タイムパラドックス

  

「あのー、佐々木さん?」


 遠慮がちにもう一人のクラスメイトは話しかけてきた。

 明路は顔を上げずに、それを聞く。


 どうやら由佳に命じられてきたらしい。


『なに?』

としばらくしてノートに書いた。


 霊は黙る。


 どうやら、様子を見てこいと言われただけのようだ。

 特に問いたいことはないらしい。


 困った風な彼に、少し笑う。

 だが、淋しくもあった。


 彼は、予知の中の彼とは違うし、自分が大きく道を外してしまったので、もうあのときのような関係にはならないかもしれない。


 一緒に事件に当たった戦友のような仲間を、私は作る前に失ってしまった。


 そうして、辿り着く先が、あれなのか――。


 頬杖をつき、窓の外を見ると、小器用に指の上で鉛筆を回した。


「佐々木さん。

 あのー、佐々木さん?」



 誰を見捨てて。


 誰を助ける――?



 私は神じゃない。



 強く弾いた鉛筆が、指から床へと転がり落ちた。


 もうひとりのクラスメイトは、心配そうにこちらを見ている。


 

 

 人間にもし、タイムトラベルが出来たら。

 もちろん、なんらかのタイムパラドックスは起こる。


 予見も似たようなものだ。

 わずかな相違点が、未来には大きな影響を及ぼすはずだ。


 そう――


 思っていた。

 

 

 でも、すべての予見を通り過ぎた今、思うのだ。


 大きなパラドックスは起きない。


 決して覆らないポイントというものが、歴史の流れの中にはあるのだと知った。


 そう。


 例えば、幾人かの、人の生き死にとか――。

 

 





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