第45話 完成形
白銀に戦い方を教えてもらえることになった。
今回の戦いで私は自身の力不足を痛感した。今回の戦いで私は雑魚モンスターを処理することしかできなかった。とてもじゃないがAランクモンスターを目の前にして立ち向かえるほどの実力は私にはなかった。
勇者の話だと98階層で蜘蛛のモンスターと出会したと言っていたので、あの蜘蛛たちは98階層からきたモンスターだと言われている。
このままでは私は前に進めないと思った。だから、誰かに強くなる方法を教えてほしい。アルドには普段から教えてもらっているが、戦闘スタイルがまるで違う。それにこれからアルドはクーリッヒの立て直しで忙しくなる。
最初はあのすごい強いスケルトンに教えてもらおうとしたけど、どこを探してもあのスケルトンをテイムしてる少女を見つけられなかった。
貴族の子ぽかったから自分の領土に帰ってしまったのかもしれない。
そんな時にアルドから白銀はどうかと話された。
ちまたで噂の白銀。だけど、私は白銀が戦っているところを見たことがない。
本当に白銀を師匠にしてもいいのだろうか。アルドは一度剣を交えたことがあるらしく、実力は確かだと。アッシュはボコボコにされたらしい。
あと、勇者が話していたのはあの死霊騎士団とその団長のアーガストを退けたとか。…本当なのだろうか。本当だとしたら凄まじい実力者だ。
ギルドでちょうど戻ってきた白銀と遭遇した。
アイリスに絡まれている。
アイリスはフロントラインがほぼ壊滅してかなり精神的に追い詰められている。誰かを責めたくなる気持ちはわからないでもない。
アルドが介入してその場を納めた。
アルドの言う通り、よく見るとミスリルの鎧が傷だらけでところどころ霞んでいる。死霊騎士団とアーガスト相手にどれだけの激闘を繰り広げたのだろうか。
私はワクワクし始めていた。
「…白銀。お願いがある。」
私はアルドの後ろから前にでて白銀に言った。
「なんだ?」
白銀が不思議そうな顔で答える。
「私を鍛えてほしい。今回の戦いで自分の力不足を痛感した。私は強くなりたい。」
白銀は困惑していた。
白銀に鍛えてもらえることになり、私たちは迷宮の広いスペースに来た。
そしてそこで白銀と手合わせをした。全力を出したが、私の攻撃は全て見切られ、いなされた。
どう頑張っても攻撃が通る気がしない。
白銀は本当に強かった。
この感じ前にもどこかで…あぁ、あのスケルトンとこの人の剣術が似ているのか。
あのスケルトンのことを聞いてみたが、流石にそのスケルトンのことは知らないようだった。それはそうか。
そして、白銀は手を止め見ているように私に言った。
白銀が私と同じように風の魔力を纏い始める。
私のように風玉と呼ばれるこの魔道具の補助なしに風の魔法を纏えるなんて…
そして、急に鎧を脱ぎ始めた。
「えっ!?」
私は驚いて声を上げた。白銀は鎧を脱いだことがないからだ。色々な噂が流れていた。顔に大きな傷があるからではないかとか、すごく不細工だからではないか、どこかの有名人なのではないか、いずれにしても顔を見られたくないのだろうと噂されていたからなんの抵抗もなく脱ぎ始めてびっくりしてしまったのだ。
そして、その綺麗な顔立ちに。肩まであるさらさらとした綺麗な白い髪に高身長、整った顔立ち、透き通るような白い肌の美青年。
誰もが中身はゴツイおっさんだと思っていた白銀の素顔にびっくりしてしまった。
そして白銀は驚きの動きを見せる。
白銀は走り出す時や飛ぶ時に足の裏に小さな竜巻のバネを作る。それだけでスタートダッシュや飛ぶ距離が凄まじく上がった。
風の斬撃を身体中から複数放つ。迷宮の壁に複数の斬撃が刻まれる。
身体を包む風の魔法を強めたようだ。それだけで暴風の強固な鎧となり私は近づける気がしない。
そして白銀は身体に展開している風の魔法を手のひらに集め迷宮の壁に放った。凄まじい暴風と衝撃が起こり、吹き荒れる風で私は吹き飛ばされる。放たれて当たった迷宮の壁が大きく削れて今もなおボロボロと崩れている。
「…す、すごい。」
私はボサボサの髪を気にする余裕なんてなくただ口をポカンと開けてそう言った。
「これらを習得するだけでも君は戦術の幅が広がり、次のステージに進めるだろう。さぁ、レールは引けた。あとはそのレールを走るだけだ。特訓を始めようか。」
白銀、貴方は何者なの?
瞬時に私の戦闘スタイルを理解してすぐに私に道を示した。
相当魔術や武術に精通していなければできない芸当だ。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
急に目の前の暗闇が晴れ道ができたような気分だ。
これだ、これこそが私の完成形だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます