第11話

 私たちは東京へ戻ってきた。

 東京に戻って冬樹の法律事務所の中に入る。冬樹はどこかに電話したかと思うと、すぐ桐花くんがやってきた。高校生の男の人を連れて。


「あの、桐花さん、この人は?」

「あぁ、君と同じタイムスリップしてきた子だ」

「僕と同じですか?」


 学生服を着た男子高校生が私を見て困惑していた。

 桐花くんが私を紹介するときにタイムスリップのことを言った。この子が新潟で見つかったタイムスリップしてきた子か。


「あの、僕訴えられるんですか?」

「ん? あぁ、違う。その件はもういいんだ。今は君の話が聞きたい」

「座ってください」


 私は男の子の隣に座る。


「とりあえずお互い自己紹介しましょう。僕は水原 冬樹といいます」

「えと、僕は木南きなみ 大成たいせいといいます」

「私ね、夏月。これ一応私の弟ね」

「あ、冬樹さんは弟なんですね」

「そー。年上の弟ね」

「大成くん。僕はまず君がタイムスリップした前のことを聞きたい」


 冬樹は白い用紙とボールペンを用意しメモを取る準備をしていた。

 大成はポツリと語り始める。


「僕は……いじめられておりまして……。その、ロッカーの中に閉じ込められてたんです。誰も開けようとしなかったので無理やり出てきたら知らない人ばかりで不審者として……」

「ほーん」

「ロッカーの中に……」


 ロッカーに詰められるいじめか。大変だな。


「ふむ。腹痛とかはなかった?」

「ないです」

「腹痛がトリガーというわけではないのか。ありがとう」

「冬樹くん、これで何かわかるか?」

「まだサンプルが足りないけど……。気になるのは二人とも誰にも見られない状況にいたってことかな」

「誰にも?」

「姉さんはトイレの個室の中だったでしょ? 誰かに見られてた?」

「授業中だったし他に使ってる人はいなかったから見られてた訳はないけど……」


 他の個室の扉は開いてたし誰かが入ってきた音もなかった。

 

「誰にも見られてない……そんな状況で起きるってことか?」

「あとは二人とも高校生ってところとかですかね。ただ、この二人ではサンプルとして少なすぎる。二つはまだ偶然として成り立つレベルですから、最低でも3人……。あと1人には会いたいですね」

「となると神奈川の子か、愛知か鹿児島、大阪のどれか……。鹿児島は見つかったって言ってたけど」

「神奈川で不審者情報はねぇな。あっても露出魔の不審者だけだ」

 

 近場の神奈川の子はまだ見つかってないらしい。

 神奈川で行方不明になった子はタイムスリップしてないってことなのかも。

 桐花くんは全部が全部私と同じじゃないって言ってたし。


「僕って元の時代に帰れるんでしょうか……」

「無理だな」

「無理ですね」

「な、なぜ?」

「元の時代に戻れてたのならこの世界に君がもう一人いることになります」

「それに、行方不明として扱われないはずだ。いるんなら行方不明じゃない」


 タイムスリップに関しては色々と矛盾が生まれるものなのだ。

 

「まぁもう考えんのは大人に任せて大成遊びに行こうぜ!」

「え、えぇ!?」

「お前ってじっとしてられないよな」

「姉さん……。少しは真面目な話に参加しようよ」

「真面目なのは好きじゃないし。うだうだ考えても時間食うだけでしょ。大成くんもこの時代あまり堪能してないみたいだし慣れるために外でとくべきじゃね?」

「……言ってることはもっともだな」

「たしかに」


 二人が納得した。おー、納得させられるもんだな。

 桐花くんはともかく冬樹は昔から論理的なバカ真面目だったし言葉で勝てたことないんだけど。


「そうだな。案内しよう」

「この時代のこと知っておくべきっしょ! ほら、いこ?」

「う、うん」


 大成は私の手を取り、桐花くんと一緒の車に乗り込んだ。


「冬樹はどーする?」

「僕はこれから事務所開くからいけないよ」

「少し休めよ」

「北海道に行ったから休んださ。楽しんだら戻ってこいよ。ここに」

「あいあい」


 





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