第9話 クソ真面目な純情女剣士おったら、惚れてまうやろー!
鬼面蠍との激闘の末、なんとか勝利した鐵郎だったが、今まさに死にかけていた。
「大丈夫か! ごとうちゃん! しっかりするんだ! ごとうちゃん! い、今、ポーションを」
「落ち着いてください、福徳さん。今から回復ををををを」
「いや、妹も落ち着け! 私がポーションをををを」
「うん、二人ともごぼ、げほ、ごぼぼ……おちぶびごぼぼ」
慌てる二人にポーションを浴びせられ続けて溺れかけていた。
止めようにも全身に力が入らずただただ震える手でポーションがこぼれ続け鼻とかにも入りとても苦しい鐵郎。
《www》
《ごとうちゃんが味方に殺される》
《大分妹ちゃんの震えにも慣れてきたと思ったが、これは凄い》
「それにしても……魔力欠乏か。ここまでの状態になるとはなごぼぼ。……ぼはあ! へい、おしり! おしり助けて!」
『敵との能力差により攻撃力特化の形状変化を行いました。出血防止と魔力伝導を重視した極薄魔力膜で本体とグローブを繋いだため、身体への補助が出来なくなりました』
「いや、この状態の理由を『教えて』って言ったわけじゃないんよ! え? 俺、滑舌悪い?」
『すみません……言えません』
「気遣い機能までついてるなんて便利ぃいいい!」
《今の音声、どういうことですか?》
《錬金ニキ》
《説明しよう! そもそもダンジョン内というのは魔素で満ちておりこれが人間の身体能力を爆発的に高める要素でもある。それ故ダンジョン外とダンジョン内では身体能力のレベルが違い、冒険者達もその感覚の違いに戸惑う事がある》
《宇宙と地球みたいなもんやな》
《戦闘服はそういったギャップを埋めるために、身体を補助する機能がついているんだが。そもそもさっきのごとうちゃんは裸ではなく極薄の魔力の膜で覆われた状態で、最小限の出血防止と魔力伝導のみに機能を限定したものだったんだ。なので、ごとうちゃんは自分の魔力を考えずフルパワーで攻撃したために身体にありえないほどの負荷がかかったというわけですな。まあ、火事場の馬鹿力プラス、魔力というパワードスーツが勝手に動いたと思ってもらえばええかな》
《極薄魔力膜機能なんてマジで錬金ニキどこのノーベル賞受賞者?》
鐵郎は解説がどんどん流れていく籠手の先にある自身の手を何度も握っては開き、少しずつ力が戻っていくのを確かめていく。籠手を着けていた分、腕の力の戻りは早い。ただし、その先にある手はズタボロだった。
《でも、それだけじゃああんな手ボロボロにならんやろ》
《ふむ、それも正しい指摘だね。恐らくごとうちゃんの固有スキルのせいだと思われる》
《固有スキルは分かります!》
《固有スキルは思春期頃覚醒しる個人の能力》
《初心者ちゃん知ってたwそりゃそうか。めっちゃ勢いよく説明しようとしてた。はず》
《どんまい。やさしい人》
《で、錬金ニキとごとうの手ボロボロに気づいた名探偵ニキはどう思う?》
《ごとうちゃん、な? あと、ネキ、な?》
《失礼》
《多分強化系スキルかな》
《【超人】の【身体強化】とか【風槍】の【疾駆】とかそういうのか》
《おれは蓄積系のスキルではないかと思っている》
(おおー……すげえな、ほぼ正解)
鐵郎は身体の魔力が循環を開始するまでの間、二人にされるがままになるしかないので籠手に流れるコメント欄を見て微笑み口を開こうとしたその時、
「にいさんが……微笑んでいる」
「はあ! それは私も見た事があるぞ。パ●ラッシュ僕もう眠いよだな!? ダメだ、ごとうちゃん! 死ぬなごとうちゃーん!」
「うん、ごぼぼぼっぼ」
そして、邪魔された。思い切りポーションを飲まされて鼻から噴いた。
「す、すまない……パトラッ●ュぼくもう眠いよだと思って……つい……!」
「それどころかもっとひどい結末になりそうでしたけどね。とはいえ、大分身体も回復してきました」
全身の筋肉損傷がひどい状態の鐵郎だったが今はダンジョンの壁にもたれかかりある程度動かせる状態にまでになっていた。
「ありがとうございます」
「そんな……! 礼を言うのはこちらの方だ! 助けてくれてありがとう! 私は、【銀星】所属冒険者、福徳恵だ」
「いえ、こちらこそ……ふくとく?」
鐵郎が恵の名字を復唱すると恵は垂れていた髪をかきあげながら笑う。
「やっと気づいたか」
「え? もしかして……福徳生徒会長ですか? 一高の?」
「そうだ。まあ、君は生徒会に所属していたわけではなかったしな。思い出せないかもしれないと思っていたが」
「いやいや! 一個上の最強生徒会長なんてみんな覚えてますよ!」
