第69話 親子
「え、えっと……?」
突然の事だったので、紅葉さんの言葉を聞き逃してしまった。「ちゅーしたの?」って聞こえたけどまさかそんな訳はないし。ちょっと話した感じ、どうやら紅葉さんはお堅い人みたいだしな。
「一織と、もう、ちゅーしたの?」
「おい」
思わずツッコんでしまった。一体何を言ってるんだこの人は。
紅葉さんは俺の耳元から顔を離すと、着物の裾でそっと口を隠した。
「教えてくれたっていいじゃない。まあ私の娘だから手は早い方だと思うけれど」
蛇のような鋭い目が、俺を見定めるように全身を舐めまわしていく。さっきまでは落ち着いた大人の女性だと思ってたのに、今は得体の知れない変な人にしか見えなかった。こんな人が一織を育てたというのか……?
「やっぱり好みって似るのかしらねぇ。昔の夫を見ているようで、何だか不思議な気分だわ」
「はあ」
何とも反応し辛い事を言われ、俺は曖昧に相槌を打つ事しか出来ない。一織、部屋にいるなら早く出て来てくれ。そして俺を助けてくれ。
目線だけでチラッと家の方を見てみるものの、一織の人影らしきものは見当たらない。というか、家が広すぎてどこを見ればいいのかよく分からなかった。江戸時代からあると言われても信じてしまいそうな立派な家だ。
「私と夫も雀鷹カップルだったのよ。二人とも生徒会長でね、当時は花形カップルだったんだから」
「……そうだったんですね。二人とも生徒会長だなんて凄いです」
この辺の人って本当に雀鷹カップル多いよな。友達の両親も当たり前に雀鷹カップルだったりするし。
「そうでしょう? 夫は凄くモテてね、繋ぎ止めるのに大変だったのよ」
「紅葉さんくらい綺麗な人でも大変だったんですか?」
「うふふ、そうなの。だから────夏樹さんも気を付けなさいね?」
「気を付ける? 何にですか?」
紅葉さんは後ろを向くと、玄関の方に歩き出す。紅葉さんが傍から離れると少し気温が上がった気がした。きっと気のせいだ。
「────私、凄く嫉妬深い性格だから。一織もきっと同じ。あの子は私によく似ているから」
「嫉妬深い? 一織が?」
イメージと合わず俺は聞き返してしまう。一織といえばいつでも自信満々で、堂々としていて、細かい事なんてその輝きで一掃してしまうような、そんな人間だ。二人きりの時には拗ねるような態度を取る事もあるけど、それはあくまで一時のもので、一織の本質ではないと思っていた。
「付き合っていれば分かる時が来るかもしれないわね────ほら、付いていらして?」
紅葉さんに促され、俺は立華家に足を踏み入れた。外観に負けず家の中も凄かったけど、紅葉さんの言葉が頭の中をぐるぐる回っていて、何も頭に入ってこなかった。
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