第44話 結婚式前夜の脱出(前編)
数日後、食料品を積んでやってきたレナートたちにメルがばあやから聞いた話をした。
「へえ、そこまで聞いちゃったの」
テティスが言う。
「いけませんでしたか?」
「内緒にしているわけじゃないから別にいいよ。付け加えると、私の家系は代々、一番魔法のできる女は『テティス』って名乗ることになっているの。ヴァルカン殿と親しかった母も当時は『テティス』。じっとしていない人で冒険者たちと一緒にあちこち行ってね、魔法能力は重宝されたのよ」
「まあ」
「それで、魔力がのせられた武器というのは鍛冶師にとっても制作は難しいのだけど、ヴァルカン殿は難なく作られる方でね。私やレナートがギルドに顔が利くのもヴァルカン殿のおかげなのよね」
「そんな素晴らしい方が! お会いしたいですわ」
「あなたたちが住む家はヴァルカン殿の家の近くにあるから、いずれ会えるわよ」
「この国の出た後の楽しみが増えました」
「そうね、では、改めて脱走の手はずをつめましょうか?」
何日もかけて五名は脱出の計画を練った。
「赤子が呪いを受けるのが、生まれた瞬間なのか、それとも、母の胎内にいる間なのかがわからないの。メルの意志を果たすなら、母の胎内に子が宿る前、つまり、結婚式の前でなければならないでしょうね」
テティスが脱出の時期に関する見解を述べる。
「ならば結婚式の直前がねらい目かもしれない。僕たちの時と違ってクレールらの結婚式は国を挙げて盛大に祝うそうだ。この辺鄙な地の町でも祭りの準備がなされているらしい」
ベネットが提案する。
「なるほどね。だったら、この辺鄙な土地に元王太子夫妻を見張るためだけに派遣された、退屈している兵士さんたちには、街へ遊びに行くようにうながしてやるよ」
決行の日はきまった。
新たな生活に必要な荷物は前もって少しづつ、レナートらが業者に扮して物資を運んできた日の帰りに運び出してもらい、決行の日にはほぼ身一つで出ていけるようにした。
そして、新たな王太子夫妻結婚式の前日。
直近の町でも祭りが繰り広げられ、当番の兵士以外は皆町へ出かけて行った。
貧乏くじを引いたと思っていた居残りの兵士たちも、夕刻にやってきたレナートに誘われる
「ほんの少しくらい構わないでしょう。どうせ彼らには移動する手段すらないのですからどこへも行けるわけがないでしょう」
たしかに、移動手段としての馬車は世話役のサモワが買い出しに使い出て行ったきりだ。
おおかた町で長居でもしているのだろう。
馬も離宮には一頭もない。
レナートは出入りの業者として兵士たちとも顔見知りとなっており、そのレナートの誘いは躊躇する兵士たちにとっては抗いがたいものであった。
「さあさあ、おんぼろですがこの馬車に乗って。これを逃すともう町へくりだす手段はありませんよ」
その言葉が決め手となって残りの兵士たちもみな出ていき、離宮を見張るものはいなくなった。
兵士らを乗せた馬車が遠ざかるのを確認すると、テティスが小さなリザを巨大化させ、彼女と一緒にメルやベネットもまたがり、空へと飛び立った。
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