《ごとうちゃんと【剣姫】がおな高?》
《おもしろくなってきたぜ》
鐵郎の中で一気に恵の記憶が蘇っていく。
高校時代、一つ上の学年にとてつもなく仕事が出来、容姿端麗文武両道の生徒会長がいた。
鐵郎も何度か『お世話』になった。
「あの頃の問題児がこんなに立派になるとはな」
「おかあさんかよ。いや、じゃなくて……その節は色々ご迷惑を……」
《ごとうちゃん。なにやったんや》
鐵郎は学生の頃からお笑いに夢中になっていた。そして、今と変わらず無茶苦茶な ネタが好きで、文化祭で生クリーム大砲どつき漫才をやったことがある。
その時、とても『お世話』になったのが生徒会長である恵だった。
「今でも生クリーム大砲はやってるのか? ふふっ……」
《【剣姫】のこんな穏やかな笑顔初めて見たわ》
《結構銀チャンでは厳しい表情ばっかりやしな》
《これだけでもこの配信見た価値あるわ》
《ていうか、【剣姫】登場を聞いて結構見に来たヤツいるしな》
《あと、イレギュラー関連でもめっちゃ来始めた》
「えっ!!!!!?」
恵の美女過ぎる微笑みに思わず視線を外した鐵郎はコメント欄を見て驚愕する。
(え? マジ? 視聴者数10,000越え? いきなり!? や、やばい! ここは何か爪痕を残さねば!)
もう十分イレギュラー撃破という偉業を達成している鐵郎だったが、鐵郎の基準は爆笑をとったかどうか。必死に脳をフル回転させる鐵郎。そして、突如、声を上げて深刻な顔をし始めた鐵郎に恵は心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫か!? ごとうちゃん!? 急に声を上げて怪我でもしたのか!?」
(そ、それだー!)
恵の一言に一筋の光明を見出した鐵郎は、ぐるっと身体を反転させお尻を突き出す。
「いやー、さっきの蠍にヒップアタックしたせいかお尻が割れましたわー、ふた、つ、にぃいいいい!?」
「何!? 尻が割れたのか!? だ、大丈夫かぁあああ!? ええい! パンツ越しでは分からんな! 脱げ! ごとうちゃん!」
「い、いやぁあああああ! それは流石にBANされちゃう! BANされちゃうからぁあああ!」
《悲報ごとうちゃん剣姫に襲われる》
《※これは治療行為です》
《妹ちゃんの絶妙なカメラ位置調整流石》
ふわりはスキル【危険察知】を発揮し、すぐさまカメラを鐵郎の顔のアップが撮れる位置に変え焦る鐵郎を映す。
「い、妹! 兄がパンツ脱がされそうになっている恥ずかしフェイスを撮ってんじゃないよ! い、いやぁあああ!」
《ごとうちゃん、かわいい》
《赤面ごとうちゃんかわいい》
《まさか俺が男にキュンする日が来るとはな……》
数分後。
「す、すまない……そういうギャグだったか。そういうのに疎くてだな」
「でしたね昔から……ううっ……もう、お婿に行けないわ」
《ボケずにいられないごとうちゃん》
《ごとうちゃん、もういい、もういいんだ》
《さっきのパンツ脱がされは迫真のえんぎだったなあ》
ようやく通常の戦闘服に戻った鐵郎が両手で顔を覆いいやいやと首を振りボケる。
だが、悪手。
学生時代からクソ真面目一筋でお笑いのボケをあまり分かっていないクソ真面目剣士には完全な悪手。
「そうか……お婿に行けないか……」
《あ》
《あ》
《アッー!》
コメント欄の「あ」の嵐に気づかない鐵郎は突如そのコメント流れる籠手のついた腕を掴まれ目を丸くする。その視線の先には顔を真っ赤にさせる黒髪ポニーテール美女。
「し、仕方あるまい……助けられた恩もあるしな……その……私が、一生をかけて責任を、せ、責任を、とりょっ……と、とろう……!」
《キュン》
《きゅん》
《きゅん》
《おめでとう!》
《あああああああああ! わたしのごとうちゃんさんがぁああああああ!》
祝福と怨嗟の声が渦巻くコメント欄をよそに鐵郎はムン●状態で揺れていた。
(いやいやいや、何言っちゃってんの!? この人! え!? ボケ!? ボケだよね!? 昔からこの人演技が迫真すぎてわかんないんだけど! ていうか、1万人以上にこれ見られてるんだよ! 分かってんの、この人! ていうか!! かかかかわいすぎるんだが、かわいすぎて美人過ぎるんだが!? こんな美人ちゃんかわいこちゃんかわいこちゃん美人ちゃん美人ちゃんかわいっ……! ああああああああああ! やめてやめてやめて、こんな純情乙女風な顔見せられたら、惚れてまうやろぉおおおおおおおおおおお!)
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