俺の弟子が乙女ゲー世界で自由過ぎる件
黒夜
第1話 転生と出会い。
目覚めてベットから起き上がれば知らない部屋だった。いつもなら起きてすぐ出かける準備をして大学に向かうところだが……。
「どこだここ……」
周囲にはクローゼットと鏡台や本棚が見えて。普段の何も置いてない俺の部屋からは想像できないほど物に溢れていた。
意味がわからんが、とりあえず顔を洗い髭を剃らないとと考え、顎を触るといつものざらざらした感触ではなく十代の頃のようなさらさらした感触を感じた。
「俺の髭が……ないだとっ」
近くにある鏡台で俺の顔を確かめてみると知らない顔だった。
「誰だお前……」
いや俺か……。それにどこかで見覚えのある顔だ……。あっそうだ。最近読んでハマった小説『英霊法術科の【一般生】ノーマル』と言うタイトルの本に登場する夜霧英二の顔に似ている。
机に日記帳らしき物が置いてあったので読んでみることにした。
ペラペラと捲って読み進めていくうちに段々と俺の知らない記憶が頭の中に溢れてきた。ああ、そうだ。俺は夜霧英二、十二歳だ。そう自覚しこの世界のことと自分のことを自覚した。
どうやら俺は小説世界に転生してしまったらしい。夜霧英二として……。
「なんてこった……」
俺は再びベットに後ろから倒れ、横になってため息をついた。
◇ ◇ ◇
この世界に転生して数日が立ち新たな生活にも慣れてきた。それでこれからどうするか俺は考えた。
この世界は現代ファンタジーバトルアクション的な設定の世界で英霊法術という前世ではなかった技術が発達している。
英霊法術とは英雄の血を色濃く受け継ぐ人間が、英雄の血に反応する『英霊石』を持つことで共鳴し、高い身体能力を手にすることができる技術だ。中には強く『英霊石』と共鳴し、特殊な能力を獲得する人間もいる。
シナリオ通りなら俺は三年後、英霊法術アトラ高校に入学することになっている。ただ、そこの学校は実力主義の学校で弱者には厳しい学校だ。親の方針上他の学園に通うことは無理だろう。
小説にまったくと言っていいほど登場する機会がなかったモブの夜霧英二では過ごしていくには厳しい学校だろう。ならどうするか?
決まっている。今のうちに強くて頼りになる強キャラを味方に引き入れておくのだ。幸い今の俺の家は裕福でお金に困ってない。金銭的な支援を条件に仲間になってくれるよう頼めばなんとかなるかもしれない。
お金に困っていて且味方になってくれそうな強キャラは……。ああ、一人いる。確か名前は十十木星奈。英雄の血を色濃く受け継ぎ剣術に優れ高い知力を持つ女の子。彼女は確か母親と二人暮らしで言っては何だが貧乏だ。
小説の設定でもヒモジイ思いをしながら学食を食べている様子を描写してあった。彼女を味方につけて俺は彼女の後ろで大人しくしてよう。決めた。俺はこのやり方で学校生活を過ごしていく!楽せずしてどうするか!誰も異論など挟ませない。
「宮地さん、車を出してください」
お手伝いさんのおじさんである宮地恭介に話しかける。
「どちらかに行かれるのですか?」
「ちょっとね……」
「では行きましょうか」
俺は宮地さんに車を出してもらって休日のある公園に連れて行ってもらう。今から行くことになるのは一般人に比べ身体能力が高い子供専用に作られえた施設内にある公園だ。そこには将来期待の英雄になるかもしれない子供たちが日々遊んでいる。
十十木星奈も例にもれずよく遊んでいたと書いてあった。なら、可能性は低いがいるかもしれない。車に乗りシートベルトをはめる。
「ではどちらへ?」
「俺が昔よく遊んでた公園に」
「ああ、あの公園ですね。かしこまりました」
宮地さんが車を発進させる。数十分無言の時間が続きやっと着いた。車を降りて公園に向かう。宮地さんは車でお留守番だ。俺は施設の入り口をくぐりすぐ近くに見えた自販機で炭酸を買った。
それを飲みながら公園に向かい着いた。公園では大勢の子供が遊んでいて賑やか元気一杯、騒がしかった。前世の記憶を持つ俺はあまりこの騒がしい光景が好きではないが、子供が遊んでいるだけだから微笑ましくもなる。
公園の隅にあるベンチに座りスマホゲームをする。ゲームをしながら俺は遊ぶ子供たちを観察して目的の彼女がいないか捜した。二時間ほど時間がたちもう疲れてきた頃……。まさかの彼女を見つけることができた。
「やめて!やめてってば!」
「えーい!えーい!くらえ!」
「これでもくらえ!」
「おらおらどうした!何もできないのかよ!」
三人の男の子に囲まれて水風船を投げつけられずぶ濡れになった彼女──十十木星奈がいた。彼女は蹲りながら固まって水風船を男子三人に投げ付けられていた。悲鳴をあげ嫌がった様子を見せている。
彼女の見た目は長い銀髪を後ろでまとめていて、均整の取れた顔立ちをしている。どこかのお嬢様と見られてもおかしくない綺麗な女の子だ。男子たちがついいじめたくなっちゃうのもなんとなくわかる。
だが、ちょっとやり過ぎかな……。これで彼女が風邪を引いてしまったらどうする。俺はベンチから立ち上がり彼女達の下に向かおうとするが……。
蹲る彼女の口元がニヤァとなったのを見て足を止めた。
「このダサ男子たちめ!」
彼女が素早く立ち上がり一番近くに居た男子の胸に手掌を放ち吹っ飛ばした。
あ、あれ?
次に二人目に狙いをつけ右足を後ろ手に蹴り上げ男子の股間に命中させる。男子はその場に蹲り股間を押さえ固まった。
い、痛そうお……。
最後に突然の男子は腰を抜かし倒れていた。その男子に近づき彼女は可憐な顔でにっこり笑う。
「次、いじめてきたら、殺すから。ね?」
「「「ひい~!」」」
三人の男子は悲鳴をあげて逃げていきその場には口をぽかんと開けて立ち止る俺と彼女が残された。ど、どういうことだ?彼女はお淑やかで蚊も殺せぬ優しい子だったはずだが?俺の知ってる彼女じゃない……。
でも間違いなく彼女の顔は幼さを残してはいるが十十木星奈だ。あの男子を追い払った身のこなしからしても可能性は高い。すると彼女がこっちを見て目が合った。少しずつ近づいてきて俺の目の前に立つ。
ああ~なんか急に話すのが憂鬱になってきたんだけど……。
「あなた、さっきからわたしの事を見てるけど、なにか用?」
これが俺と未来の俺の弟子との出会いだった。
◇ ◇ ◇
【神視点】
この手で転生させた男の思考を読んで僕はため息をついた。
「君が転生したのは小説世界じゃなくて、乙女ゲー世界なんだけど……しかも自分の実力を勘違いしてるし……」
男が転生したのは乙女ゲー『聖女は踊らない』で、決して小説世界『英霊法術科の【一般生】ノーマル』じゃない。ただ男が勘違いするのも無理もないと思う。
「確かにその小説は乙女ゲーのスピンオフ作品だからね……」
設定やシナリオが微妙に異なっているが……。男はいつか気づくのだろうか。
「はあ……とりあえず、観察してみるか」
僕は面白そうな話を期待して男を観察することにした。
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