第4話 強襲! ケツこんぼうゴブリン!

『3,2,1,きゅー』


『ががががぎぎぎぎぐぐぐぐげげげげGOTOヘブン! ごとうちゃんでっす! はいじゃあ、皆さんお待ちかねのダンジョン配信、ごとうちゃんD-tuberデビュー配信をやっていきたいと思います!』

《おお、始まった》

《初見です》

《後藤さんダンジョンデビューおめでとうございます!》


 ふわりにカメラを向けられながら鐵郎が芸人時代からおなじみの挨拶をすると、僅かばかりではあるがコメント欄にコメントが書き込まれる。鐵郎はふわりに用意してもらったコメント表示用兼防具である小手を見てコメントを確認する。


『おおー、りささん久しぶりです! 初見!? ありごとうございます! 今回はE級ダンジョン【小鬼の洞窟・武甲山】に挑戦したいと思います』

『説明しよう。武甲山ダンジョンは知っての通り登山口の鳥居がゲート化し……』

《かわいい声解説助かる》

《これが本編か》


 鐵郎をフォローするようにふわりのナレーションが挿し込まれ鐵郎は鳥居に近づいていく。

 ダンジョンはこの世界に現れるわけではなく、『何かの出入り口』がゲート化しダンジョンと繋がる。【小鬼の洞窟】は全国各地にあり、初級の登竜門として有名だった。

 鐵郎が目を凝らすと鳥居の入り口が異様なオーラを溢れさせそこだけ空気が違うような気がして少し身を固くする。


『ふぅ……では、ごとうちゃんいっきまーす!』

《がんばえー》

《がんばれ、後藤》

《ごとうちゃん、な?》


 鐵郎が意を決しダンジョンへと飛び込んでいく。ゲートに入るのは初めてではない。トレーニング用ダンジョンもトレーニング用とはいえダンジョン。魔素と呼ばれる魔法の元が存在するダンジョンを冒険者協会が管理しているもの。そこで魔物の数を調整し、初心者のトレーニング用に開放している為、24時間協会から派遣された冒険者が常駐している。


 だが、トレーニングダンジョン以外のダンジョンは入り口付近に警備員が配置され無断侵入を防ぐ以外は何もされていない。ここからは自己責任の世界だと明確に協会が意志表示をしている。


 もしかしたら、いきなり魔物に攻撃されるかもしれない。


(その時、俺はちゃんと対応できるのか……!)


 鐵郎の不安は的中してしまう。

 運悪く、小鬼の洞窟の名前の由来、小鬼ゴブリンといきなり遭遇。目の鼻の先。

 ゴブリンも多少慌てているが、獲物を見つけたと意気揚々と手に持っているこん棒を振り上げる。


「くそ! 間に合えぇええええ!」


 鐵郎は顔をゆがめながら必死に自分の身体を操りゴブリンのこん棒を受け止めた。

 ケツで。


「いたああああああああ!」

《いきなりゴブリン遭遇》

《何故ケツでうける?》

《ごとうちゃんやぞ》


 痛みはある。鐵郎のスキルに【痛み軽減】があっても痛いものは痛い。そもそもこん棒はケツで受けるものではない。

 だが、鐵郎はケツで受ける。そして、ケツでこん棒を右に受け流し、左後ろ回し蹴りでゴブリンの左側頭に強烈な一撃を与える。

 吹っ飛んだゴブリンは壁に叩きつけられ動かなくなる。


「見たか! ごとうちゃんケツブロック!」


 総勢10人のコメント欄が盛り上がる。


《ケツブロックってなんだよ!》

『ケツでブロックすることです』

《なにを守ったんだよ!》

『えー……命!』


《ゴブリンのこん棒をお尻で喰らって平気なんですか?!》

『あ、ごとうちゃんは特殊な訓練を受けています。良い子はマネしないでね』


《いやケツブロックよりその後の蹴りがとんでもない威力なんだが!?》

『ケツブロックよりってなんだー!? 大事でしょうがケツブロック!』


『コメント返しも大事だけど、にいさん。魔核の回収を』

『お、そうだな。ごとうちゃ~んきゅうけっつ!』


 鐵郎がそう叫び、死んでいるゴブリンにケツを向けると、ゴブリンの身体は魔素化し、鐵郎のお尻に吸い込まれ、緑の小さな魔石の結晶、魔核がころんと地面に転がる。


『お、緑の魔核ゲッツ! じゃあ、次のゴブリンを……』

《魔素化吸収使えるの!?》

《ていうか、普通で手から吸うでしょ!》

《後藤、何者!?》

《ごとうちゃん、な?》


『うう……! し、尻が、割れました……! なーんちゃってのごとうちゃん♪ じゃあ、つぎいきまーす』


 とんでもない速さで流れていくコメント欄を無視して鐵郎はダンジョンの奥へと歩き出した。

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