第8話
翌日。
家にメガネをかけたイケメンの男が尋ねてきた。
「どうも、春那さん。姉がすいません迷惑をかけてしまい」
「いいの。仕方ないから」
「仕方ない? 家出して今まで不明だった姉ですよ? 仕方ないなんて」
「見ればわかるわ」
といって、リビングに案内されると、弟は持っていたカバンを落とした。
「え、若い!?」
「その……信じがたい話にはなるの。座ってくれるかしら」
春那が事情を説明した。
「過去から来た……?」
「そ。この夏月、20年前の過去から来たの」
「…………にわかには信じがたいですが」
「でも、顔や声は夏月でしょ?」
「はい。姉の顔ですし声も姉です……」
冬樹はメガネをくいっとする。
隣の若そうな女性もあんぐり口を開けていた。
「僕は家出した姉を一発ぶん殴ってやろうと思ってきたのですが」
「家出したわけじゃないんだけどなぁ」
「ですが……まさか過去の姉が今の時間に来てたとは」
「もう受け入れてる」
「……あなた」
「わかってる。だが動揺せずにはいられないだろうこの状況。あの、本当に姉さんです?」
「だから夏月だって言ってんだろ。胸の辺り見るか? ホクロの位置も同じだぞ」
「……いや、いい。本当に姉さんだこれは」
どういう判断材料だ。
「ということなの。私たちも驚いたわ」
「ですよね。僕も驚いてます。ですがタイムスリップしてたとは……。怒るに怒れない……」
「トイレしてたら未来に来ててさー。どーなってんだろーね」
弟は何か考えるような仕草をとった。
「……だけどそれはおかしくないか? だってタイムスリップしたのならなぜいなくなる?」
「それはこの未来から帰れなかったってことじゃない?」
「……そうか。だが」
「パラドックスってやつだね」
「変な知識つけて……」
こういうタイムトラベルものにはそういうパラドックスがつきもの。でも起きてしまってんだから説明はもうどうでもいい。
「ねぇ、本当に姉なの?」
「ああ。本当の姉だ。変な知識ばっかつけてる山猿……」
「変な知識とは失礼な。で、いつ聞こうか迷ったんだけどそっちの女の人誰?」
「あぁ、僕の妻で司法書士の理子だ」
「理子ですどうも……」
「あのガリ勉メガネの弟の妻……!?」
「驚くの失礼じゃないかおい」
だって友達少なく女の陰すらなかったあの弟だぞ。どこで知り合ったんだお前。
「そういえば春那さん、旦那様は?」
「新潟に行ったの」
「この時にですか?」
「その……。夏月と同じような境遇の子がいるらしくてね」
「……同じような事例が」
「うちの旦那刑事だからそういうの調べられるのよ。夏月と同じ年に同じ夏に失踪をしたのは6人いて、全て高校生だったそうなの」
「…………」
驚いて固まっていた。
私だけじゃない同じような境遇。タイムスリップなんて滅多にないのに同じようなことに。
「だから助けに向かったのよ。同席してなくてごめんね」
「いえ……。とりあえず、姉はうちで引き取ります」
「ごめんね」
「ほら姉さんいくよ」
「また遊びに来るからねほのかちん!」
「またねー!」
ほのかに挨拶をして弟の車に乗った。
「いやー、私も義姉かー。いや、年齢的に義妹?」
「どうでしょう……」
「そもそも僕にとっては歳下の姉になるわけだからな。どうなるんだこれは」
「で、理子さん出会いはどこで?」
「……大学で」
「おぉ! それっぽい!」
大学は出会いの場なのかな?
人の恋バナって聞くの大好き。
「僕の恋愛はいいだろ。それより今後どうする?」
「どうするったって全財産2000円で未来に飛ばされたしなんもないぞ」
「知ってる。だから保護しに来たんだろ。姉さんは高校行きたいの?」
「そりゃまだ楽しめてないし!」
「……そうか。転校という扱いでいいのかな」
「途中入学? 夏月さん今何歳ですか?」
「16。5月6日生まれ」
「……1年生でも通じると思うので入試で入りませんか?」
「年齢詐称して?」
「…………」
高校は入れないかな。
どうなんだろ。この時代のことはなんも知らんから……。
「この場合どうなるんだ? 見た目は年相応にみえるが……。本来はもう36歳になってるだろ」
「だね? でも私は過去から来たんだけど」
「そうなんだよな。そこをどうするか……。とりあえず働き口も……」
「スポーツ選手になる!」
「そうか。そうしよう」
「いいの?」
「姉さんの運動神経は化け物だしなれる」
そこまで褒めなくても。
「あとは父さんと母さんに連れて行かなきゃな。理子、明日からしばらく休みにしよう」
「わかった。いくの? 北海道」
「いく」
「よっし! お義母さんの作る料理上手いんだ」
明日から北海道らしいです。めっちゃ急に決めますね。
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