十木星奈──小説世界で強キャラに分類されるキャラ。対面した彼女の雰囲気は小説世界での印象である大和撫子ではなく、凛とした佇まいの体感の良い元気溌溂とした少女だった。
とりあえず濡れた彼女に俺の着ていた上着を差し出した。このまま風邪を引かれたら俺が困る。
「とりあえずこれ着とけ」
「どうも?」
頭に疑問を浮かべながらも大人しく上着を羽織る十十木。
俺は少し悩んだが素直にお願いしてみることにした。下手に誤解を与える言い回しをしても良くない。直球でお願いする。
「君にお願いがあるんだ」
「わたしにお願い?まだ初めて会ったばかりのはずだけど……」
怪訝な顔を浮かべる彼女。確かに警戒させてしまったかもしれない。急に初対面の人間にお願いされても困惑するだろう。
「ああ、今日が初めましてだ。俺は夜霧英二。君と同い年。君の才能に頼りたいことがあってね……君には俺と一緒に英霊法術アトラ高校に入学して欲しんだ」
「えっと、わたし、ステラ女学院に通う予定なんだけど……」
ステラ女学院とはアトラ高校の姉妹校の一つで女子高。その他に三つの学園を入れて五つの学園が姉妹校として繋がっている。
「そこを曲げて頼む。俺には力ある英雄の卵の力が必要なんだ……」
俺は誠心誠意の気持ちを込めて十十木を見つめる。すると彼女はなにかを悟ったようにポンと手を叩いた。
「これはあれね……モデルか芸能のスカウトね!」
顔を輝かせて髪を片手で靡かせる。
「確かにわたし、可愛いものね……あなたがわたしをスカウトしたくなる気持ちもわかるわ」
自信満々だなあ。
「悪いけど違う」
「……違うの?」
「違う」
「ほんとに?」
「ほんとに違う」
「……そう、違うのね……」
なんかがっかりしたオーラを出す十十木だ。本当に申し訳ないがスカウトではない。そもそも十二歳のスカウトマンが居るかって話だ。この子はちょっとお馬鹿さんなのかな?
「それならなんでわたしが必要なの?わたしがアトラ高校に行って何ができるの?」
「アトラ高校が実力主義の学園なのは知ってるか?」
「ええ、確か英雄生と一般生にわけて差別されるとか……それで学園の雰囲気がギスギスしてるとか……」
「ああ、それで俺は実力がない。だから実力ある人間の後ろに隠れて平穏な学園生活を送りたいと思ってる」
「あっ、あなたその見た目でダメ人間なのね」
俺の見た目は中性的な爽やか男子と言った感じだ。時々、両親や妹や弟、宮地さんから目が死んでると言われることもあるが、ぱっと見陽キャに分類される。だからだろうか……前世では女子に話しかけるだけで不信感を与えていた俺が話しかけても十十木は普通に接してくれた。
正直自分でも女の子と普通に話せている自分に驚いている。やはり男は見た目が大事なのか……つくづくそう思う。
「その代わり、俺が君に掛かる学費や食費をすべて負担する……どうだ?」
「あなたお金あるの?あっ、確か夜霧って……」
夜霧と言う苗字はそこそこ有名だろう。英霊の血を引く人間がより力を発揮するために必要な『英霊石』の開発に尽力しているのが五つの夜を冠する家だ。夜鉄、夜花、夜我、夜木、夜霧。この五つの、過去の一つの家から生まれえた分家である五家が有名だ。
「それに俺は冒険者として活動した貯えがある……君一人ぐらいの学費なら払いきれる」
前世の記憶を思い出すまでの俺はどうやら趣味で冒険者活動をしていたらしく、通帳にそれなりの額が刻まれていた。正直ビックリだ。前世で嫌々ながらバイトしていた自分が馬鹿らしくなるくらいの額だったからだ。
「うーん……悪い話ではないと思うけど……」
「やっぱまだ俺を信用できないよな……」
「そうね、それもあるわ。それにお母さんと相談しないといけないもの」
「だよな……ちなみに君のお母さんは今日来てるのか?」
「あそこに居るわ」
彼女が指さした先には読書をしてベンチに座っている女性が居た。面倒だが挨拶しないといけないか……。
「君のお母さんに話を聞いてもいいか?」
「うーん……いいけど……多分信頼されるためにわたしと決闘することになると思うわよ」
「なんで?」
意味わからん。信頼を勝ち取るために決闘?どこの少年漫画の主人公だよ。戦いの末に勝ち取る信頼……殴って伝わる絆の強さ……俺にはさっぱりわからん世界だった。
「わたしたちの家って実力主義なの……強い男が好きだし、信用するわ」
「つまりゴリラってことか……」
「今なんて?」
「ごめん、脳筋の間違いだった」
「あなた誤魔化す気あるの?決闘関係なしに殴るわよ?」
やっぱり脳筋じゃねーか。さっきのことと言い今の発言の事と言い短気で喧嘩早いこの性格はあの学校でやっていけるのだろうか?いや、これだけ負けん気があったほうがあの学校ではいいのか?
歩いて十十木の母親に近づき声をかける。
「あの少しいいですか?」
「はい?なんでしょうか?」
「お母さん、この人が学費と食費を払ってくれえる代わりにわたしにアトラ高校に通って欲しいんだって」
「そう……いいんじゃない?」
「「かっるぅ」」
なんかすぐに母親の了承を取れそうなんだけど……。え?なんで……俺なんかこの人に信用されることしたっけ……。うーん、初対面のはずなんだけど……。
すると母親が胸元から一つのネックレスを取りだし見せてきた。これは……『英霊石』か。ネックレスには赤い色をした『英霊石』が埋め込まれている。これとなにか話に関係があるのだろうか。
「わたしには未来とその人の人相がわかるんです……。だからあなたのやろうとしてること、この先の未来、あなたの気持ちがわかるんです」
「なるほど……」
どうやらそれが母親が『英霊石』で手に入れた力らしい。しかし、相手の人相を測れるのであればなぜ俺は合格したのだろう……。やる気がないダメ人間。それが俺の俺に対する認識だ。
「お母さん、いつもの決闘しなくていいの?」
「いいわ、それにあなたじゃ彼に勝てないもの……」
「むっ……」
隣に立つ十十木がムッとして睨んできた。睨まないで欲しい。というかお母さん、俺はただのモブキャラだぞ?正直本気で十十木に挑まれたら普通に負けると思うのだが……。なぜか過大評価されてる自分に疑問を抱く。
「はあ、まっ、お母さんがこう言ってることだし……よろしくお願いします」
十十木が握手を求めて手を差し出してきたのでそれに応えた。
「こちらこそ、よろしく頼む」
よしっ!十十木星奈、ゲットだぜっ!
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