第47話 夏の計画
立華さんの水着姿を妄想し始めて、三日が経った。
…………のは流石に冗談だけど、忘れられないのはホントだった。
「────き……夏樹?」
窓の外を見ていると俺を呼ぶ声がした。誰かと思えば、颯汰と日浦だった。陸上部に所属している日浦は早くもこんがりと日焼けしている。颯太は帰宅部なので俺と同じでまだ白い。オセロなら日浦も白くなるな……とぼんやり思った。
「夏樹、夏休みになったら海行かねえ? 何か雀桜の子とか誘っちゃってさ」
「当てあるの? それ」
颯太の提案に速攻でツッコむ。昨今の蒼鷹と雀桜の関係を鑑みるに、一緒に海に行くなど夢のまた夢のように思えるんだよな。蒼鷹祭が終わって二か月くらい経つけど、未だにカップルが生まれたという話も聞かないし。
そういえば颯汰と仲が良かった雀桜の子はどうなったんだろう。名前は確か…………シラタキさんだったっけ。最近話題に出ない。
「そこで天下の夏樹さんに相談があるんですよ」
颯汰と日浦が目を山なりに歪めて嫌な笑顔を作る。強烈なデジャブが俺を襲った。
…………これは蒼鷹祭の時と同じだ。
「────海のメンツ集めを立華さんにお願い出来ないかなと。そういう所存でございます」
予想通りの展開に溜息が漏れた。
「頼むって夏樹! この夏の想い出がお前にかかってんだ……!」
日浦がバチンと両手を重ねて俺を拝む。日浦には夏の大会という大きな想い出の種があるはずだが、それはどうしたんだ。
「…………海かあ」
立華さんの水着姿が拝めるかもしれない。そう思うと、今回の話は俺にとっても多大なメリットがあった。
「一応聞くけど颯汰、シラタキさんは頼れないの?」
訊くと、颯汰は「そう来ましたか」というような表情を作った。
「頼めたら頼んでるって。俺とシラタキは今めちゃくちゃシビアな関係なんだよ。ここだけの話、もしかしたら付き合えるかもしれない」
「おお、凄いじゃん」
そんな人がいるのに雀桜生と海に行く事を画策するのはどうなんだ、という気もするけど。
「シラタキさんも誘えば?」
「実は、シラタキから『一織様も来るなら行く』って言われてるんだよ。だから頼むよ夏樹」
「なるほどね」
それって本当に付き合う直前なのかな。どうもシラタキさんは立華さんの事が好きなようにしか思えないんだよな……。まあ俺には恋愛の機微なんてまるで分からないんだけど。
何はともあれ…………友達の恋路は応援してあげたい。そういう表向きの理由も一応出来た。
「一応頼んでみるけど、期待はするなよ?」
蒼鷹祭は協力してくれた立華さんだけど、流石に海となると話は別だろう。今回は学校の行事とか関係ない全くプライベートな話だし。普通に考えて、受けてくれるとは思えない。
◆
「構わないよ」
「え」
本当に俺の話を聞いていたんだろうかと不安になるくらいの速さだった。本当に俺の話を聞いていたんだろうか?
「いいって…………海だよ? 普通に遊ぶだけの」
「面白いね夏樹は。海で遊ぶ以外一体何をするんだい」
「それはそうだけど」
そうだけど、海って事は水着になるんだぞ?
その辺ちゃんと分かっているんだろうか。
「それで、ボクは知り合いを誘えばいいんだったかな?」
「そうなんだけど…………大丈夫?」
「任せてよ。こう見えても知り合いは多いんだ。知り合いはね」
笑っていいのか反応に困る事を言いながら、立華さんは古林さんの元へ向かった。古林さんは鏡の前で必死に髪の毛を直している。今日は上手くキマらなかったらしい。
「りりむ、少しいいかい?」
「何ですか一織様っ?」
「実は夏樹に海に誘われたんだが、りりむも来ないかい? ボク達の水着姿がどうしても見たいらしいんだ」
言い方ああああああああっっっ!!??
「ひええええええっ!? センパイ不潔ですっ! ああもう最近少しでもセンパイの事を信頼していた自分を殴ってやりたい……!」
古林さんがゴミを見るような目を俺に向けてくる。違うんだ、いや違くないんだけど、流石に口に出してはいないからね!?
「私も絶対行きますからね! 一織様を守れるのは私しかいない気がしますっ」
ささっと立華さんを守る様に前に出る古林さん。半分くらいは誤解じゃないから強く反論も出来ないのが辛い。というか古林さんの水着姿だって見れるのなら見てみたい。そういう意味では全く完全に100%誤解じゃなかった。
でも、それが健全な男子高校生ってものだと思う。
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