第12話
20年の歳月は街の景観を変える。
だが渋谷はそんな変わってないような気がした。強いて気になるところを挙げるとするならば……。
「みーんなマスクしてる」
「そうだね……。インフルエンザとか流行ってるのかも」
「夏なのにぃ?」
夏なのにインフル流行るの?
うーん、不気味だ。みんなマスクで顔を隠している。不気味という表現以外思いつかない。
今の流行なのかな。
私たちが歩いているとスーツ姿の女性が駆け寄ってくるのが見えた。
明らかにこっちに向かってるような気がする。こちらを向いてる。怪しい人かな。
私はすぐに逃げれるように構える。
「あぁっ! 逃げないでください! 君たち今話題のタイムスリップしてきた子たちですよね!?」
「……そうですけど」
「わ、私、こういう者です!」
カバンから名刺を取り出して差し出してくる。
名刺には
「ここではなんですし、お茶しませんか!」
「いや……怪しいので……」
「何もしません! 雑誌の取材ですから!」
「たしかに名刺に会社とか書いてるね……。雑誌の取材はほんとなのかも」
「でもこんな街中で声かけてきたりするぅ? アイドルじゃないんだし」
「たしかに。すいませんが……」
「少しお茶するだけだからっ! 君たちの話を聞きたいんだ!」
「でも……」
「まぁ少しなら……」
折れなきゃ折れなさそうだ。しつこい。
私たちはとりあえずお茶することになった。適当な喫茶店に入り、飲み物とかを頼むことにする。
取材とやらを受けるんなら思いっきり高いの頼んでやろ。
「すいません! カフェラテとコーヒーと……。カフェオレと……」
「このデラックスゴージャスパフェひとつ」
「え、たか……」
「これくらい良いですよね。ダメなら帰ります」
「い、いいよ! 全然良い!」
いいのか。結構ダメ元だったんだけども。
でも……20年前と比べても結構高い値段するな。コーヒー一杯200円って……。ワンコインで飲めるところもあったのに。
「それで! 本題なのですがあなたたちは今噂のタイムスリップした子達ですね?」
「そうですけどなんでわかったんです?」
「顔写真は覚えておりましたからっ! 取材したいなと思ってたんです。どこにいるか分かってませんでしたからね」
「ふーん」
パフェが届き、一口頬張る。
うん、ネームバリューに負けないくらい甘くて美味しい。
「それでなのですが……。この時代に来て困ったこととかは?」
「困ったこと? 自分の学校のトイレから出たら不審者扱いされた」
「同じくです。不審者扱いされて留置所に入れられてました」
「そっか。20年も経ってれば教員も全員入れ替わってそうですしね……。自分では時代が飛んだって感覚はなかったんです?」
「なかったなー。トイレして出たらいつのまにかこっちに来てたし」
「僕もロッカーから這い出てきたら知らない子たちが授業受けてて……」
いつ飛んだのかわかってないのよね。
「なるほどなるほど……。この時代に来てなにか不思議だと思ったことはあります?」
「みんなマスクしてること。お姉さんもしてるし」
「あぁ、そういえばコロナ禍は4年前くらいでしたね」
「コロナ禍?」
「なんすかそれ?」
「うーん、なんて言うんだろ。めっちゃ感染力の強い感染症みたいな」
「……バリバリやばいですね」
「感染症……?」
そういうのが流行ってたのか。
コロナ、コロナね……。
「もうコロナにも慣れてきましたしみんなマスクを外してもいますが、コロナ禍のときのことがくせになったのもありみんなマスクしてるんですね」
「ほえー。大変だったんだねぇ」
「コロナってどんな症状が出るんですか?」
「睡眠障害とか味覚障害とかですね」
「……?」
「味がしなくなったりするんです」
「え、やば!」
味がしなくなるのやば!
え、私かかってないよね? パフェを食べてみる。甘くて美味しい。
「これくらいでしょうか……。あ、いや、結構大事な出来事もあったんですね」
「大事なこと?」
「元号が変わったこととか」
「元号変わったんですか!?」
「そう! 平成から令和になったんです!」
「げんごーってなに」
「……さすがにそれは習いますよね? 20年前でも」
「そんなの気にして生きてこなかったし……」
カレンダーは見てたけど日付ぐらいだし元号とかってやつは気にしたことないな。
「平成とか昭和とか習いませんでしたか?」
「あ、それ元号なの?」
「……もうちょっと勉強しようよ水原さん」
「勉強きらーい」
体育だけは好き。
トイレしてたらタイムスリップしてた 鳩胸ぽっぽ @mimikkyu_mimi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。トイレしてたらタイムスリップしてたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます