学校

 

 聡子は、いつもぼうっとしている友人の姿が廊下に見え、声をかけようとした。


 だが、横顔が思ったより厳しく、二の足を踏んでいたら、誰かに肩を叩かれた。


「聡子」


 透明感のある肌に茶色い瞳。

 同性でも間近にこの顔を見ると、どきりとしてしまう。


 綺麗だから――


 の、はずだ。


 思わず離れるように身を引きながら、聡子は、


 しまった~。

 今日は、美容院でもらったシャンプーの方、使えばよかった、と思う。


 だって、あっちの方がいい匂いがするから。


 由佳は、何故か、そんな自分を小首を傾げるようにして見ている。


「な……なに?」

と赤くなりながら、聡子は訊いた。


「いや……」

と言ったあとで、由佳は行ってしまう。


 用がないなら、なんで、話しかけた~っ!?

 そう心の中で叫びながら、その後ろ姿を見送る。


 階段の方に向かう由佳の凛々しい横顔を見ながら、他の男共より、余程格好いいよな、と思っていた。


 そして、ふと、気づく。


 他の男共って誰だろう。

 此処は女子校だから、同い年くらいの男の子と、交流なんてないはずなのに……。


 チャイムが鳴っても、聡子は、しばし、そこに立ち尽くしていた。



 

 まだ何か考えてるな。


 由佳は授業中も、明路の様子を窺っていた。


 先程からどうもおかしい。

 自分が聞いても答えそうにないしな。


 ちらとこのクラスにもうひとり居る男子を見る。


 彼もまた、明路の様子がおかしいことに気づいたように、彼女を見ていた。


 明路の予見の中では、随分とご活躍だったらしい、もう一人のクラスメイトはこちらの視線に気づいたようだ。


 明路に対しては好意的だが、こちらに対しては、あまり好意的でない彼は、なに? という眼で見る。


『お前、明路に訊いてこい』

と小さくジェスチャーで示すと、


『えーっ!?』

と露骨に厭な顔をする。


 ……成仏させるぞ、こら。


 いいから行け、と手で払う。


 恨みがましくこちらを振り返りながら、それでも、霊は明路の許に行った。


 授業を邪魔するように明路の前に立つ。


 明路は最初、周りの人間の手前か、見えないふりをしていたが。

 やがて、ノートを取るような素振りで俯き、小さく微笑んだ。


 なに話してやがる、と自分で頼んでおいて、ちょっとムカつく。


 あんな笑い方、明路は自分の前ではしない気がしたからだ。


 「ゆか」になる前も、なってからも、明路はいつも自分に対して身構えている。


 かつての明路の姿が頭に浮かんだ。


 いつも彼女の顔の前には、黒い格子があった。

 それが取り払われた日、明路は困ったように、自分を見ていた。


 ……なんかブルーになってきたな。


 霊はまだ明路に何か話しかけている。

 ちょっと楽しそうだ。


 いっそ成仏しろよ、と思いながら、イライラと組んだ腕を指で弾く。


 だから、聡子がこちらを窺うように見ていることには気づかなかった。




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