第37話 雨のなかのカウントダウン
もうすぐ午前0時になります。あと5分ほどです。
店のなかには、10数人のお客さまがおられます。みなさん、レジに並ぼうとしていません。かといって商品を選んでいるわけでもありません。目を輝かせて談笑するカップルが顔を寄せてスマホを覗きこんでいます。壁時計をしきりに見ている人もいます。もうすぐ新年がはじまることにソワソワしているみたいです。
米兵と女の子たちは笑っています。
カフェマシンのあるところが、少し広くなっていて、そこに集まって円陣を組んでいました。他のお客さまにも声をかけて、その円陣のなかへ入れと誘っています。楽しそうな円陣ができあがりました。
日本人女性の2人組が円陣の輪のなかへ入りました。背の高い黒人がスマホを見せて、あと少しで新年になることを示しています。
わたくしは床の掃除をしました。
レイプ・ドラッグを飲まされたであろう女性が失禁した床をモップで拭きました。
白人の米兵が「カモン!」とわたくしを誘いますが、モップがけを放り出して、その輪のなかに入る気にはなれませんでした。
レイプ・ドラッグの女性が嘔吐したトイレの掃除もしなければいけませんし、どこか異臭がするのも消さなければいけません。
駐車場では相変わらず睨み合いが続いていました。
自衛隊員たちと団結鉢巻さんたちが睨み合っているのです。
自衛隊員たちは、この店にトイレを借りるために寄っただけなのに、米兵と団結鉢巻との紛争に巻き込まれてしまいました。
さらには、レイプ・ドラッグの女性が救急車で運ばれるのを見送ることになりました。
そして、団結鉢巻さんたちの攻撃に耐えることになったのです。
隊員たちのトイレ休憩は終わったみたいですから、出発してもいいのですが、隊長は、団結鉢巻と米兵たちとの揉め事を解消していきたいと思っているのでしょうか。
1人の若い隊員を連れて、また店内に戻り米兵たちのところへ行きました。
二の腕の太い白人米兵と自衛隊の隊長が英語で話しています。
「お楽しみのところ、すみません。外にいる連中をどうしますか? 警察へ引き渡しますか?」
と隊長が言うと、
「いいよ。気にしてないよ。それより、どうだ、お前も一緒にカウントダウンしないか?」
白人米兵が言いました。
米兵たちはそれでいいのでしょうか? 噛みつかれた人もいたみたいですし、ケガをしているかもしれません。傷害罪で訴えることもできるはずです。
米兵たちは、頑丈な体つきをしているので、そんなことは平気なのかもしれません。警察がやってきて、事情聴取とかで、場合によっては被害者である米兵も警察署へ行かなければいけないかもしれません。
団結鉢巻さんたちを許したというよりも、そんな時間がもったいない、いまを楽しみたいということでしょうか。米兵たちは、円陣を組んで楽しそうにしていました。
自衛隊の隊長は外へ出ていきました。若い隊員もあとに続きます。ペットボトルのお茶とおにぎりを買った2人の隊員も外へ出ていきます。
自衛隊員たちが駐車場から出ていけば、静かになるかもしれません。
いよいよカウントダウンが始まりました。
「テン、ナイン、エイト・・・」
店内に陽気な声が響きます。
駐車場でもカウントダウンをはじめたようです。
「セブン、シックス、ファイブ、フォー」
わたくしもウキウキした楽しい気分になりました。
「スリー、ツー、ワン」
クリシュナさんと、恋人さんもカウントしているようです。2人で見つめ合って笑っています。マービーもカウントしているようです。
「ハッピー、ニュー、イヤー!」
米兵と若い女性たちは抱き合っていました。
他のお客さまたちも新年を祝っているようです。若いカップルはハグしています。観光客の女性たちは手を取り合って小躍りしています。
クリシュナさんとマービーはグータッチをしていました。
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