(顔の悪い50代ボッチシングルの悲愴 三部作 その1) 「片恋」

おはなしねこ

第1話

ユキの好きなものは、冬に降る真っ白な雪だ。空から甘い綿菓子が際限なく舞い降りてくるのを、汚いから食べてはいけないとわかっていても、口に含まずにはいられない。雪が唇にまといつき、冷たさが広がっていく。しっとりと濡れた唇で誰かに触れたい。今年で50歳になる独身一人暮らしのユキには、ファンタジーな雪景色も、もはや孤独感を強める演出にしかならなかった。


雪は少し前からマッチングアプリに手を出していた。はじめて使ったマッチングアプリでは、容姿端麗な男から数多くいいねが届き、心の中に小さな泉が沸き立つような感覚をおぼえた。でも、雪の容姿は中の下程度だ。このような容姿端麗な男と歩く自分を想像すると、ひどくみじめな気持ちになるのだった。


ただ、暇つぶし程度に始めたアプリであり、実際に会うつもりはなかったため、幾人かの容姿端麗な男にためしに「いいね」を送ってみた。中には外人の男も混ざっていた。そして、いろいろな男とチャットを何ターンか交わしてみてわかったのだが、すべての男はいわゆる詐欺師どもだった。特に外人の男はいわゆる「国際ロマンス詐欺」の男であった。正義感の強い雪は、ひとりひとりの男に要点をつく説教をほどこし、そのマッチングアプリを削除した。


そのような空虚なやりとりの後には、余計に虚しさが募るものである。雪は自身が虚しさのスパイラルに知らず知らずに巻き込まれていることに、まだ気づいてはいなかった。そして、次に雪がインストールしたのは、ゲームで恋ができるというマッチングアプリだった(つづく)。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

(顔の悪い50代ボッチシングルの悲愴 三部作 その1) 「片恋」 おはなしねこ @ohanashineko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る