第43話 罵声
「さて、帰って来た。」
俺は白銀の姿でクーリッヒに帰って来た。
まず俺が向かったのは冒険者ギルドだった。
「白銀だ…」「白銀が帰って来たのか。」「今までどこにいたんだ?」「あいつがいてくれたら…」
うん、ギルドはすっごいナイーブな雰囲気だった。
そりゃそうか。凄まじい数の人が死んだのだから。
「あっ、ジンさん!」「白銀、戻ったか。」
アリとルーファが俺を見つけてこちらに走り寄る。
おぉ!2人とも無事だったか!
「2人とも大丈夫だったか?」
「ジンさん、本当に大変だったんですよ?」
「あぁ、あの蜘蛛どもは化け物だった。まだクーリッヒがあることが奇跡なほどに。」
2人ともいかに蜘蛛たちが恐ろしかったか強かったか俺に伝えてくるが、俺は知っている。
この2人は一目散に逃げたことを。
まぁ、逃げて欲しかったからいいんだけどね。
でも、あたかも勇敢に戦った風に話してるからなんかさぁ…
「白銀…なぜ今まで居なかったのだ?」
フロントラインリーダーのであるアイリスが俺を見つけて立ち上がり詰め寄った。
「すまなかった。」
「大勢のものが死んだ。街も半壊している。なぜお前ほどの力を持つものが残って戦わなかったのかと聞いている。」
「出なければいけない用事があったのだ。すまなかった。」
「ふざけるな!周りを見てみろ!皆傷だらけだ!お前は一体なにをしていたんだ!なぜ貴様は何も失っていない!なぜ帰ってきた!?なんで…戦ってくれなかったんだ。」
アイリスはそう言ってへたりと地面に座り込む。
アイリスがこんなにもなっているのには理由がある。今回の戦いで一番被害を被ったのはフロントラインなのだ。蜘蛛との戦いで最前線で勇敢に戦い被害が出たのもあるが、最後のナクアの進行方向にフロントラインが防衛しており、甚大な被害を被ってしまったのだ。
ちなみに、アリとルーファは巻き込まれまいとさっきからジリジリと後ろに下がり始め、気づいたらいなくなっていた。
あいつら…
「待て、アイリス。白銀は悪くない。いや、むしろこの戦いに大いに貢献している。」
騒ぎを聞きつけたアルドがリーナを連れてやって来た。
「どういうことだ。こいつはあの戦いにいなかったではないか!」
「そうだ。白銀はなんのようだかは知らんがクーリッヒにはいなかった。しかし、援軍の勇者達を呼び込んでくれたんだ。」
「白銀が勇者を?」
「そうだ。勇者が戦っていた魔王 アルモルド軍との戦いを白銀の活躍で勝利に導き、勇者達をクーリッヒに送り込んでくれたのは他でもなく白銀だ。なんでも、死霊騎士団と団長のアーガストを1人で食い止め撤退させたらしい。その証拠に見ろ、白銀の鎧を。矢傷や刃物で斬られた傷でいっぱいだ。高純度のミスリルの鎧がだぞ?相当な激戦だったはずだ。それに、ところどころ霞んでいる。錆びるはずのないミスリルがだ。おそらくアーガストの瘴気に当てられたんだろう。それほどの死地に白銀は立っていたんだ。」
アルドの言った白銀の戦績にギルド内の冒険者たちがざわめく。
それほどアルモンドの死霊騎士団と団長のアーガストは強大で人間ないし、諸国に恐れられているのだ。
鎧新品に変えなくてよかったぁ。汚くなったから変えとこうかなって思ってたんだよね。かえって鎧の汚さがすごい戦ってきた風になってる。
「くっ…!」
「白銀だってクーリッヒのためにみんなのいないところで命張って戦ってたんだ!そんなことも知らねぇで勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!」
今度はアルドがアイリスに怒鳴りつけた。いや、アイリスだけではなくギルド全体に言ったのだ。
「…すまなかった。どうやら私が間違っていたようだ。どうかしてた。」
「いや、一緒に戦えなかったのは事実だ。すまなかった。」
「もう休め、アイリス。疲れすぎだ。」
「…あぁ、そうだな。」
アイリスはトボトボとギルドを後にした。
「…白銀。お願いがある。」
アルドの後ろにいたリーナが俺に話しかけてくる。
「なんだ?」
俺にお願い?リーナとは白銀として接点はなかったはず。
「私を鍛えてほしい。今回の戦いで自分の力不足を痛感した。私は強くなりたい。」
「アルドに鍛えて貰えばいいだろう。アルドも俺に引けを取らないかなり強い戦士だ。君もそれはわかっているだろう?」
「俺はこれからクーリッヒを立て直すのに忙しくなる。一応Sランク冒険者だからな。だからリーナに時間を取れない。」
「なるほど、そういうことか。」
「だめだろうか?」
リーナが不安そうに見つめてくる。
「リーナを一時的にクローバーに入れてくれて構わない。A級のリーナがいればどんな依頼でも受けられるだろう。」
アルドの援護射撃が飛んでくる。
「俺E級冒険者だけどいいのか?」
「アーガストを退ける冒険者だ。」
キラキラした目でリーナが言ってくる。
「…わかった。いいだろう。では、一度実力を見ようか。」
「白銀、ありがとう。俺はこの後もやることが沢山あるからリーナことよろしくな。」
アルドがそう言ってギルドの奥に入っていく。
俺はリーナを連れてダンジョンに入り、適当な広いスペースにいく。
「じゃあ、とりあえず今のリーナの実力を見てみたい。俺を殺す気で来てくれ。」
そう言って俺は剣を抜く。
「わかった。」
リーナはそう言うと身体強化をかけてこちらに剣を抜き駆け出す。
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