第23話 転機
ラブコメ週間14位になってました!
沢山読んで下さってありがとうございます!
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「りりむの歓迎会をしようよ」
そんな立華さんの一言によって、放課後の俺達はサイベリアの一席に集合していた。俺達というのは勿論、俺と立華さん、そして古林さんだ。
「ぶー、どうして山吹センパイまでいるんですか。一織様と二人きりだと思ったのに」
しっかりと立華さんの隣の席をキープしている古林さんは、対面に座る俺を見て不満そうに頬を膨らませた。
「ごめんごめん。俺もちゃんと古林さんを歓迎したいからさ」
このように立華さんに近付く人間に対し平等に敵意を振りまく古林さんだが(俺に対しては特別多い気もするが)、実は他スタッフやお客様からの評判は良い。立華さんの事になると視野が狭まるきらいはあるものの、根の真面目さと明るさで元気いっぱいに働くので、妹のように可愛がられているのだった。サイベリアのマスコットのようになっている。
勿論、俺も古林さんの事は好ましく思っている。たとえこっちが嫌われていたとしても、古林さんが困っているとつい助けてしまうんだよな。
「それは本心かい、りりむ? この前ボクと二人でシフトに入っていた時なんて『山吹センパイがいないと不安です……』なんて泣きそうになっていたじゃないか」
「ぎくっ!? そ、それは一織様がお客様に大人気で私が一人になっちゃうから不安だっただけですっ! 変な意味はないですからっ!」
古林さんがびっくりした猫のように身体を縦に伸ばす。そして、抗議するように立華さんの制服を引っ張りだした。古林さんは最初こそ立華さんの前では借りてきた猫のように大人しかったが、今では仲のいい先輩後輩のようになっている。
…………これは俺が勝手に思っていることなんだが、一緒に働くのって同じクラスで生活するより遥かに仲良くなるスピードが速い気がするんだよな。その理由は『店をしっかりと回す』という共通の目標があるからだと睨んでいる。
そんな環境でも仲良くなれない俺と古林さんは一体何なんだという話ではあるんだが。
「夏樹もりりむと仲良くなりたいんじゃないかな。一緒に働く仲間に嫌われているのは辛いからね」
立華さんの口から俺の名前が出たので思考を中断する。
「そうだね。無理にとは言わないけど、徐々に仲良くなっていけたらいいなとは思ってるよ」
今のままでも問題はないんだけどね。仕事はしっかりとやってくれてるし。ただ俺と目が合うと威嚇してくるだけだし。
「ボクも二人が仲良くなってくれると嬉しいんだけどなあ」
「うぐぐぐ……」
立華さんにそう言われ古林さんはテーブルに突っ伏した。長いうめき声をあげた後、がばっと起き上がる。
「…………センパイの事は嫌いですけど、仕事中は普通に接してあげますから!」
顔を赤くしながら古林さんはそう宣言した。
「ありがとう。そうしてくれるなら嬉しいよ」
そう言うと古林さんは更に顔を赤くする。そんな俺達を見て、立華さんは満足そうに微笑んでいた。
◆
「…………へえ、それで古林さんは立華さんのファンになったんだ」
古林さんが頬を赤らめながら語るのは、立華さんとの出会いのエピソード。
入学したての古林さんは、「戦争」とまで称される雀桜高校お昼休みの一大イベント『パン争奪戦』に参加したものの、予想を遥かに凌駕する人波に押しつぶされ身動きが取れなくなってしまった。
足元をさらわれ、身体が宙に浮く感覚が古林さんを襲う。命の危険を感じたそんな時────満員電車のような人波がいきなりさっと二つに割れ古林さんは床にへたり込んだ。
何が起きたのかと顔を上げると、開けた道の向こうから立華さんが悠然とこちらに向かって歩いていた。
『────怪我はないかい?』
立華さんは古林さんの傍にしゃがみ込むとそっと手を取った。その瞬間、古林さんは自分がシンデレラになったと錯覚したらしい。
「そうなんです。それからは一織様のファンクラブに入って、密かに見守らせて頂いてるんです」
「りりむは全然密かではないけどね」
立華さんがツッコむ。確かに同じバイト先に応募までしてくるのは古林さんくらいだろう。
「そっ、それは山吹センパイのせいですから。蒼鷹祭での二人を見たら居ても立っても居られなくなったんです」
古林さんが鼻息荒く主張する。
「でも、良かったです。どうやら噂は噂みたいでしたから」
噂というのは「俺と立華さんがどうこう」という奴だろう。普通に考えればそんな事有り得ないって分かりそうなものだけど、恋は人を盲目にする事を俺はサイベリアで嫌という程学んでいた。
「もし噂が本当だったら、私、山吹センパイに襲い掛かる所でした」
俺に向かって両手を開いてライオンのポーズをする古林さん。残念ながら子猫か何かにしか見えない。
「────分からないよ」
立華さんが立ち上がった。古林さんが驚いた様子で立華さんを見上げる。
立華さんは俺の隣に身体を滑り込ませると、なんと身体を密着させて寄り掛かってきた。いきなりの出来事に身体が硬直する。
「ボクが本当は女の子だったら────どうする?」
「えっ……」
信じられない、という表情を浮かべる古林さん。立華さんを見てみると、挑発するような笑みを浮かべていた。
これは…………古林さんを揶揄ってるな。俺も初めて二人でサイベリアに集合した時に一度やられた。立華さんの悪い癖だ。
「う……うぅ…………一織様のバカぁああああああああっ」
古林さんが目に涙を浮かべて走り去ってしまう。あとには俺と立華さんだけが残された。
「…………立華さん、あまり古林さんを揶揄うのは可哀想だよ」
俺は立華さんの立場になった事がないから気持ちは分からないが、自分に好意を向けてくれる後輩相手にするいたずらにしては少々度が過ぎる気がした。
「────じゃない」
「え?」
立華さんは立ち上がると、向かいに置いてあった荷物を手に取る。さっきまでの笑みは消えていた。
「嘘じゃない────わたし、女の子だよ?」
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