第42話 魔王 ナクア
「ふぉ、賛成じゃよ。お主がその糸で何もしなければな。」
ルーは目を細めてナクアを見る。
「…まさか気づかれるとは。」
そう言って顔をあげたナクアは鋭い牙と8つの大きな赤い目を露わにしている。
「どういうことだ!?」
そう言ってダイヤが立ち上がろうとする。
続いてバーバルも。
だが、動けない。全ての魔王の身体中に蜘蛛の糸が張り巡らされていた。ルー・チャルロイドを除いて。
「もしも、ここで1人でも殺してみろ。我が力、我が全軍を持ってして貴様を殺し、貴様がブーモルから奪った巣の森も焼き尽くしてやる。」
ルーが覇気を纏わせてナクアに言った。
「ふむ、お前は敵に回さない方が良さそうだ。」
そう言うとナクアは他の魔王に仕掛けた糸を解除した。
「あなた、本当にやばいわね。警戒はしていたのだけれども。」
バーバルは冷や汗をかいて言う。
「罠を仕掛けるのは我らが最も得意とすることだ。そこのカエルが異常なのだ。」
ナクアはこの会議で殺せるなら全ての魔王を誅殺し、脅威をすべて取り除こうとしていたのだ。
会議に出席し、すべての魔王を見て三大王以外は自分にとって大したことないことを確認し、顔を伏せて集中し、罠を張り巡らせた。
巣を張ることには自信があった。自身と同格の相手にも目の前で巣を張り巡らせても悟られないほど自信が。
だが、三大王ルー・チャルロイドだけは違った。
「ふぉ、我らすべてを殺そうとしていたのか。全く、油断も隙もないのぉ。」
「脅威になるのなら排除する。それが我らの生き残るためのやり方。排除できるのならしたかった。」
「ふぉ、なるほど、それで?我々とやろうというのかね?」
「いや、これはできたらいいなと思っただけ。それと我々の実力を知ってもらいたかった。そこのモグラのように魔王であるのに、己が実力も弁えず、勘違いする者がいるから。」
「やっぱり怒ってるじゃん…」
バーバルが苦笑いをする。
「貴様、まさか生きて帰れると思っているのか?」
ダイヤがそう言い、魔力を滾らせる。
「ふぉ、やめいダイヤ。わしら全員を相手にしても逃げ切れると確信しているから仕掛けて来たに決まっておろうが。」
「やっぱりそういうことだよねぇ。舐めてるねぇ、試してみる?」
バーバルの機嫌も悪くなりバーバルも魔力を滾らせる。
「我々は交渉を望む。お互いの不可侵の約束を。そうすれば、これから我々の牙がお前たちに向くことはないだろう。」
「ふぉ、いきなり全員殺そうとした者のセリフではないじゃろうて。まぁ、よい。お主を魔王として認め、魔王 ブーモルが治めていた広大な森林を其方の領土として認めよう。ダイヤ ミンクも良いな?」
「…認める。だが、覚えておけよ。」
ダイヤが答える。
「はい、認めます。」
ダイヤが認めたのなら、反対していたミンクも認めるしかないだろう。
「ありがとう。話は終わった、我々は帰らせてもらう。」
「ふぉ、わかった。気をつけて帰ってくれ。」
ナクアたちが退出する。
「はぁー、ちょっとやばすぎ。まさかすでに蜘蛛の糸に囚われたなんて。全く気づかなかったわ。」
バーバルが力が抜けたように机につっぷして言った。
「本当に迷宮の生存競争で負けて出て来たのか?普通に侵略しに来たんじゃないか?」
モグが呟くように言う。
「いや、本当らしい。やつについて集めた情報によると迷宮から出て来たやつは脚も数本欠けており、血だらけボロボロだったらしい。ほんとに命からがらなんとか出て来たのだろう。」
アルモルドがモグに答える。
「アイツが生存競争に負けて追い出されるダンジョンって…」
ミンクが冷や汗をかく。
「死の迷宮、ラストダンジョンと言われるだけのダンジョンのようじゃな。ナクアを超える化け物たちが巣食っているのか。」
ジンジュがしがれた声で言った。
ナラとナクアは元の姿に戻り凄まじいスピードで野原を駆け、巣に戻る帰路に着いていた。
「族長、流石にやりすぎです。」
ナラがナクアを責めるように見つめていった。
「そうだな、やりすぎた。だが、あのカエルさえいなければ全員獲れたんだがな。あの三大王とか言う3人は私が部屋に入った途端警戒し、あのカエルだけは私があの部屋に入った途端、戦闘体制に入っていた。どうしてもあのカエルにだけは糸を伸ばせなかった。」
「あのカエルは族長よりも強いですか?」
「普通に戦ったら私より強いな。他の2人は私と同じくらいか少し下か。他の魔王はあの豚と同じくらいか。」
「あの時々くる神出鬼没のアンデットと比べたら?」
「考えるまでもない。あいつは100階層より下からきた化け物だぞ?あのカエルなら万全に整えた巣の中でなら勝てる見込みもあるだろう。だが、あのアンデットは万全に整えた巣の中に転移し、その巣の中で私に悟られず、私の背後を取るのだ。」
「愚問でしたね。そういえば、今度あのアンデットと出かけて来ます。」
「…私も連れていけ。」
「だが、暁光だったのは…どの勢力も蟻の一族に及ぶものは無さそうだ。」
そう言ってナクアは笑った。
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