話さなければいいんでしょ!
星之瞳
第1話
「ああ、今日も疲れたなぁ~。夕飯どうしよう。もう食べて帰ろうかな」
私は、退社後ぶらぶらと通りを歩いていた。
「え!、あれ、課長と、三輪さん?」男女が手を繋ぎながらホテルから出てきた。女性の方が私を見つけるとつかつかと歩いてきた。
「江頭さん、今見たことは誰にも話さないで。解った!」
「はい、解りました」私がそう言うと三輪さんは課長の所へ戻って行った。
三輪さんは私の働いている部署の古株。つまりお局。私達にあたりもきついしパワハラはしょっちゅう。そんな人に睨まれながら言われたら言うこと聞くしかない。
でも、悔しいな。このことを公に出来たら奈落に落せるのに。
私は帰り道そんなことを考えていた。部署には三輪さんに対する不満も多い。これを利用できないか。
帰宅した私は同じ部署の村木さんにラインを送った。
「三輪さんのすごいとこ見ちゃってでも『話さないで』と言われたんだよね、どうしようか」
「え、何々、不倫でもしてた?『話さないで』と言われてもネットはいいんじゃない。でもこのまま広めると発信源が江頭さんって特定されやすいよね」
「だからどうしようかと思って、あの人懲らしめたい」
「そうね、会社では絶対話さないで、証拠集めして、匿名で会社に告発するのはどう。内容教えて」
「三輪さん課長とホテルから出てきたのよ」
「課長って趣味悪いわね。解った。後は私がやるわ。江頭さんは知らんぷりしているのよ」
「解った。ありがとう」私はラインを終了して、ふーっと息を吐いた。
話してないからいいよね。「話さないで」としか言われてないんだから。
それから会社で三輪さんに睨まれることはあっても、三輪さんの不倫が噂になることはなかった。『話さないで』この言葉が徹底されていた。
2週間ほど経って、課長と三輪さんが部長室に呼ばれた。暫くして帰ってきた三輪さんは私の所につかつかとやってくるといきなり平手打ちをした。
「あれほど、話さないでと言ったのにこの嘘つき。約束破ったわね!」
三輪さんは
「誰にも話してませんよ」
「嘘おっしゃい、会社に匿名で告発があって私たち処分されるのよ、あなたのせいよ!」
「だから知りませんって。そんなこと私してませんから、告発って匿名だったんでしょう私がした証拠でもあるんですか?」
「何を騒いでる」部長が入ってきた。
「三輪君、君はこの部署から移動になったんだ、すぐに立ち去りたまえ」
三輪さんはまだ悔しそうな顔をしていたが部長には逆らえず荷物をまとめると立ち去った。
「課長と三輪君の後任は近いうちに決めるから、それまでみんな協力して業務にあたってくれ」部長の話に全員で「はい!」と答えた。
「江頭さん、これで頬冷やして」村木さんが水で濡らしたタオルを持ってきてくれた。
「ありがとう」私はタオルを受け取り痛む頬を冷やした。
その日勤務が終わると私は村木さんと食事をしながら話をした。
「江頭さんから情報貰ってね、部署の数人でチームを作って、三輪さんの不倫の証拠集めをしたのよ。そして昨日の休みにネットカフェからその情報を匿名で会社に流したわけ。これで職場も働きやすくなるしよかったわ」
「あ、それで私は動かないようにって言ってたのね」
「そういうこと」
私達は晴れ晴れとした気持ちで食事を楽しんだ。
話さなければいいんでしょ! 星之瞳 @tan1kuchan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます