第42話 王家を出し抜け
「つまり、メルはこれから新たに生まれくる子供も苦しむようなことがない形をとりたいということだね」
ベネットが言い、メルは黙ってうなずいた。
「それは確かに気高くお優しい考えかもしれないが、こちらにとってはそれなりの危険が伴う」
レナートは難色を示した。
「あと、もう一つ気になることと言えば、呪いが消えると同時に魔石も取れなくなると思うのですが、そうなればこの国はどうなるかと?」
メルはもう一つの懸案事項を口にした。
「そっちの方は気にしなくていいかもしれない。魔石が取れて得られた富はほとんど王家が独占している。あの鉱山は掘り出すのに特別な技術がいらないので一般の労働者が入る必要もなく、優遇している貴族に山に入って魔石を一部採取する許可を与えて富を分かち合っている。それが王家の求心力になっているんだ」
呪いの結果得られる魔石採掘のからくりをベネットが説明する。
「そういえばそうだったな。あのな、普通の鉱山というのは掘り出すのにもそれなりに技術と労力が必要なんだ。だから、いざ資源が取れなくなって閉山となると、そこで働いていた多くの技術者が路頭に迷う結果となるのだが、あそこは王家と一部の貴族の使いが大した技術もなく収集しているだけだから、呪いがなくなっても失業者問題などを気にする必要もない」
レナートがさらに詳しく、普通の鉱山と呪いが産んだ王家の魔石採掘場との違いを説明した。
「あら、それなら、呪いが消えても問題なし、あなたもなかなか乗り気だったのね、レナート」
テティスが夫レナートに茶々を入れた。
「えっ、いや……、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
レナートが慌てる。
「生まれてくる赤子、働いている労働者、様々な人を気遣ってメルさまは本当にお優しい。だからベネット様もぞっこんなのですね」
ばあやが変なことで感心する。
「ばあや、なにを言って……」
ベネットが顔を赤くして慌てる。
「おや、何か違ってましたか?」
ばあやのからかいにベネットは何かもごもごと他の人間には聞こえないつぶやきをくりかえした。
メルの方もベネットの態度に頬を赤らめる。
「ああぁ、そんな態度を取られたら話に乗らざるを得ないじゃないか!」
レナートが大きな声でぼやく。
「王家を出し抜いての脱走劇、ちょっとワクワクしてきたんですけど!」
テティスもノリノリで、どうやら話はまとまった。
その後は旧王太子夫妻、つまりベネットとメルの離宮への引っ越しの準備が粛々と行われた。
引っ越しを依頼された業者のふりをしてレナートたちも王宮に変装して入り込んでいた。
「もらえるもんはできるだけもらっとけ。使わなくてもあとで換金できるからな」
商売人らしい忠告も時々する。
「そうですね。王家から進呈したメル様のお衣装、一枚残らずもらっていきましょう。それだけじゃなくもっともらえるかどうか見繕ってきますわね」
ばあやもけっこうちゃっかりしている。
「宝石とか持ち運びに便利なものの方がいいわよ」
テティスもがめつく忠告する。
こういうことは人生経験が豊富な者のほうが抜け目がないということか。
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