第41話 呪いを断ち切って去りたい

「考えって何だい、メル?」


 ベネットやばあや、引っ越し請負の業者を装って部屋に入り込んでいたレナートやテティスが耳を傾ける。


「はい、あの……、あまり外には聞かれたくないので、皆さまこちらに」


 メルが彼らを近くに呼び寄せた。


「内緒話かい? 何の悪だくみかな?」


 少しおどけた調子でレナートが言う。


「悪だくみ。確かに王家の意志には反した行為ですので、そう言われても仕方がないですが……」


 メルは答えた。


「あらあら、穏やかじゃないけど面白そう!」


 テティスがはしゃぐ。


「皆さま……、ええと、いいですか?」


 メルがおずおずと話し始めた。


 それはいずれこの国を出ることについてである。


「新しい王太子夫妻に王子が生まれたら、コッソリ脱出するという話になっています。確かにそれが無難でしょう。でも、ほんとうにそれでいいのか、と、疑問に思いまして……」


「どういうことだい?」


 ベネットが聞いた。


「魔王によって呪いがかけられて以来、代々それは受け継がれてきました。その呪いを罪なき赤子に押し付けて、ただこの国を出ていくだけでいいのかな、と」



「「「「どういうこと?」」」」


 聞いていた者たちがメルに質問した。


「私たちは呪いの解き方。つまり、この国から呪われた王子が一人もいなくなれば呪いの効力が消えることを知っています。ならば、王太子夫妻に子ができる前にこの国を脱出してしまえば、と、思いまして」


「それは危険を伴うぞ。王家も呪いのからくりはわかっているから、新しい『呪われた王子』が生まれるまでは離宮にも監視の目が入るはずだ。その目をかいくぐって脱出となると……」


 経験者のレナートが言った。


「でも、刺激的でドキドキするわね、それ! やり遂げるとなると魔女としての腕が鳴るわ!」


「おい、テティス!」


 賛同するテティスとそれをたしなめるレナート。


「どうして、ここの王家は自分たちに富をもたらすために苦しんでいる者をあんなに非情に扱えるのですか? ベネット様はこれから呪いと無縁で幸せに生きていくこともできるでしょうし、私も応援します。ただ、それだけではすっきりしないのです。結局王家は虐める人間をベネット様から、王太子夫妻の新しい子に変わるだけ。こんなおぞましい因習を残してこの国を去ることが、どうしても納得できないのです」


「つまり、王太子夫妻に子が生まれる前にベネットとともにこの国を去りたいということか?」


「はい、私のわがままでもありますが……」



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