第43話 離宮での新生活
クレールの王太子即位式の前に、ベネットとメルはひっそりと王宮を後にした。
離宮は国の西はずれにある。
食料や生活必需品を調達する町からも馬車で半日かかるほど離れている。
寂れた土地にぽつんと立っている一軒家である。
王太子を辞した『呪われた王子』を軟禁するためだけに用意された屋敷で、離宮の体裁を整えるためにそれなりに広いが、修繕も掃除もされていなかった。
「なつかしいな、ヴァルカン殿が派遣してくれたテティスがいなければ、このぼろ屋敷の中どうやって暮らそうか、途方に暮れるところだったんだ」
メルやベネットたちと一緒に離宮に足を踏み入れたレナートが、昔を振り返り言う。
数十名の監視の人間が同行しているが、少し離れたところの宿舎に皆住まうこととなっていた。
こちらの建物は、離宮よりこじんまりとしていて手入れも行き届き清潔である。
「毎日、訪ねてきては屋敷内のあちこちを見回るから、掃除や手入れはベネットらが使う寝室と厨房など日常生活に必要な空間だけでいいぞ、でないと怪しまれる」
「そういえばそうだったわ。やろうと思えば魔法で離宮の中全部、一瞬できれいに掃除修繕できるんだけどね」
レナートとテティスが忠告した。
「俺たちは三日に一度食料品や生活必需品を届ける業者に扮してここを訪れるから、その時に脱出の手はずを詳しくつめよう、じゃあな!」
二人はそう言って近隣の町に帰っていった。
「まあ、聞きしに勝る粗末さですわ。私は料理も掃除もできるから大丈夫ですけどね」
ばあやが離宮内部を見回しながらため息をついた。
「では、私も手伝います。教えてください」
これから平民になるのですから、と、メルは申し出る。
「そうですか、では汚れてもいいお衣装に着替えてから」
新たな生活に向けてメルの挑戦が始まる。
ベネットの方は前もってレナートから使用人らがする仕事も教わっていたので、倉庫に積まれている薪をみつけてそれを割り始めた。
「それにしても、テティス様って伯父上様のそのまた前の『呪われた王子』のお知り合いだったのですか?」
メルはばあやに尋ねた。
「そのようですね。聞いた話によると、テティス様のお母上がギルドの冒険者でなんでも、先代のヴァルカン様の作った武具にほれ込み、そこからの縁だそうです」
「へっ?」
「レナート様の前の『醜い王子』だったヴァルカン様は、王子でありながら鍛冶仕事の好きなお方で、王太子時代から趣味でそれをたしなまれており、その技術はギルドのつわものたちもうならせるものだったそうですよ」
「そんな変わった王太子様がいたのですか?」
「はい、王族として期待されないがゆえに、らしくないところのある王子様が多いようです。そもそも、他国へ逃げ出して新しい生き方を見つけるという発想は、確か五代前の王子様がたいそう旅行が好きなお方で、お役御免となった後で他国へ渡り、その後自分の後の『呪われた王子』を慮って、国外脱出とそのあとの生活の面倒を見たのが始まりだとか」
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