第73話 ある日のサイベリア

七月中は本作の書籍化作業の為、更新がまばらになります。本当にごめんなさい!


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 お家勉強会の甲斐あってか中間テストはつつがなく終了し、つかの間の平穏が返ってきた。といってもそれは俺視点での話で、雀桜祭を目前に控えた一織は忙しいらしく、最近は古林さんと共にサイベリアのアルバイトを休み準備に奔走している。


 嵐のような毎日を送っていたサイベリアも雀桜生が雀桜祭準備に注力するようになってからは比較的落ち着いた営業が出来ており、九時過ぎになるとほぼノーゲスト状態。今日は久しぶりに男だらけのシフトという事もあってぶっちゃけトークモードに突入していた。


 俺は何故かキッチンに呼び出され、筋肉マッチョマンの宗田さんと金髪イケメンの三嶋さんに囲まれている。二人とも押しも押されぬキッチンのエースだ。


「夏樹、ちょっと訊きたい事があるんだけどさ」


 そう言って乱暴に肩を組んでくるのは大学生の三嶋さんだ。三嶋さんは一織の接客目当てで雀桜生が押し寄せた時に、俺のわがままを尊重して頑張ってくれた恩人でもある。頭が上がらないし、足を向けて寝られない存在だった。


「夏樹ってさ────ぶっちゃけ立華と付き合ってるだろ?」


 ガツンと頭を殴られたような衝撃が俺を襲った。一織と付き合っている事は一部の蒼鷹生しか知らないはず。それをどうして大学生の三嶋さんが知っているんだ。


 俺が固まって何も言えずにいると、三嶋さんは「ほらな、言ったろ?」と宗田さんに向き直りながら俺を解放した。


「うわー、マジか。全然気がつかんかったわ」

「お前は筋肉しか興味なくて人を見てないからだよ。俺はそういうの鋭いんだ」


 俺を置き去りにして盛り上がる二人。どうやら俺と一織が付き合ってるかどうかで賭けをしていたらしく、三嶋さんは「帰りラーメン奢りな」と宗田さんの肩を叩いた。


「ラーメン痛えなー…………いや、それにしても夏樹と立華がねえ。立華ってそういう感じに見えなかったけど」

「俺も最初はそう思ってたけどさ。夏樹、多分付き合ったのって夏くらいだろ?」

「そうですけど……よく分かりますね」


 時期まで当てられてしまった。俺には分からない何かが百戦錬磨の三嶋さんには見えているんだろうか。


「実はさ、その辺りから立華がお前を見てる事が増えたんだよ。キッチンからでも分かるくらいだから相当だな」

「えっ、そうなんですか? 全然気が付きませんでした」

「お前や他の客が気が付かないようなタイミングでな。それで俺はピンと来たんだよ──こいつらくっついたな、って」

「お前、よく見てんなあ」


 関心したような、もしくはイジるような宗田さんの声が耳を素通りしていく。一織がそんなに俺を見ていたなんて。嬉しくて、恥ずかしくて、やっぱり嬉しかった。


「愛されてんじゃん夏樹。男としてその気持ちに応えてやんなきゃな」

「ですね…………でもどうしたらいいんですかね?」


 一織の事は大切にしたいと思っているし、自分なりにそうしているつもりだけど、どういう行動をすれば一織が喜んでくれるのか、よく分かっていないのが正直な所だった。何事も経験と言うけど、圧倒的にそれが不足している。なにせ一織は初めて出来た彼女なんだ。


「どうすればねえ……それを二人で見つけていくのも若者の恋愛の醍醐味だけど、まあ人生の先輩としてちょっとだけヒントを出してやるか。丁度良くそろそろ雀桜祭だしな」


 そう言って、三嶋さんが俺に耳打ちしてくる。その隣で宗田さんが「筋肉を付けるのも大事だぞ」とアドバイスをくれた。二人とも本当にありがとうございます。

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