第4話 サイベリアに訪れた異変

沢山読んで下さってありがとうございます!

今日は感謝の2話更新です!


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「はあああっ!? おい夏樹っ、それマジかよ!?」

「ちょっ颯汰、声デカいって」


 言いたい気持ちを何とか昼休みまで我慢して、俺は昨日の事を颯太に打ち明けた。驚くだろうなとは思っていたけど颯太のリアクションはそれ以上で、食べていたご飯粒がこちらに飛んできてテーブルに着地した。跡が付く前にティッシュでさっとふき取る。


「わ、悪い……でも流石にびっくりするって。夏樹は昨日知ったのか?」

「いや、実は一週間前くらいから知ってたんだけどね。噂になったら困るから言わなかったんだ」


 自然とひそひそ声になる俺達。颯太の大きな声でこちらに注目していたクラスメイトも、興味を失ったのかそれぞれの会話に戻っていく。

 

「なるほどな……で、どうだったんだよ?」

「どうだったって?」

「見た目だよ、見た目。マジで『王子様』だったのか?」

「それはまあ、うん。見た目というか……存在自体が」


 俺の言葉にまた颯太が噴き出す。

 

「なんだよそれ、めちゃくちゃ気になるじゃん。俺見に行こっかな」

「いいけどちゃんと売り上げに貢献してくれよ? 今日だったら俺も立華さんもシフト入ってるけど」

「お、じゃあ行くわ。ポテトいい感じに頼むぜ?」

「あいよ。分かってると思うけど、この話は秘密だからな?」


 蒼鷹生の中には、一方的に『雀桜の王子様』をライバル視している人間も少なくない。変な雰囲気になってお店に来られても面倒だし、立華さんに迷惑がかかってしまうかもしれない。

 

「分かってるって。でも、無駄だと思うぞ? 噂なんてすぐに広がっちまうからな」

「それでもだよ。自然にバレるなら、それはもう俺の責任じゃないからね」


 というか、すぐにバレるんだろうなと思っている。立華さんの纏うオーラはどう考えてもただの街のファミレスであるサイベリアに相応しくない。きっと「凄いイケメンな店員がいる」とか噂になって、それがあの『雀桜の王子様』だという事は一か月もすれば蒼鷹生の耳にも入ってしまうだろう。

 


 そんな訳で、俺と立華さんが同じバイト先で働いている事は、いずれ蒼鷹生全員の知る所になるんだろうな──と考えていたんだが。

 

「な、なんだこりゃ……?」


 人。

 

 人。

 

 人人人人人人人人人。

 

 放課後サイベリアにやってきた俺達は、ホールを埋め尽くさんばかりの、いや実際に埋め尽くして駐車場まではみ出している人だかりに足を止めた。

 

「……おい夏樹、サイベリアって何かフェアでもやってるのか?」


 颯太もびっくりした様子で人だかりを眺めている。

 

「いや、そんな話はなかったと思うけど……」


 例えあったとしても、こんな騒ぎになるはずがない。間違いなく俺がサイベリアで働き始めてから一番の混雑具合だった。


 呆気に取られながらも人だかりを観察してみると、ある事に気が付く。

 

「これ、全員雀桜生じゃないか……?」


 そう、人だかりを形成している全員が雀桜の制服を着ているのだ。どうやら雀桜生の集団がサイベリアに押し寄せているようだった。


 ……嫌な予感がした。


「────悪い颯太、今日ナシでいいか? 俺ちょっと行ってくるわ」

「お、おう……バイト頑張ってな……?」


 困惑している颯太を置いて、俺はバックヤードに駆け出した。



「おお、夏樹! マジで良いところに来た! 悪いけど今すぐ入れるか!?」


 バックヤードに入ると、冷凍庫を漁っていた先輩の宗田さんがガッチリとした筋肉質の身体を揺らして慌てた様子で話しかけてくる。いつもはピークタイムでも余裕そうにキッチンを捌いている宗田さんがこの調子ということは、きっと中は地獄だ。


 俺は一瞬で状況を理解し、急いで手を洗う。


「手洗ったらすぐ入ります。ホールでいいですか?」

「おう、悪いけど頼む! あのかっけえ新人の女の子が一人で頑張ってるから助けてやってくれ!」

「ええっ、一人ですか!?」


 まさかの状況に驚いてしまう。立華さんはまだ教育すら全然終わっていないのに。


「ああ、キッチンが全然人足りてなくてよ。そしたらあの新人が「ボクに任せてくれ」って出て行ったんだ。そういう事だからマッハで頼むわ!」


 そう言い残して、宗田さんは勢いよくドアの向こうに消えていく。


「……大丈夫かな、立華さん」


 昨日教えたのは案内とバッシング(片付け)だけだし、まだ実際にお客様相手にやってもいない。とにかく不安だ。


「おはようございます! 今日も一日よろしくお願いします!」


 俺は急いで制服に着替えると、ホールに飛び出した。

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