第44話 レール
何回かリーナと撃ち合って俺は思う。
やっぱりリーナは強いな。風の魔法を身体に纏わせてスピードを上げ、軽い斬撃や魔法ならば身に纏わせている風の魔法で軌道を外らせることもできるだろう。
剣の腕もなかなかである。どこかでしっかり剣術を習ったのだろうか?
「どこかで剣は習っていたのか?」
「剣は父から教わった。父はもともと王国騎士だったから。」
「なるほど。だからか、アルドのような冒険者らしい荒々しい剣技ではなく綺麗な剣技だ。お父上は相当腕が立つのだろう。」
「えぇ、父は剣の達人だったと思います。ですが、帝王アナスタシア軍との戦争の折に戦死してしまいました。」
「そうか、それは辛いことを聞いてしまった。すまない。」
「いえ、大丈夫です。白銀は前に戦ったすごく強いスケルトンと同じような戦い方をする。」
「は、はは。ス、スケルトン?同じ剣術を使うのかな。」
「あのスケルトンに師事を受けても良かった。けど、探してもそのスケルトンをテイムしてる少女が見つからなかった。」
「へ、へぇー。」
この子鋭いよな。怖いわ。さすがにバレないとは思うが。アリアは貴族なので、実家に帰らされている。今、領土に戻っている最中で馬車に揺られているため、どれだけクーリッヒでアリアを探しても見つかるはずない。
ちなみに、俺のこの剣術は我流ではない。
かと言って日本にいた時に身につけた技術ではない。
あれはそう、終末のイーターとして迷宮を徘徊しはじめて二十年くらいがたったくらいだろうか。ある黒い剣士が徘徊しているのを見つけたのは。
あいつに何回切り刻まれたことか。
死の迷宮の最深層は世界を終末に導くほどの化け物達が閉じ込められている。
そいつはそのうちの1人 終末の亡国の黒い剣士。
そいつの使う剣技は俺の攻撃全てをいなし、カウンターを入れる。どんなに硬質化した皮をも切り裂く。
俺はそいつの剣術を切り刻まれながら、イーターとしての超越的な観察眼と身体能力で必死にそいつの技を盗んだ。
鑑定によるとそいつの剣術はスキル名として乗っていた。
流星剣術という滅びた国の剣術らしい。
俺の剣術の師匠はその黒い剣士だ。話したこともないが…
十年ほどそいつの剣術を盗むのに時間を使った。まだまだその黒い剣士に及ばないけどな。それ以上は諦めた。
なんでそんな必死に剣術を学んでたかって?なんもやることがなくて暇だったからだよ。
あっ、流石に暇だからって死龍 イータルクラスとは戦ってないぞ?あいつらクラスはまじで殺される。
黒い剣士は俺に致命傷を与えられるほどの攻撃力は持っていなかった。もっていたけど使わなかっただけかもしれないが…
中ボスポジだけあって、かつての俺はかなり最下位層の中でも強かったらしい。
まぁ、かといってあの時の俺の攻撃は全部いなされるから勝てるわけでなかったが。
だから、俺の剣術はなんちゃって流星剣術なのだ。
リーナが流星剣術は習得するのは難しいだろう。流星剣術は俺の本体ほどの観察眼、身体能力、思考速度でも今だに完全には習得しきれない。それくらい難しい剣術だ。常人が習得するのは不可能に近いと思う。
「リーナ、少し見ていてくれ。」
「わかった。」
リーナの戦闘スタイルに合わせて教えるのが一番いいだろう。そのためにはリーナの戦闘スタイルを理解しなくては。
俺は身体にリーナと同じように風の魔法をかける。
ん、いくら魔法の伝達がいいミスリルの鎧とはいえ、鎧を着ながらだとやりずらいし重いな。
脱ぐか。俺は鎧を脱ぎ始め、中に着ている薄着になる。
リーナが「えっ!?」っと驚くが気にしない。俺だって鎧を脱ぐことだってある。
うんうん、動きやすい。
俺は軽く動いたり素振りをしたりしてみる。
ふーん、結構難しいかも。魔法を常時発動しながら加減しながら戦わなくちゃいけない。あっ、でもリーナはあの剣に着いてる宝玉が魔道具になっていてサポートされているのか。
ここからは俺のアレンジを加えていく。
走り出す時や飛ぶ時に足の裏に小さな竜巻のバネを作ってやる。それだけでスタートダッシュや飛ぶ距離が2倍近く増える。慣れればもっと伸びるだろう。
普通に風の斬撃を身体中から複数放つ。囲まれた時、不意打ちを食らった時に有用だろう。
身体を包む風の魔法を強める。それだけで強固な鎧となり攻撃された斬撃や魔法をかき消せるだろう。
身体に展開している風の魔法を手のひらに集め圧縮。前に放つ。凄まじい暴風と衝撃が起こる。全身の防御がかなり薄くなり隙が生まれるが、敵を吹き飛ばし、大ダメージを与えられる必殺技になり得るだろう。
加えられるアレンジはこんなものかな。
「…す、すごい。」
「これらを習得するだけでも君は戦術の幅が広がり、次のステージに進めるだろう。さぁ、レールは引けた。あとはそのレールを走るだけだ。特訓を始めようか。」
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