第10話

 母さんの作る飯は美味い。

 一昨日食べたばかりだけどまた食べれるとは。いや、一昨日は20年前だけど。


 家族で飯を食べている最中に父さんがテレビを付けた。テレビでは何やら驚いた顔のキャスターが映っている。

 右上のテロップにはタイムトラベル少年と大きく書かれていた。


『鹿児島で逮捕された16歳の少年の名前と顔が20年前に突如行方不明になった男子高生と非常に酷似しており、当時のままの姿だったそうです』

「これって……!」

「姉さんと同じ?」

「そういや6人被害者がいるって桐花くんが言ってたな。全部が全部そうだとはいえないって言ってたし、なんなら新潟でも同じような子がいるみたいだよ」


 テレビではさらにつづけた。


『また、20年前の同じような時期に、東京、神奈川、新潟、愛知、大阪でも突如行方不明になった高校生がおり、警察はその人物を再び捜索する方針に決めたようです』

『いやー、そんなことあるんですかね? だって20年前ですよ? タイムトラベルなんてSFの世界でしか見たことありませんが』

『実際、そのような記憶が出てる以上あるんじゃないですか?』


 テレビの人たちが論議を交わしていた。

 20年前に行方不明になった生徒の名前が貼られており、その中にはもちろん私の名前もあった。


「SNSでもトレンドに入ってるぜ? タイムスリップって」

「SNS?」

「ああ、時代的に知らないか。そういう他者が匿名でやり取りできる掲示板みたいなものがあるんだよ」

「へぇー。そんなんあるんだ。2ちゃんねる的な奴?」

「それとは違うかな」


 じゃあどういうのだ。

 私は冬樹からスマホを借りSNSというものを眺めてみた。丸い写真と何か言葉のようなものとか写真が載せられている。

 情報を共有するサイトみたいなものなのだろうか。インターネットってそもそもよく知らんしな……。


『現に、水原さんはすぐに見つけ保護されたそうですよ』

『そうなんですか?』

『不思議な話ですよね。2000年の歴史に残るファンタジーミステリーとして名を残すでしょうね』

『もし自分が20年後の未来に飛ばされたかと思うと怖いものがありますね。はい。では続いては天気予報です』


 そして天気予報に切り替わった。


「なぁ、姉さんの同級生に斎藤 孝雄って人いた?」

「あ、いたなー。物作りが得意なやつ」

「その人が今有名なYouTuberになってんだけどその人がツイートしてるぜ。タイムスリップした水原の高校の同級生だって」

「ほえー」

「ムードメーカー的な存在とか言われてる。いなくなったときはたしかにみんな必死で探したな……」

「え、まじ?」

「マジだ。俺も、母さんも父さんも全力で探した。レンタカーを走らせて探しに行ったりとか……東京内をすべて聞きこんだりとか」

「あったなそんなことも」


 そんなことがあったんですか。

 どんな苦労があったかは想像に難くない。いなくなっていた私を必死に探してくれていたのはちょっと感動しそう。


「水原が保護されてるのを知ってとてもよかった。俺の高校生活はいじめられることもなかったのは水原がそういう明るい存在だったからだって言ってる」

「ふふん。この夏月ちゃんはそういう存在なんですよ」

「それはまぁ別にどうでもいい。でも、なんでタイムスリップしたんだろうな」

「さぁ?」

「さぁで済ませられる問題か? もしまたタイムスリップしたらどうする。今度はまた20年先に行くかもしれないんだぞ」

「……ってことは冬樹は50代になるのか。それは流石に嫌だな」


 心配かけてまた突然いなくなって心配かけるのは避けたい。

 まず私はタイムスリップした原因を探るべきなんだろうな。


「タイムスリップした人たちにまず会ってみよう。タイムスリップする条件があるかもしれない」

「条件?」

「偶然その6人が同じ条件を満たしてしまっていたのでタイムスリップをした……。もしくは、その6人に同じような兆候があったのかを知っておくべきだな。姉さんはタイムスリップする前なにがあった?」

「うーん、突如としてめっちゃお腹痛くなった」

「……生理?」

「いや、周期とかけ離れてたし……牡蠣に当たっただけかもしれないけど」

「……腹痛か。痛みの程度は?」

「もう死ぬんじゃないかってぐらい痛かったな。歩くのがやっと?」

「そのぐらいひどかったのか?」

「うん。マジで死ぬかと思った。出し切ったらもう一切痛みもなくなったけど」


 便秘だったと結論付けたけど違うのかな。

 冬樹はなんか気になる様子で、調べてみるかといっていた。冬樹は弁護士だしそういう頭は回るのかな。

 

「でもわかったところでどうすんの? 夏月……さんは過去に戻れる?」

「いや……僕と父さんたちに過去に姉さんが帰ってきた記憶がないから帰っていないか、もしくは出会えなかったのか……」

「過去に戻っても出会うことはないってことぉ?」

「ああ。それがタイムスリップを信じる大きな要因だな。多分出会っていたら疑っていたと思う」

「なんで?」

「説明がつかないからだ。お前が帰ったら今俺らがいる未来はどうなる? なくなるってことだろ。じゃあそれははたして未来に言ったって言えるのか?」

「……たしかにそうだね。もし過去に帰ることができてるんならこの世界にはもう一人夏月さんがいないとおかしいです」

「ややこいな」

「タイムパラドクスというやつですね。タイムスリップにはどうも矛盾が生まれるんです」


 難しい話をするな。ついてけない。









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