第15話 騎馬戦(前)
沢山読んで下さってありがとうございます!
今日は2話掲載です!
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世界の騎馬戦事情に詳しくないのでこれがオーソドックスなのかどうかは分からないが、蒼鷹高校の騎馬戦は
『騎手役が被っている帽子を取ればその騎馬は脱落』
『最後の1騎が脱落した時点でその組の順位が確定』
というルールだ。つまり撃破ポイントのようなものはなく、最後まで残っていればいい。
しかし、かといって逃げ回っていれば徐々に味方の数が減っていき敵に囲まれる。攻めるのか、それとも逃げるのか……組によって戦術に違いが出るだろう。
「夏樹、俺達はどうする? 俺は全然攻めてもいいぜ」
騎馬の先頭を務める日浦が俺に問いかける。
騎馬の先頭はさしずめ頭脳だ。敵の動きを瞬時に察知し、それを後ろの二人に素早く伝達しなければならない。その点において1組随一の運動神経を誇る日浦は誰よりも適任と言えた。
はっきり言って騎手の俺よりよほど重要な役目だし、この騎馬の命運を握っている。
「…………いや、暫くは外周を回って様子見しよう。多分1組は俺達が最後に残るのが一番勝率が高いから。仕掛けるのはもう少し数が減ってからだ」
日浦の存在は大きな武器だ。きっとこちらから仕掛ければいくつかの騎馬を脱落させる事が出来るだろう。しかし、まだ殆ど数が減っていない乱戦状態では背後から不意を突かれる事もある。それは避けたかった。
「割と好戦的な騎馬が多いから、15騎くらいまでは戦わなくても残れると思う。俺達はそこから攻めよう」
「ま、最後に活躍した方が目立つよな。じゃあ暫くは隅で大人しくしてるか」
日浦が方向を変えるのに合わせて、後ろの二人が連動する。
「校舎側の隅っこにいよう。何故か観客スペース側で戦闘が多発してるみたいだから」
少しでも雀桜生に近い場所でアピールしたい、という蒼鷹生の切実な思いが、戦闘場所を観客スペース側に寄せているのかもしれない。
きっと見ている雀桜生は大迫力だろうな。目の前で男たちが激しくぶつかり合うんだから。
◆
40騎いた騎馬は、三分も経たないうちに11騎まで減少した。
1組:3騎
2組:3騎
3組:4騎
4組:1騎
残りはこうなっている。
4組が狙い頃に見えるが、4組は運動部の主力を1騎に固めるエース作戦を取っていた。騎手の佐藤はバスケ部の二年生キャプテンだし、騎馬の三人も柔道部の田中、サッカー部の朝倉、陸上部の中村といえば全校集会で表彰されているのを何度も耳にした事がある。間違いなく騎馬戦の優勝候補筆頭だ。
「いやー、流石に中村んとこ残ってんなあ。落ちてくれりゃ良かったけど」
同じ陸上部の日浦が残念そうに呟いた。運動部だからこそ、あの騎馬の手強さは俺以上に身に染みているはずだった。
「残念だけど仕方ない。俺達もここまで体力を温存出来てるし、もしかしたら勝てるかも」
「だな。見ろよあれ、佐藤両手に帽子10個くらいついてんぞ。流石にちょっとは疲れてるだろ」
────そう、それこそが俺の狙いだった。俺達があのスーパー騎馬に勝てるかもしれない唯一の方法。
騎馬状態はそれだけで身体に多大な負担がかかる。戦闘でもみくちゃになれば猶更だ。運動部のエースといえど、流石に腕や足腰に限界が来ているはず。
その点俺達は動きを最小限に抑えて体力を温存出来ている。下の皆もまだ動けそうだった。
「夏樹、もしかしてこれ狙ってた? 中々ずる賢いじゃん」
「最近バイト先が忙しくてさ。色々考えて動かないと全然回らないんだ。そのお陰で柔軟な考え方が身に着いたのかも」
サイベリアは立華さんが来る前と今とでは全く別の店になった。あまりの忙しさに店長が時給を上げてくれるらしい。それも一気に30円も。
「『雀桜の王子様』がいるからめっちゃ女の子来てるんだっけ。部活やってなけりゃ俺も働きたかったなー」
天国じゃん、と日浦が呟く。
「いやー、そうでもないよ。お客様はやっぱり立華さん目当てだし」
いくら雀桜生が沢山いても、全く見向きもされないのが現実だ。多分、見ている雀桜生も俺がサイベリアの店員だって気が付いていないんじゃないかな。
「なるほどねえ────じゃあ中村ぶっ倒してアピールしないとな」
日浦が歩き出す。
俺たちの戦いが、ついに始まる。
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