第26話 アリアとスケさん

「そうか、向こうが引いたか。」

ギルドマスターのキバは今回の蜘蛛討伐のリーダーを務めたフロントラインのリーダー アイリスから報告を受けた。


「あぁ、こちらも多くの犠牲が出た。それにあれはおそらく意図的に引いた。あのモンスター達の戦い方もこちらを殺しに来ているというよりはこちらの戦力を伺うような戦い方だった。」


「かなり知能が高いな。まぁ、高ランクモンスターは総じて知能が高い傾向にあるが。…また、上層に上がってくるだろうな。どうしたものか。とりあえず、王都に応援を要求するにして…」

キバななにかぶつぶついいながら考え込む。


「…キバさん、もしもですよ。もしもあのモンスター達に命令を出しているモンスターがいるとしたらどうしますか。」


「それは…最悪だろうな。Aランクモンスターたといえば実力は魔王級だ。そんなモンスターを5体も従えているなんて。3大王クラスの化け物だろうな。もしも、3大王クラスのモンスターがいるとするならば、もう俺たちは即座に逃げるすべを模索し始めなければならない。」


「あの5体のモンスターに感じた違和感があるんです。あれは徒党を組んで上層に上がっているというよりは、組織の一員として上の命令に従っているという淡々さが感じられたのです。気のせいならばいいのです。しかし…私の感が後者だと告げているのです。」


「もしもそうだとしたら、今回の戦いでこちらの戦力を把握した上で、今度はこちらを確実に殲滅できるだけの戦力を差し向けて来るだろうな。」

キバは苦虫を噛み砕くような表情をした。











「スケさん、蜘蛛の軍隊が迷宮の上層に上がってきたようですわよ。でも、上位の冒険者達に追い返されたようですわ。流石ですわぁ〜。さすがクーリッヒの上位冒険者達ですわ。憧れてしまいますね。」

アリアはどこから聞いたのか蜘蛛の話をしてくる。

だがな、アリア。それは先発隊なんだ。それも討伐できなかったんだろ?クーリッヒのほぼ全勢力で先発隊に勝てないなら、たぶん本隊が来たら勝てない。


ーあぁ、その話なら俺も聞いた。…アリア、もしも蜘蛛の軍勢がクーリッヒに攻めてきて勝てないとしたらどうする?逃げるか?ー


「え?戦いますわよ?私はたとえ他領の民だとしても、殺されそうになっているのに、逃げることはしません。ともに戦います。」 


ーたとえそれが無駄だとしてもか?お前程度の力がなんの役にも立たずに、無駄に死ぬとわかっていてもか?それでも、アリアは戦うのか?ー


「はい。私はそれでも逃げは致しません。もしもそこで逃げてしまってはたとえ生き延びられたとしても、私は胸を張って生きられません。ならば、胸を張って死ぬことを選びましょう。」


ーあははは!!そうか!でも、俺はアリアには死んで欲しくないな!ー

高潔。アリアにはその言葉が似合うだろう。

こんな可愛らしい少女が。か弱く、吹けば死んでしまいそうな少女が俺よりも高潔で強い思いを持っている。

ほんとに面白いよな。俺の方が長く生きていて、たくさんのことを経験していて、圧倒的に強いのにもかかわらず、アリアの方が俺よりも強く輝いて生きていると思う。


アリアは殺させない。


これは蜘蛛と人間の争いだ。俺は干渉しないつもりだったが。アリアだけは守らせてもらう。


「急になんですの?スケさんなんかおかしいですわよ?ほら、今日の依頼をこなしますわよ。もうすこしでD級のライセンス試験が受けられるはずですの。D級冒険者になれば、ついに一人前の冒険者ですのよ!」


ーはいはいー


そうして俺とアリアは迷宮に潜って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る