第17話 クラス対抗リレー(前)
玉入れ、障害物競走、40人41脚、棒倒し────その他様々な競技を終え、残すは大トリのクラス対抗リレーのみとなった。
1組:1830ポイント
2組:1690ポイント
3組:1870ポイント
4組:2050ポイント
現在のポイントはこうなっている。
1組は現在僅差の3位で、トップの4組とは220ポイント差。学年毎に行われるリレーでは100から400のポイントを分け合うので、どの組にもまだ優勝の目が残されている。
リレーの順番は3年生→1年生→2年生の順番で行われるので、俺達の出番は大トリの大トリだった。今は3年生の第1走者がトラックに並んで開始の合図が鳴るのを待っている。
「やべえ、なんか緊張してきた……」
リレーの第1走を務める颯汰はさっきからせわしない様子でジャンプしたり屈伸したりしている。騎馬から落ちた時はひやっとしたけど、怪我がなくてよかった。
「去年の2年生は1組が勝った記憶あるから、3年生は勝ってくれると思うんだよね……1年生は全然分からないけど」
俺の記憶が正しければ、去年はかなりぶっちぎりで勝っていた気がする。俺達の一つ上の代は陸上部が1組に揃っているのかもしれない。
「そうだっけ? じゃあとりあえず400ポイントは上乗せ出来るか」
「メンバーが変わってなければ大丈夫だと思う。4組が2位だと追いつけないけど」
「俺達は勝つしかないとして、気になんのは1年だなー。4位だと流石に渋いよな」
「だね。俺達も一生懸命応援しよう」
最後の競技という事もあり、多くの生徒がグラウンドを取り囲んで熱い視線をトラックに向けていた。これで終わりなんだな……そんな青い炎が心の中で静かに燃えている。
────抜けるような青空に、空砲が響いた。
◆
「…………いや、流石に速えな」
「うん、圧倒的だったね」
1組:2230ポイント
2組:1890ポイント
3組:1970ポイント
4組:2350ポイント
3年生のリレーが終わりポイントボードが更新される。1組は見事に1位になり400ポイントの上積みに成功した。
残念だったのは4組が2位につけた事だ。まだ120ポイントの差がついている。
「2年は多分1組と4組がワンツーフィニッシュだよな……てことは、1年生には最低でも4組より上になって貰わないとダメって事か」
「日浦に聞いたら、1年生は運動部の有望株が2組に固まってるって言ってた」
「じゃあチャンスはあるか。マジで頑張ってくれ……!」
颯汰が手を合わせてトラックに立つ1年生を拝む。俺も小さく手を合わせておいた。後輩よ、頑張ってくれ。
「おーい、リレー出る奴集まってくれ!」
遠くで日浦が手を挙げている。瞬間的に身体に緊張が走り、血液が全身に巡る感覚が俺を襲った。武者震い、という奴かもしれない。
「…………よし、行こう颯汰」
「だな。ぜってー勝つ!」
パン、と颯汰が拳を手のひらに打ちつける。まるでそれを合図にしたかのように1年生のリレーがスタートした。気になるけど、今は自分の事に集中しよう。
◆
俺達はトラックの内側で自分の出番を今か今かと待っていた。早く来て欲しい気がしたし、いつまでも来てほしくない気がした。
第1走者の颯汰はトラックに引かれた白線の上で念入りに柔軟体操を行っている。
蒼鷹祭も大詰め、皆の身体はもうボロボロだった。40人41脚の時に紐を結んでいた足首は確かな痛みを伝えてきているし、玉入れで屈伸運動を繰り返した太腿は重りを巻いているのかってくらい重かった。
…………でも、これはチャンスだった。俺がマッチアップするのはバスケ部の2年生キャプテン、佐藤。間違いなく俺よりも足は速いはず。両者万全の状態なら恐らく勝ち目はない。
…………でも、お互いに辛いのなら。それなら勝負は分からない。辛い時に勝敗を分けるのは精神力。いくら向こうが現役のスポーツマンだからって、そこで負けるつもりは微塵もなかった。
何故なら俺は────立華さんと約束しているから。
「…………」
俺はあえて観戦スペースを振り返る事はしなかった。立華さんはきっと観てくれている。それで充分だった。次に顔を合わせるのは約束を守った時でいい。
ここでやらなきゃ、俺は今日という日を一生後悔する。何故だかそんな確信があった。どうしてそこまで立華さんとの約束に必死になっているのかは自分でも分からない。でも、心の奥底から強い衝動が湧き上がってくるんだ。
────立華さんの前でカッコつけたいって。
「颯汰ーッ! 全員ぶち抜けよー!」
「ビリだけは勘弁なー!」
もうすぐ始まる。クラスメイトが腹の底から声を張っている。もう出来る事は何もない、200ポイント差を埋めてくれた3年生と1年生の頑張りを無駄にしない為にも────絶対に勝つ。
「颯汰、頑張れッ!!!」
『蒼鷹祭、最後の種目となります────クラス対抗リレー、二年生の部…………スタートッ!!!!』
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